第10話
「ふーむ、これが瑚岳の森かぁ……」
瑚岳の森は、8層の4分の1ほどを占める非常に大きな森だ。
このゲームは下に降りれば降りるほど層の大きさが広くなっていて、8層の4分の1ほどと言えば、大体1層と同じくらいの大きさだ。
その1層と同等の大きさの森には、大小様々な木々が鬱蒼と生い茂っている。階段を下ってくるときに見たのだが、1層や2層で見たような森に比べて全体的に黒っぽい色をしていた。
6層のよう分からんネタボスを倒し、7層を突破するまでに大分時間が掛かってしまい、くろねを待たせてしまっている。
6層までは楽々突破出来たのだが、7層になってくるとフィールドを移動するのが大変で、出てくるモンスターも強くなってきているので一苦労だった。
7層は初めの町からボス部屋までの距離が遠くて、マップ左下スタートで上側中央がボス部屋。移動に大分時間が掛かったのだ。
途中クエストに引っかかり、橋が落ちてその復旧クエストで大分時間を取られてしまった。まあスキルを手に入れられたので別に良いのだが。
ちなみに8層はそれよりかはマシで、下寄り中央スタートの上寄り中央がゴールだ。
瑚岳の森は左下の方に広がっている森なので、普段のボス部屋一直線ルートでは通らない場所にある。あまり道から逸れて、いや、道を逸れまくって一直線でボス部屋まで行くという攻略方式をとっていたせいで、こういった森にはあまり来られていなかったのだ。
こういう機会だし、思う存分楽しみながら攻略したいと思っている。
いざ森へやってきたが、森内部は樹海のようになっていた。
苔むした美しい森だが、所によっては薄く霧がかっていて、どこか不気味な雰囲気を醸し出している。
森の中にはオオカミの声が響く。おそらくこれが私が狙っている黒牙狼の鳴き声なのだろう。
森の中央部には岩場が広がっていて、そこにはゴーレムが出没するらしい。ただ、今回はあまり興味がないので立ち寄らず、さっさと黒牙狼を討伐する。ちなみに、ゴーレムは通常のロックゴーレムの他に特殊ゴーレムが存在している。
特殊ゴーレムの例としてアイアンゴーレムや、ジオードゴーレムなんかが当てはまる。
これらは生産職向けに非常に高く売れるそうなので、お金に困ったら是非討伐に来ようかなと思っている。
硬く倒すのが大変で、武器によっては耐久値の減りが凄いことになるそうなのだが……。
この森には影が多い。したがって影移動を利用する点が多く、非常に戦闘しやすい。入り組んだ木々や、薄い霧も女忍者にとっては戦いやすいフィールドだ。
ただ、岩が露出し、そこに苔が生えている森の中は、つるつるとして歩きにくい。そのため、ここはスキルを使って効率的に移動をすることにした。戦闘時も足を滑らせないよう、気をつける必要がありそうだ。
「テレステップ」
8層へやってくるまでの間に新しくテレステップというスキルを入手した。例のクエストのクリア報酬である。
テレステップというのは、簡単に言うと影移動の影に潜らないバージョンと行った所だろうか。視界の範囲に自由にテレポートみたいに飛ぶことができる。
クールタイムはテレポートした距離によって変わるのだが、このように木々が生い茂っている地形の場合、クールタイムを加味してもこれでステップ移動をした方が早い。
今までの影移動と違って視界が真っ黒にならないので非常に扱いやすい。問題は体勢が固定されてしまうということだろう。椅子に座った状態で発動すれば、空気椅子状態の完成だ。尻もちをついてしまう。
そのため、使いどころは考える必要がありそう。少しジャンプしながら発動すると良さそうだ。
森の少し奥にやってきた。女忍者特有の感覚なのだろうか。付近に敵がいる気配を感じる。
周辺の巨木の枝に上がり、そこでじっと耳を澄ませると、目を閉じていても森の中の様子を把握出来る。
ガサガサと揺れる木々の音の隙間、ゴソゴソと地面を何者かが歩く音がする。
数は2、いや3だろう。大きさはそこそこ。全長は私より大きいだろう。ゴーレムほど大きくはなさそうだ。おそらくコイツが黒牙狼なのだろう。
黒牙狼は瑚岳の森においては昼夜問わず出没するのだ。
私の背中、茂る木々の合間合間にこちらを様子をうかがう視線。一気にけりをつける。
私の今のレベルは27。8層の推奨レベル、出てくるモンスターの平均レベルを考えても十分対応出来る。オオカミ型のモンスターは既に戦闘済みだ。
気をつけるは口元に付いた大きな牙。噛まれるところによれば一気にHPを持って行かれるだろう。
ならば噛まれなければ良いだけ。
よしっと気合いを入れ、一気に後方へとステップを踏む。
「見えた! 3匹!」
自慢の脚力により飛び上がった際、体をひねらせて視界の中央に真っ黒なオオカミ型のモンスターを3匹捕らえた。
特徴的な真っ黒い2本の牙は、そいつらが黒牙狼で間違いないことを教えてくれている。
私が飛び上がったのを見て、上方向への攻撃に弱いオオカミ型のモンスターは、ずるっと地面を踏ん張るように後ずさりした。その目は私を追っている。
大きく体をひねらせ、空中で姿勢を変えると、そのままテレステップを発動して3体の黒牙狼の付近にある木の幹にとんだ。
そのまま太い幹を蹴り上げて一気に1匹の黒牙狼めがけて突っ込んでいく。
必要な牙の数は2本。ドロップ率を考えても十分3匹で事足りる!
くろねにもらった純白の美しい日本刀が、木漏れ日を反射しキラリと光る。その光は、吸い込まれるように黒牙狼の漆黒へ埋まっていき、そのまま首をかり落とす。
「おお、切れ味えぐ……」
あまりの切れ味に驚いていると、他の2体がこちらめがけて飛び込んできたので、スキルを使わず一気に後ろへ飛び上がる。
服の内側からクナイを取り出すと、それを黒牙狼めがけて投げる。
惜しくも外れたクナイは、地面に突き刺さるとそのまま私の手の中へと戻ってきた。
それが戻ってくると同時に、影移動を発動して黒牙狼の影へと潜ると、飛び上がるように勢いよく飛び出し、肉を切り裂いた。
「えぇ……、んなことある??」
すぐに終わった戦闘。キラキラとエフェクトを出しながら消滅した3体の黒牙狼。
ドロップ率80%を超える黒牙狼の牙が1つもドロップしなかった。
「なんでぇ?」
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