第2話 魔道具師
目を覚ますと、俺は倒れたのと同じ場所に寝そべっていた。とりあえず生きてた。よかった。
「イテテ……ッ」
蹴られたあちこちが痛むけど、動けないほどじゃない。身体を起こすと、空は見事な満月。パーティーを追放されたのはまだ日が高い時だったから、そこそこ寝ていたらしい。
服についた砂を払い、ズボンのポケットをまさぐる。最後の調理に使った火起こしの魔道具が入りっ放しだったけど、後は小銭しか入ってなかった。ほぼ身ぐるみを剥がされたことになる。まじで強盗じゃねーか。
ぐうう、と腹の虫が鳴く。凹んだ腹をさすりながら、溜息を吐いた。
「この後どーしよ……」
困り果てて、立ち尽くす。
俺の職業は、魔道具師。出身の村ではみんな魔道具師だったから、割と普通の職業だと思っていた。でも、王都に出てきたら「ナニソレ」って言われて、なかなかパーティーに入れてもらえなかったんだ。
それでもようやく【鳳凰の羽】に入れてもらえて、何度もダンジョンにも潜り。魔道具の制作に必須な魔鉱石を手に入れられるようになって、さあこれから魔道具を大量生産して売って金持ちになってすごい素材を入手して……てところで、まさかの追放だ。ふざけんな。
魔道具師は、その辺にあるただの素材に魔鉱石を特殊魔法でエンチャントできる存在だ。例えば俺が持ってたただの皮の鞄も、エンチャントして大量の物が入るマジックバッグになっている。
エンチャントは、武器にも薬草にもできる。魔鉱石の種類によって、可能性は無限大に広がるんだ。それが魔道具。すごくね?
この特殊魔法っていうのが、村から門外不出の秘術だった。なので、村を出る者はみんな「沈黙の誓い」を立てさせられる。喋ろうとした途端、口が閉じて開かなくなる呪いみたいなもんだ。
これも「誓いの書」っていうエンチャントされた本を使用している。口が閉じると飲み食いできなくてマジで死ぬので、みんな絶対言わない。村に戻れば元に戻してくれるけど、そうするともう二度と外に出してもらえない――という恐ろしい呪……誓いなのだ。
俺は、村の周りでは取れない魔鉱石や素材が欲しくて、村を出た。これまで入手した魔鉱石にレアものはまだなかったけど、それなりにいいものもあった。それが全部入った俺のマジックバッグを、あいつらめ……!
とにかく、今日は安全に野宿できる場所を探して、明日になったら町に戻ろう。ギルドに盗まれたって言えば、もしかしたら一部は戻ってくるかもしれないし。
「よし、とにかく寝る場所を探そう」
ダンジョン前は、結構危険だ。時折中からモンスターが出てくることもある。あいつら、よく俺をこんな所に置き去りにしたよな。まあ、ダンジョン内に置いていかれるよりはマシかもしれないけど。
「結構いい奴らだったんだけどなあ……」
項垂れながら、トボトボと歩き出した。
【鳳凰の羽】に加入して、そろそろ半年が経とうとしていた。それまで俺たちは、男四人で仲良くやってきたと思う。魔道具を駆使して戦う俺を最初は「何こいつ」みたいな顔で見ていたあいつらも、次第に俺を認めてくれていた筈だ。
それが段々とおかしくなったのは、とあるダンジョンの入口で「あの、アタシ仲間とはぐれちゃって……!」と目を潤ませながら駆け寄ってきたレイナと出会ってからだ。
俺は職業柄、鑑定ができる。念の為鑑定したら、男って出た。
まあ鑑定なんかしなくても骨格からしてどこからどう見ても男だったんだけど、あいつらはレイナの顔とミニスカから飛び出す生足にすっかり騙されてしまったらしい。
あっという間にパーティーに入り込みチヤホヤされて、レイナは段々と調子に乗り始めた。
盗賊っつっても宝箱の鍵を開ける程度しか能力がない癖に、気が付けばすっかりパーティーの中心にいたレイナは、俺だけがチヤホヤしないことが気に食わなかったらしい。
ある日呼び出されて、壁ドンされた。
「あんたさ、どーしてアタシに靡かない訳? こんな可愛いのに」
「どうしてって……」
俺、男はちょっと。
と、レイナが突然笑い出す。
「あはっ! じゃあ、あんたをアタシの専任治療係にしてあげるねっ! アタシの魅惑ボディに触れたら、きっとホルストも……っ」
いや、だから男はちょっと。
「……あのさ。お前の目的はなに?」
何がしたくてこんなことをしてるのか心底分からなくて、尋ねたら。
驚きの答えが返ってきた。
「目的? そんなの、総愛されに決まってるじゃない!」
は? て思ったね。
レイナは、なんかいっちゃってる目をしながら語った。
「全人類がアタシの美貌を称えるの! どこへ行ってもアタシを称賛する声で溢れる世界、素敵じゃない!?」
「は?」
「アタシの寵愛を得たくて争う人々……! 考えただけで、うふ、ふふふ……っ!」
一生分かり合えることのない人種と出会ったと思った瞬間だった。
「あいつら……大丈夫かなあ……」
本当は悪い奴らじゃなかったんだ。仲間だった俺を殴ったり蹴ったり強奪するような人間じゃ……。
「ぐすっ」
いつの間にか流れていた涙と鼻水を袖で拭う。
かと言って、俺があいつらにできることはない。あいつらが選んだのは、俺じゃなくてあの男の娘なんだから――。
パン! と自分の両頬を叩く。気合いを入れ直すと、今宵の野宿の場所を確保するべく歩を進めた。
くよくよしても、レイナに乗っ取られた【鳳凰の羽】に戻れはしないんだから。
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