セクハラ疑惑でパーティーを追放されたけど、ドラゴンが仲間になったので最強の魔道具師を目指します

ミドリ

第1話 セクハラ疑惑

 ダンジョンを出たところで、突然リーダーに正面から突き飛ばされた。


 ドンッ! と勢いよく尻もちをつく。ぐお……っ!


「おい! 突然何すんだよっ!」


 俺は強打したケツをさすりながら、所属している冒険者パーティー【鳳凰の羽】のリーダー、アレックスを睨みつけた。


 アレックスは斧使いで、はっきり言って猪突猛進の脳筋だ。前からちょっと粗暴なところはあるとは思ってたけど、いきなり仲間を突き飛ばすってどういうことだよ!


 アレックスは腰に手を当ててふんぞり返りつつ、怒鳴った。


「黙れホルスト! このセクハラ野郎が!」

「……はい?」


 セクハラ野郎? この人、何て言った? 意味が分からないんだけど。


「あのさ、何言ってんの? 誰が誰にセクハラしたって?」

「とぼけるな! 証拠は揃ってるんだ!」


 こみかみに青筋を立ててがなりたてられても、覚えがないものはない。――そもそも。


「証拠って……。だってこのパーティーには、」

「うるさい! 口答えするな!」


 アレックスは、力任せに俺の前の地面に斧を叩きつけた。土埃が舞い上がる。


「ぶはっ!」


 けむっ、と咳き込む。


「げほっ、レイナ、おいで、ごほっ」


 おい、やっといて自分も咳き込んでんじゃねーよ。


 呆然と見上げていると、アレックスは自分の背中に隠れていた盗賊シーフの名を呼んだ。


「アレックスぅー。アタシこわーい」

「レイナ、大丈夫だからな! 俺がお前を守ってやるからッ!」


 アレックスの鼻息が荒い。レイナはピンク色のツインテールを弾ませながら、アレックスの腕に縋り付いた。


「アレックス頼りになるうー、格好いい! 惚れちゃうっ」

「ふ、ふふ」


 気持ち悪い笑い方をしているアレックス。いくらレイナの見た目は可愛いからって、うちのリーダー大丈夫か。


 ちなみに他の仲間である戦士と僧侶の二人も示し合わせてるのか、ふんぞり返りながらアレックスたちの後ろに立っている。チラチラと目線がレイナのミニスカから伸びた足に注がれてるのは……悪い、ドン引くわ。


「……で、誰が誰にセクハラしたって?」


 立ち上がりながら、ケツの砂をはたく。


 こんないたいけな青少年を捕まえて、何がセクハラだ。俺はレイナに「……地味」と言われた黒髪を掻き上げると、アレックスを睨みつけた。


「すっとぼけるな! 知っているんだぞ! 以前レイナが怪我をした時、上半身を脱げと言っただろう!」

「あー、言ったね。だって怪我があったし別に、」

「ポーションを出し惜しみし、効果の薄い薬草を、服をめくって、な、な、生足に貼っただろう!」

「うん、そうだけど?」


 それの何がいけないのか分からない。そもそもレイナの怪我は、毎度毎度怪我と呼ぶのもおこがましい小さなもの。ちょっと草で皮膚を切ったからって、体力を全回復させるポーションを飲ませる馬鹿がどこにいる?


 アレックスが、顔を真っ赤にして震えながら叫んだ。


「なぜポーションを飲ませなかった!」

「いや、必要な……」

「レイナの肌に触れるなど、言語道断!」


 そこか。そっちか。羨ましかったのか。俺はちっとも嬉しくなかったけど。


「本人が手が汚れるからやりたくないって、」

「アタシ……怖かった……!」


 レイナが額をアレックスの肩にぴとりと付ける。


「! レイナ、可哀想に!」


 その人嘘吐いてるよ、「さっさとやれよ傷残ったら承知しねえぞ」って俺に言ってたよ。


 という言葉が出てくる前に、アレックスが宣言した。


「よって、ホルスト! お前は今この瞬間を以て「鳳凰の羽」から追放とするッ!」

「えっ、それは困る」


 ダンジョンに入るには、パーティーへの所属が必須なのだ。ソロ冒険者は死ぬ可能性が高いので、ギルド連盟によって立ち入りが禁止されている。


 上級冒険者になればソロでも入場許可が降りるけど、残念ながら俺の経験値ではまだソロは無理だ。


 だけど、俺の職業上、ダンジョン内でしか採れない「魔鉱石」が必須。つまり、パーティーを追放されると魔鉱石すら手に入れられなくなり――俺が詰む。


「ま、待ってよアレックス! 俺の話も……!」


 だけど、恋に狂ったアレックスは容赦なかった。


「みんな! ホルストが持つマジックバッグを取り上げろ! 今日の戦利品も全てそこに入っているからなッ!」


 アレックスが、後ろの二人に命令した。二人は即座に俺に襲いかかる!


「ちょっ!? 待てよ! これは俺の私物だぞ! 何でもいくらでも入るから便利って人を荷物持ちにしておいて奪うのかよ! やってんのただの泥棒じゃ――ガッ!」


 戦士の拳が、俺の顔に決まった。し、信じらんねえ……!


「この! レイナに触れた不届者めが!」


 僧侶までもが俺を足蹴にする。こいつら……俺の魔道具に散々世話になっておきながらこれかよ!


 キッと睨んだ直後、戦士の蹴りが腹に決まり――。


「……く……しょう……っ」

「わははは! お前の金と魔道具は慰謝料としてもらっていくぞ!」


 どう聞いても悪役のセリフじゃねーか。


 立ち去っていく、楽しげな元仲間の声が聞こえてくる。


「俺たちは正しい行いをしたんだ!」

「レイナを守るのが世の正義だ!」


 アレックスと戦士が誇らしげになんか言ってるけど、お前らがやったのは強盗だぞ?

 

「レイナ殿の為なら、私はこの身をも捧げよう」


 神に身を捧げてる筈の僧侶が世迷いごとを言ってるぞ。神様さ、罰与えた方がいいと思うんだけど。


「みんなありがとー! アタシ盗賊なだけに、みんなのハート盗んじゃっていいー!?」

「レ、レイナ! 俺の心は既に!」

「お、俺もレイナをっ」

「私のハートはレイナのものッ」

「きゃー! みんな大好きー!」


 薄れゆく意識の中、俺は後悔していた。みんな当然分かってると思って、あえて言わなかったことを。


 そいつ……男の娘だぞ……。

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