第17話 二人の行き先
死んだ勇者の友人二人が死んだ、もしくは脱走したらしい。僕の予想が正しければ、それは悠とカンナに他ならない。僕が死んだとして、悲しむ人は限られているからだ。それに、「友人二人」というピンポイントな単語もあることだし。
だから、僕が今デイヴィス王国に帰ったとて、アイツ等に会えはしない。言い換えれば、帰る必要が無い。帰れば、行き違いになる可能性が高いし。
だから、この町でずっと待ち続けていれば、きっと二人に会えるだろう。…本当にそれが悠とカンナで、生きていればの話だが。
「…生きている、かなぁ…?」
二人…特に悠は猪突猛進型…つまり、後先考えずツッコむスタイルだ。カンナも割と本能で動くタイプだから、戦うときに頭を使っていないことが多い。だから、気付いたときにはもう手遅れ…なんてことがあるかもしれない。
それを考えると、あの二人だけで国を抜け出してきて、もしかしたらどこかで野垂れ死んでいたりするんじゃないか、と不安になってきた。でも、だからって方向音痴の僕が動けば、さらに状況が霧の中へと変わっていってしまう。大人しく
「…待つしかないかぁ…」
色々と考えたけど、二人が生きていてくれる方向に賭けて、僕はべルキアに滞在することにした。…べ、別に、寂しくなんて無いんだからねっ!
一方、噂の張本人達である悠とカンナはというと…。
「…今、葉奈があたし達の無事を願っていた気がするわ!」
「お、マジ!? じゃあ、生きてちゃんと町に辿り着かなきゃだな!」
国を脱走して6日目、二人ともバオバブの森の中でピンピンしていた。一応少しだけ擦り傷を負っているものの、カンナが回復魔法をかけたり、その場にあった薬草を使って回復薬を作り、傷を癒したりして一日一日をしのいでいた。
葉奈は二人が頭を使っていないと思っているが、葉奈がいなければ二人でちゃんと考えてくれることを、心配している本人は知らない。葉奈が見ていないところでしかそれは発揮されないので、多分それを知ることは永遠に無いだろう。
「しっかし、どこを見ても木だな!」
悠が言うのでカンナはそれに頷いて、寄ってきたキラーラビットを魔法で仕留める。会話をしている間にも攻撃を仕掛けてくる魔物が鬱陶しい、と彼女は思ったが、それに怒ったところで向こうが人語を理解することは出来ないし、どうにもならないので諦めることにしていた。
「…で、もうすぐ着くのよね?」
「おう! 地図に描かれてる通りに来たんだぜ? んで、そしたらあとはなんか、バーって行って、サーって回って、ドンって行けば、着くってさ!」
「ちょっとセオ、あたしにも分かる言語でしゃべってちょうだい」
「いやいやチャーメン、俺はちゃんとお前に分かるように話してるぜ!」
「せめて擬音語をどうにかして」
「えー!」
国を出る際、足が付きにくいようにと二人で偽名を考えておいた。悠はセオ、カンナはチャーメンとし、これからはその名前で呼ぶことにしていた。
ちなみに、二人の偽名の由来は、セオは「なんか頭に浮かんだから!」、チャーメンは「チャーハンとラーメンを合体させたのよ!」。ザ、適当。しかし、それが彼らなのだから、仕方の無いことだった。
「初めての外国、どんな場所なのかしら?」
「ん-とな、…分かんねぇ!」
「アンタのことだから、そう言うと思ったわ」
悠とカンナ、もといセオとチャーメンが向かっているのは、世界地図を見たときにデイヴィス王国に一番近かった小国だ。
本当はそことデイヴィス王国への道はもっと安全な整備された道が用意されているのだが、それを使ってしまっては冒険の意味が無いし、隠れて出てきた意味も無いし、何より葉奈がそんな場所に居るはずも無いので、獣道まっしぐらの道を選んだのだ。
「じゃあ、どんな場所なのか予想してみようかしら。…あたしは、商業が栄えてる場所だと思うわ! そうであってほしいもの!」
「んあー…俺はー…よし、決めたぜ! 絶対飯が沢山ある場所だぜ! 間違い無ぇ!」
「それって、セオが食い意地張ってるだけなんじゃないかしら…」
そんなおおよそ危険地帯にいるとは思えない会話だが、二人は着実に目的地へと近付いていた。セオもある意味では方向音痴が入っているが、チャーメンが地理は得意なので問題は無かった。セオはそう、スイッチが入れば「真っ直ぐにしか進まない」から、方向音痴と揶揄されるだけで、スイッチが入っていなければそれほど暴走もせず、道もしっかり覚えている。
つまり、葉奈、悠、カンナの3人の中で、致命的な方向音痴であるのは葉奈だけなのだ。
「…あら、人の声がしてきたわ」
「本当だな!」
歩いて1時間したところで、二人は誰か達が魔物を狩っている音を聞いた。人が増えてきたということは、もうそういうことだ。
「うおー、テンション上がってきたー!」
初めての町にワクワクしたセオが、急に走り出す。それを追いかけてチャーメンも走り出す。やれやれと言わんばかりの顔で。
葉奈がいなければ、チャーメンが苦労性になるのが常だった。
「あ、あいつらに聞いてみようぜ!」
「まあ、戦闘の邪魔にならないなら良いんじゃないかしら?」
“コミュ障”というものをまるで知らない二人は、始めに視界に入った見ず知らずの冒険者パーティに話を聞いてみることにした。
「おーい! ちょっといいかー?」
「ん? なんだ君は。俺たちに何か用か?」
セオが話しかけながら近づくと、パーティのリーダーらしき人物が前に出て答えた。当たり前だが、警戒度はマックスだ。
「えーっとなー…えーっと…あれ、何て言おうとしたっけ?」
「ここが『セルカ』かどうかでしょ。話しかけといて忘れないでよ」
彼らに話しかけるため再び走り出したセオに追いついたチャーメンが、若干の呆れを滲ませてセオに言う。
デイヴィス王国から一番近い国セルカが、今回二人が目指した場所だ。が、葉奈は方向音痴のあまりそこを見事にぐるっと迂回して、セルカの先の大国ファストラス…その領地べルキアへと辿り着いているのだった。
そんなことを知る由も無いので、セオとチャーメンはセルカを目標地点としていた。
「おう、そうだった! ここってセルカで合ってるか?」
「…ああ、そうだな。ここは鉱山の国、セルカだ」
急に話しかけられて警戒態勢だった冒険者パーティのリーダーは、その拍子抜けな質問に、きょとんとした表情で答えた。
「マジか! おう、チャーメン! 鉱山の国だってよ! お前の予想は外れたな!」
「アンタの予想も外れたでしょ、セオ」
セルカで合っていたのはいいとして、セオはまだ先程の予想大会を引き摺っていた。彼は毎度毎度妙なことを覚えているので、チャーメンは急に脱線したセオの話にも戸惑わずに返答する。葉奈がここにいたら、「いや、どうでもいいでしょ」とツッコミを入れるかもしれないが、そんなことを気にするのは今は誰もいない。
「あ、そうだ! 兄ちゃん達、教えてくれてありがとな!」
「お、おう…」
「そんじゃ!」
「ちょっとセオ! さっきから言おうと思ってたけど、急に走り出さないでちょうだい! …あ、パーティの人たち、質問したのは一つだけですけれど、答えてくれてありがとうございました。…ちょっと、待ちなさい!」
セオはウキウキでまた走り出し、チャーメンは少し怒りながらそれを追いかけていった。
「…な、何だったんだ…一体…」
不思議なノリの相手に、こちらは戸惑っている冒険者パーティの人たちは、嵐のようにやって来て、嵐のように去って行ったセオと、それに振り回されているように見えたチャーメンに面食らって、しばらくの間ぽかんとしていた。
そして彼らは、二人が入国して見えなくなったところで、ようやく「二人がバオバブの森方向から来た」ということに気付いたのだった。
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