3話 俺の好きな人【Side:有馬 拓】

1 親友と初恋

 有馬ありまは【青城あおき こう】とは家が近所で、彼とは幼い頃から仲が良かった。いわゆる幼馴染みというヤツだろう。彼がどう思っているかは分からないが、自分は親友だと思っている。

 気は合うものの、見た目に関してはタイプが真逆だといっても過言ではないと思う。有馬は活発でスポーツを好んだ。その為、そこそこ日焼けもしているし、髪色は明るく短髪だ。

 それに対し、紅は黒髪で真面目そうな見た目をしていた。インドア派な為かそんなに日焼けはしておらず、端正な顔立ちをしている。


 誰とでもすぐに仲良くなる有馬。

 冗談ばかり言っているが、何処か他人と一線を引いている感じがする紅。

 他人への接し方も真逆に感じていた。


 自分が紅と親友だと断言できるのには理由がある。

 中等部へ上がると、それまで恋愛を恥ずかしいものだと思っていた学生もそれなりに色気づくものだ。有馬ももちろんそちら側だった。モテていた自覚があるだけに猶更。

 しかし紅は違った。冷めていたのである。


他人ひとの気持ちは自分の態度によって変わる。だから好意を示せば好かれることもあるだろう。それを恋だと有馬は思うのか?』

 誰に対しても態度の変わらない紅は男女問わず人気があった。彼と仲良くなりたい者はいくらでもいたと思う。

 しかし、紅がつるむのは有馬じぶんだけ。それを特別だと思ってしまっても仕方がないのではないだろうか。

 人間不信とは違うのだろうが、相手の気持ちは自分の行動次第で変わるものだと思っている彼は、誰といても楽しそうには見えなかった。


 そんな彼は有馬にこんなことを言ったのだ。

『有馬といるのは気が楽だよ。俺の態度次第で変わったりしないから』

 紅はどちらかというと気分が一定に見える。一度だって不機嫌そうにしているところを見たことがない。トチ狂ったことを言っていることはよくあるが。


 ──論理的に他人の心理を考えてしまうところが大変そうだなとは思っても、羨ましいと思ったことはなかった。

 そう、あの時までは。


『有馬の好きは信じられない、こめん』

 可愛いなと思う女子なら、いくらでもいた。

 モテる自覚もあったから、作ろうと思えば恋人だって作れたに違いない。

 だが初めて恋をした相手は、紅と仲良くしている女子生徒だった。

『わたし、青城くんのことが好きなの』

 【荻那 馨】は、はっきりとそう言ったのだ。


 確かに容姿が優れており、可愛い子だとは思っていたが何も容姿に惹かれたわけではない。初めは入学当時から紅とよく一緒にいるのが気になっていた。

 紅がつるむのは自分くらいだったし、女子生徒と懇意にするのも珍しいこと。中等部の時は確かに委員会や図書委員の仕事が終われば当番の重なった女子学生と一緒に帰っているのは見かけていた。

 だがそれに関して紅は『暗い中を一人で帰すのは危険だろ?』と言っていたのだ。相手と仲が良いと言うよりは、男として送るべきだと言っているように感じていた。

 

 そんな紅が特定の女生徒と一緒にいるのだ。

 しかも美少女。

 気にならない方がオカシイ。

 だがその時点では、気になる程度。


 意外性を感じたのは、彼女がサッカー部のマネージャーとして入部した後だった。

 正直、荻那がマネージャーになったのは男にチヤホヤされたいからなのかと思っていた。

 それが真面目にマネージャー業務をこなしていたのである。


『荻那はなんでサッカー部のマネージャーをしようと思ったんだ?』

『青城くんが有馬くんの話ばかりするから』

 てっきり自分に興味を持ってくれたのかと思ったらそうではなかった。

 彼女は紅の話す有馬に興味を持ったのではなく、紅の話を理解したいと思ってサッカー部に携わろうとしただけ。


 ──それでも一所懸命、真面目にマネージャーを務める荻那が素敵だなと思った。気づいたら好きになってた。


 だがどんなに好きになろうとも、彼女の眼中に自分はない。

 『中等部の頃、委員会が同じでよく一緒に帰っていたのは自分だ』と彼女にカミングアウトされた時、有馬は悟った。この先どんなに好きだと言ったところで彼女の気持ちが自分に向くことは無いと。

 初めて紅が羨ましいと思った。心の底から。

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