第3話 未来予知
「待って下さい。いきなりこんなこと言っても信じて貰えないかもしれませんが、この後、殺されます」
アリアが今見た未来は、この後、起きてしまう事だ。未来予知の力は近い未来、遠い未来に起こり得る物を見せる。
何も言わずにこのまま男二人が立ち去る背中を見送り、別れることも出来たが、アリアは赤の他人である自分を心配して駆け寄り、声を掛けてくれた人の命が奪われることになるのは、とても嫌だと思いこれから起こり得る出来事を伝えることを決めたのである。
「えっと、殺されますってどういうこと?」
ミカルはアリアの元に再び歩み寄り、問い掛ける。アリアは目の前にいる男ミカルに未来予知を出来る力を持っていることを伝えないで話すべきか、伝えて話すべきか少し迷う。
それも、小さい頃、両親に自分以外の人間に未来予知が出来る力を持っていることを決して教えてはいけないと言われたことがあるからだ。
「此処に居ては見つかってしまう可能性があるので、一度、王都から離れた場所でお話ししたく思います」
「わかった。ディオール、一旦、帰るぞ」
「はい。承知しました。ミカル様」
アリアとミカル、ディオールの3人は賑わう王都の街並みに背を向けて、歩き始めた。
✤
「此処でいいかな? 人通りも少ないし」
ミカルは一通りの少ない王城へと続く坂道の途中で立ち止まりアリアの方に顔を向ける。
ミカルはアリアが殺されます。と言ったことに少々、困惑していたが、目の前にいる少女が纏う雰囲気は、何処か異質に見えた。だからこそ、赤の他人ではあるが、話しを聞かなければいけない気がしたのだ。
「大丈夫です。先程はいきなり殺されます。と言ってしまいすいません。その、私、未来を予知出来る力を持っているんです。そうなる未来を先程、見たので」
アリアは自分の力を伝えて話すことを選んだ。自分の力を伝えることは、ある程度のリスクも伴うかもしれないことを理解した上であるが、何故か話さなければいけない気がしたのだ。
「未来予知?」
「はい。近い未来、遠い未来に起こる出来事を予知する力です」
「なるほど。その力が君にあるとして、君が見た未来は俺とディオールの命に関わることであったと? そういうことかな?」
理解が早くて、助かるとアリアは心の中で思いながら、ミカルを見て強く頷く。
「そうか、心当たりはいくつかあったんだ。あ、君、名前は何て言うの?」
「アリアです」
「アリア、俺はこのリディアール王国の第一王子ミカル・ウィルタリアだ」
ミカルにそう告げられたアリアは驚いた顔をする。このリディアール王国の第一王子であるなど思ってもみなかったからだ。
「殿下、お忍びで王都に来ていたんですから、もう少し隠されてた方が良かったのでは?」
「確かにそうかもしれないが、彼女は悪人には見えない。普通の女の子だ。俺が言うんだから間違いない」
「確かに、こんなか弱く見える少女が悪人であるはずがありませんね。失礼しました」
アリアはミカルとディオールのやり取りを聞きながら、ふとあることに気付く。
ミカルからディオールと呼ばれた男は、どうやらミカルの側近のようだ。よく見ると腰辺りに剣を下げている。
「ミカル王子殿はこれから城に戻られるんですか?」
「ああ、王都に用があったんだが、命を狙われている連中と遭遇する可能性が高いとなれば、戻ることは避けた方がいいだろうしな」
「そうですか。申し訳ありません」
「アリア、お前が謝る必要はない。何も悪いことをしていないんだ。むしろ俺は感謝している」
ミカルの優しい声は心地良い春の風に乗り、アリアの耳に届く。
ミカルとの出会いによって、アリアの平穏な日常が少しずつ壊されていくことになるのは、まだ少し先のこと。
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