第2話 王都ルティール

「王都ですか?」

「ああ、王都の茶葉店で取り寄せた茶葉が届いたみたいでな。本当なら私が取りに行くべきなのだが、長老として村を離れる訳にはいかなくてな」


 ベルディは申し訳なさそうにアリアを見る。アリアはそんなベルディの役に立ちたいと思い返事を返す。


「そうですね。いつ取りに行けば良いでしょうか?」

「明日、取りに行ってきてくれるか」

「わかりました」

「ああ、ありがとう。アリア」


 

 翌日、王都に昼頃に到着する為にアリアは早朝に村を出た。朝の空気がアリアの肌に心地良く当たる。


「気持ちの良い空気ね」


 アリアのコツコツという足音と両側に立ち並ぶ桜の木々が揺れる音が心地良く混ざり合う。

 アリアは初めて行く王都に心躍らせていた。

 人から聞いた話しでしか王都のことを知らないアリアにとっては未地の場所である。そして思う。まさか、自分の目で王都の街並みを見れる日がくるなんて思いもしなかったと。

 お母さんとお父さんがあの日、行く予定であった場所王都に私は行けるのだ。

 


 昼過ぎ頃にリディアール王国の王都ルティールに着いたアリアは、人で溢れ賑わい、色鮮やかな建物が並ぶ王都の街並みを見て、息を呑む。アリアが想像していた王都の街並みとは大分、かけ離れていたからだ。


「想像の遥か上をいったわ。凄い……」


 アリアはそう呟き、止まっていた足を動かし、目的の場所へと歩み出す。

 王都の街並みを横目に見ながら、アリアは思う。もし、あの日、お母さんとお父さんが王都に行く途中で賊に襲われることがなかったら、家族3人で王都に来ることもきっと出来たであろう。アリアは通り過ぎて行く家族連れや、急ぎ足で何処かに向かう人、恋人同士と見られる男女が手を繋いで幸せそうに歩く姿を視界にいれながら、少し羨ましく思ったが、長老のベルディからの頼まれごとで王都に来れたことがアリアにとっては幸せなことであると再確認し、人混みの中を進んで行った。



「茶葉店、ここかな?」


 クリーム色の二階建ての建物の前で足を止めたアリアは、茶葉店と書かれた看板を見てから、店のドアを開ける。


「いらっしゃいませ」


 若い女性店員にそう挨拶され、アリアは軽く会釈し店員に声を掛ける。


「あの、取り寄せた茶葉が届いたみたいで、取りに来たんですけど」

「わかりました。ちょっとお待ち下さいね」


 店員にそう言われ、アリアは頷く。

 女性店員はレジにいた男性店員に声を掛けてから、足早に茶葉を取りに奥へと消えて行く。

 数分後、綺麗にラッピングされた瓶を手に持ち、アリアの元まで来た先程の女性店員は、そっとアリアに瓶を手渡す。


「ベルディ様からのお取寄せで間違いないでしょうか? お名前、ご確認下さい」

「はい。間違いないです」

「では、こちらお支払いの際、レジにお越し下さい」


 女性店員はアリアにそう告げて、立ち去って行く。アリアは他の茶葉もせっかくだから見てみようと思い、店内にある茶葉を見始める。

 その後、一通り、店内の茶葉を見終えたアリアは、会計を済ませ店を後にした。


 ✤


「これで、ベルディ長老に頼まれた用事も済んだし。んー、帰るにはまだ早いわよね。折角、王都まで来たんだから、もう少し色々見て周ろうかしら」


 アリアはそう言い歩き出そうとしたが、頭に強い痛みが走り頭を抑える。


「うっ…… 痛い……」


 辛そうな声色で呟いても、周りは見て見ぬふりをして通り過ぎて行く。

 あまりの痛さに立ってられず、その場にしゃがみ込んだアリアに通り過ぎて行った若い男二人が気付いたのか、駆け寄り声を掛けてくる。


「大丈夫か?」

「ディオール、ちょっとこの荷物持っててくれ」

「え、ちょっ、ミカル様」


 ミカルと呼ばれた男は、ディオールというもう一人の男に手に持っていた荷物を持たせて、しゃがみ込んだアリアに手を差し出す。


「立てる?」


 ミカルの問い掛けにアリアは頷き返す。ミカルはそんなアリアの手を優しく掴み、しゃがみ込んでいたアリアを立ち上がらせる。


「ありがとうございます」


 アリアがそう礼を言うのと同時に、アリアの目の前は暗くなり、頭の中にリアルな映像が流れ込んでくる。

 その映像は目の前にいる若い男二人が王都の街並みの中を歩いていたが、フードを被った集団に囲まれ襲われるという物であった。

 フードを被った集団は若い男二人の内の一人の命を狙っているのか、一人の男に複数人の者達が襲い掛かる。


「待って、殺さないで、やめて……!!」


 アリアの恐怖めいた声に目の前にいたミカルとディオールは驚く。


「顔が真っ青だ。何か怖い事にでも巻き込まれた?」


 目の前にいたミカルの声にアリアは、はっと我に返りミカルを見る。


「え、あ、巻き込まれてはいないです。大丈夫です」

「そう、なら良いんだけど。王都は比較的、安全ではあるけれど、たまに悪い連中もいるから、気をつけてね」

「はい。わかりました。ありがとうございます」


 アリアの言葉にミカルとディオールは頷き、また歩き始めようとするが、アリアの一言によってそれは制止される。


「待って下さい。いきなりこんなこと言っても信じて貰えないかもしれませんが、この後、殺されます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る