第13話 フィリアント砂漠

 フィリアント砂漠に入ったラティアとディークは歩きながら、他愛のない会話をしていた。


「他国から見る夜空も綺麗だけれど、やっぱりラピティーア国から見る夜空の方が私は好きだわ」

「わかります。自国の夜空が一番綺麗に見えますよね」

「ええ、そう言えば、ディーク、貴方は何処出身なの?」


 ラティアは隣を歩くディークを横目に見ながら問う。


「俺は、サティアーヌ帝国の帝都出身です」

「サティアーヌ帝国。人前で肌を見せてはならないという風習がある国ね」

「はい。よくご存知でいらっしゃいますね」

「ええ、知っているわよ。私を誰だと思っているの?」


 ラピティーア国の第一王女であるラティアは、王族として恥がないよう、幼き頃から武芸、作法、学問、芸術など。様々なことを学び、身につけてきた。その中に他国との交渉の際、頭に入れておかなければならない必要最低限のことは幼き頃に徹底的に入れ込まれたのだ。

 

「はは、そうですね。知っていて当たり前のことでした」


 ディークは可笑しげに笑う。そんなディークに釣られるようにラティアもくすくすと声を漏らす。


「目的地に着いたら、私の病は治るのよね」


 ラティアは不安が少し混じっているであろう落ち着いた声色でそう呟く。ラティアの病が絶対に治ると言える程の自信がディークにはなかった為、推し黙ってしまう。治せるとは思うが、もし、治すことが出来ない状況に陥ってしまったら、その時は。

 ディークはもしもの事を考えて決めていたことが一つあった。けれど、それは今、目の前にいる彼女に言うべきことではない。


「ディーク?」

「え……? あ、はい。何でしょう?」

「この、フィリアント砂漠の砂に混じっている白い砂には、女神の祈りが込められているという噂が存在するみたいなのだけれど、貴方は知っていた?」


 ラティアの問い掛けにディークは足を止めて首を横に振る。そんなディークを見て、ラティアも足を止める。そして、ラティアはその場に座り込み、砂漠の砂を両手で掬い上げる。

 ラティアの両手の隙間から溢れ落ちる白い砂。そんな白い砂が夜の月明かりに照らされて、きらきらと光り輝いている事に気付き、ラティアは声を漏らす。


「綺麗……」

「ですね」 


 ラティアとディークの声は心地良い夜の風に溶けるように消えていく。そんな二人の姿を見守るように夜の空に浮かぶ月は砂漠の砂とラティアとディークを姿を照らしていた。

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