第11話 異国の夜

 フィリアント国に入ったディークとラティアは、最終目的地である街【ベルン】を目指して歩みを進めていた。


「空が大分、薄暗くなってきたわね」

「そうですね」


 ラティアとディークの二人になってから、互いに何を話したら良いのか分からず、気まずい雰囲気が漂っていた。


「ラティア王女殿下も疲れていると思いますので、今日はフィリアント国の王都の宿屋に泊まりましょう」

「そうね。ありがとう、ディーク」


 どうやら、ディークは自分ラティアのことを気遣ってくれたみたいである。ラティアはディークの変わることのない冷たくも聞こえる声色とは裏腹の優しさにフィリアント国に入ってからずっと張り詰めていた物が暖かさで剥がれていくような感じがした。


✾      


 フィリアント国の王都に着いたラティアとディークは、王都にある宿屋に泊まる為、二部屋借りようとしたが……


「申し訳ございません。満室でして、一部屋なら空いているんですけど」

「そうなんですね。どうしましょうか? ディーク」

 ラティアの問いにディークは表情を変えることなく返答する。

「俺は構わないですよ」

「そう、わかったわ。じゃあ、一部屋で大丈夫です」

「わかりました。こちら部屋の鍵となります。ごゆっくり」


 宿屋の受付の女性にそう言われて、ラティアは受け取った部屋の鍵を手に、泊まる部屋へとディークと共に向かう為、歩き始める。



 その日の夜。ラティアは中々、寝付くことが出来ずにいた。ラティアは隣のベッドで寝ているディークを起こさないように、静かにベッドから起き上がり、星が瞬く夜の空が見える部屋にある窓の前にそっと足を運ぶ。

 ラティアとディークを先に行かせる為に、国境を繋ぐ橋で盗賊の相手をするべく、その場に残ったラティアの騎士である三人が、無事であるかが、現状わからない為、不安が募る。

 

 己の騎士である三人のことを信頼していない訳ではない。あの程度の人数を軽々相手にし、余裕で倒せる程の実力を持つことをラティアは身を持って知っている。だけれど、実力があったとしても、何があるかわからない。良くないことばかり想像して、悪い方に持っていってしまう。ラティアは気持ちを少し軽くする為に深く息を吐く。


 部屋の窓から見える夜空をラティアが見ていると、寝ていたであろうディークの声が背後から聞こえた為、ラティアは振り返った。


「眠れないんですか?」

「ディーク、ごめんなさい。起こしてしまったかしら?」

「いえ、大丈夫ですよ」

「そう、ならいいのだけれど」


 フィリアント国に入ってから、ラティアは無理に笑顔を作り、平静を装っている。そんな風にディークには見えた。そんなラティアのことを騎士達三人から頼まれたディークは、ラティアの不安をどうやって取り除けばいいのかを二人きっりで歩みを進めることになってから、ずっと考えていた。

 しかし、考えた末にラティアの不安はきっと自分ディークの言葉では拭えない。そうディークは思った。だけれど、こうして近くで彼女を見てディークはそれは違うだろうということに気付く。


「ラティア王女、あの場に置いてきてしまった騎士である彼らのことを気にしていますか?」


 ディークのストレートな問い掛けに、ラティアは動揺し、ディークの方に顔を向けディークを見つめる。


「置いてきてしまったこともだけれど、無事でいるかがわからないから、不安で仕方ないの。私はあの三人が強いことも知っているけれど、強くても運が悪かったら、良くない方に転がる可能性だってある……」

「例え、運が悪いと言わざる得ない状況になったとしても、貴方の騎士達はあんな場所で命を落とすような人達ではないと私は思います。貴方だってわかっているでしょう? 彼らが持つのは強さだけではないことを」


 ディークの言葉がラティアの気持ちを強く突き動かす。ラティアの騎士であるベルロット、バロン、ハレクの三人が望むのはラティアが目的地である【女神の宮殿】に無事に辿り着く事である。騎士達三人が無事であるかということよりも、今は病を治すという目的を果たす為に、歩き続けなければならない。


「ありがとう。ディーク、貴方のお陰で不安に思っていたことが解消されたわ」

「それは良かったです」

「ええ、明日も朝早いし、寝るわ。おやすみなさい」

「そうですね。おやすみなさい」


 その日の夜。ラティアは夢を見た。白い宮殿の床に散らばったアメジスト色の宝石のように美しい欠片を自分ラティアが拾い集めながら、泣いている。


(何故、自分は泣いているの?)

 

 声に出すことが出来ない疑問は、ラティアの胸の中に留まる。ラティアとディーク。そんな二人の先に待ち受ける少し先の未来が、悲しい物となってしまうことを、この時はまだ知る由もなかった。

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