第10話 フィリアント国

 翌日。ラティア達はラパニア国とフィリアント国の国境を繋ぐ橋に向かう為、早朝に王都の宿屋から出発する。

 ラパニア国は自国であるラピティーア国に比べて、人々の賑わいには欠けているが、船で出会ったミリカの言っていた通り、華やかさがあった。色鮮やかな建物、両道に並ぶ店々の窓ガラス越しに品物が綺麗に並べられている。


 ラティアはそんな異国の風景を横目に見ながら、これまでのことを思い出していた。

 船に乗って海を渡り、隣国であるラパニア国にこうして辿り着く前、病を治せることを知り得る青年ディークと出会い、城を出発したのが数日前であり事の始まりである。

 今に至るまで、まだそこまで日が経っていないのに、随分と長い間、己の護衛騎士である三人ベルロット、バロン、ハレク。ディークと共に一緒にいるような感覚になる。

 

 目的地に着くまで、どうか、誰一人、危険な目に遭うことがありませんように。ラティアは強くそう願い、晴れた朝の空を見上げた。



 ラティア達がラパニア国とフィリアント国の国境を繋ぐ橋に着いたのは、昼過ぎ頃であった。


「着いたわね」

「ええ、盗賊は居なさそうですね。と言いたい所ですけど、複数の方向から殺気がありますので、隠れている可能性があります」


 橋をこの場にいる全員で渡り切れれば良いのだが、運悪く全員渡ることが出来ないという事もあり得る。バロンはもしものことを想定した上で、ベルロットとハレクに目配せする。

 ベルロットとハレクはバロンの意図を察したのか互いに頷き合う。そして、ハレクはディークとラティアに小声でこれからの行動を伝える為、声にする。


「殿下、ディーク殿、よく聞いて下さい。私達、三人が盗賊を引き寄せるので、二人は先にフィリアント国に入って目的地まで向かって下さい」

「わかったわ。絶対に死んでは駄目よ」

「安心してください、殿下。私達はこんな所で死ねる程、柔じゃありません」


 ハレクの言葉通り、ハレク含む、ベルロット、バロンの三人の騎士としての実力がかなり高く、ラティアが心配するような事は決して起こらないと本人達が、断言出来る程の強さを兼ね備えている。


「そうね。では、先に行かせてもらうわ」

「ええ、ディーク殿、殿下を宜しく頼みます」

「わかりました」


 盗賊の相手をするべくその場に残るベルロット、バロン、ハレクに背を向けて、橋を無事に渡る為、バロンに言われた通り走り出す。

 ラティアとディークが走りながら橋を渡り始めたその時、バロン含むラティアの騎士達三人の予想通り盗賊が、両サイドの木の影から姿を表した。ベルロット、バロン、ハレクの三人は目の前にいる盗賊達に向けて強く言い放つ。


「お前達の相手は俺達だ」


 ディークとラティアを追いかけて、襲い掛かろうとする盗賊達を制止するべく、盗賊達の前にバロン、ベルロット、ハレクは立ち塞がる。

 背後から聞こえる、盗賊達と己の騎士達三人の剣を交える音がラティアの耳に届く中、ラティアは自身の手を気付かない内にディークに強く握られていたことに気付く。

 ラティアはディークの背を見つめながら、この先、良くないことが待ち構えていませんように。と強く願った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る