中編
「へ~、ヒロって、あの桜花さんと知り合いだったの~」
「まあ、今は違うんだが。向こうは俺のことなんて覚えていない」
「いやいや、幼馴染のことって、そう簡単に忘れるもんじゃないッスよ⁉何、弱気になってるんッスか?マスターらしくねえ」
「いや、違うんだ。彼女は俺のことを忘れてしまっている。彼女は記憶喪失なんだよ」
小学生のあの日、帰り道で血まみれの彼女を見た。ランドセルは遠くに転がっており、彼女は、ユラユラとこちらへと数歩進むと、ヒロトの目の前で倒れた。
彼女が次に目を覚ましたのは、病院だった。ヒロトももちろん、お見舞いに行った。だが、彼女の口からは、自分の名前が出ることはなかった。
病院の人からは、彼女が記憶喪失なのだと知らされた。家族を除く全ての人を忘れてしまっているらしい。
ヒロトは彼女に話しかけなくなった。自分が忘れられていたのが、悲しかった。そのまま、中学、高校と進学し、大学でヒロトは地元を離れたため、彼女とは会っていない。
だが、ある日、彼女をインターネットの記事で見る機会があった。その記事によると、彼女はプロゲーマーとして活躍しているらしい。
ヒロトは、その日にVRマシンを買った。彼女と、桜花と、自分の繋がりが消える前にした約束が、まだ果たせていない。
「でも、よかったのか?大会で優勝できたら、賞金が入る。だから……」
「だから、マスターの願いを無視しろって言うんスか?まずまず、俺たちって大会に出る予定じゃなかったんッスよ⁉︎別に賞金が手に入らなかったところで、何も思いませんよ」
「そうだよ〜。エンジョイエンジョイ〜‼︎ヒロのことを私たちはできるだけサポートするから〜」
「ああ、その通りだ。我等は皆、貴様を助けることに尽力するさ」
ヒロの目の前にいる、忍者のような見た目のキャラが声をかけた。
巨大な体と低い声、そして
「ありがとう、みんな」
「貴様が礼を言う必要は無いさ。とにかく、作戦を考えるぞ。例え我等でも、プロゲーマーのチームと戦うのは難しい」
「そうだな。そこでだ、作戦があるんだが……」
ヒロには、今まで考えてきた作戦があった。自分たちの強さなら十分に可能な作戦だろう。
「あ、そういえば、トーナメントに参加表明してきたんですけど、桜花さんと予選が同じブロックッスよ」
「なるほど〜。じゃあ、私たちは予戦だけ考えればいいんだね〜」
「だが、大会に出るならば勝つぞ。狙うは優勝だ」
「ああ。……出陣だ‼︎」
「「「おう‼︎」」」
数日後、4人は大会会場に立っていた。
大会は25チーム100人のバトルロワイヤル。広大な、さまざまなバイオームのあるフィールドの中に、最後までチームメンバーが残っているチームが優勝となる。
「あれ?マスター、服装変えたんッスね。なんかいつもより、未来っぽいッスよ」
「まあ、今日の作戦のためだからな」
「じゃあ、作戦通りいくよ〜」
「ああ、我とヒロは別行動だ」
画面の前でカウントダウンが始まった。
5。ヒロは息を飲み込んだ。
4。周りの空間が少しずつ歪みだす。
3。他の3人も武器を構えた。
2。ヒロは、今回の作戦の要を取り出した。
1。全員が、前傾姿勢となる。
0。ヒロは手に持ったアイテムを使用した。
「そろそろいいんじゃないッスか?」
「残り10人になったら始めるぞ」
「気配遮断アイテムがあってよかった〜。こんなに高性能だったんだね〜。ウチのギルドのアイテム制作班、恐るべしだよ〜」
「全く同意見だ。どこかのロボットアニメにあった気もするがな。透明マントというのだが」
「これはマントよりデカいからセーフセーフ〜」
「あと一人だぞ。準備しろ」
マントの下、暗闇の中で、4人は準備を始めた。グラムログは、狙撃準備を。フレイは魔法の準備を。ヒロと藍芽は走りだす準備をしていた。
カチカチと時計の音が鳴り響く。そして、プレイヤーの数が10人に変動した瞬間、ヒロは叫んでいた。
「いくぞ‼︎」
「オッケー‼︎
フィールドに爆音が響き渡る。残っているプレイヤーはこの音に驚いたことだろう。多分、自分たちの場所もバレたはずだ。だが、それでいい。
フィールドのちょうど中心に、骨が積み重なるようにしてできた、巨大な塔が生み出された。
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