第54話 春の酷暑な部室にて
小田中東高等学校漫画研究部室にて。
彼女らは締め切りの危機に瀕していた。
「……」
皆黙って原稿に打ち込む。
今年の春は何故か微妙に暑い。
そのため、部室内はイヤな熱気が漂っていた。
こんな季節だというのに、何故か汗が出る。そしてその汗が原稿に滴り落ちる。
とても、いい気分ではなかった。
汗が額から排出されるたびに嫌気がさす。
やべぇどうしよう。人殴りたくなってきた。
そう思いながら、カリカリとペンを紙に滑らせる。
………………。
「いや、暑いですよ!これほんとに4月ですか?!」
私は思わず叫んだ。
「ああ、千穂が叫んだからベタがはみでた!」
「あ、すみません」
*****
「にしても、春のこの暑さは異常だねぇ」
真理先輩はそう言いながら、汗一滴かかず原稿を進めていた。
「真理先輩……。すごいですねぇ……」
「原稿を汚したら大変だからねぇ」
彼女はそう話しながら、また次、また次と作業を進めた。
「ところで、今描いているこの原稿って何に使うんですか?」
「ああ、これはねぇ……」
真理先輩は机をガサゴソして……。
「これだ!」
彼女が取り出したのは『まんがタイムきらら』の漫画持ち込みに関する情報が載っている紙であった。
「ああ、だから4コマ描いてるんですね」
私は今自分が4コマ漫画の手伝いをしている理由をやっと理解した。
まぁ、そんなことを話してはいたが、特に気にせず、私たちは酷暑の中、筆を進めた。
*****
「てか、エアコンつけれないんですかね……」
私はぼそっと呟いた。
「千穂、ここの天井、見たことない?」
天井?
私はその言葉に疑問を抱きながら上を向いた。
そこには、天井には、何もなかったのだ。
「あの……。この部活って、結構活動的でお金もそれなりにもらってるんですよね……?」
「うん」
「そのお金でエアコン買えないんですか?」
「買えたとしても、この時期はまだ学校が使用を許してはくれないだろうね」
そうか、この学校、公立だから。
「でも、なんで、この部屋ついてないんですか?夏が地獄じゃないですか!」
「いやー。印税と部費は全部画材で消えるから」
「マジですか」
私はそのことを聞いて思った。
入る部活、間違えたかもしんない。
*****
私は参考のため『まんがタイムきららMAX』を読んでいた。
「4コってコマ割り考えなくていいから楽だよね」
普段、色々な漫画を描いている真理はそう言った。ちなみに、この話で話題に触れられていない仁香先輩は黙々と原稿を進めているだけなのである。
「ずーっと黙ってますね、仁香先輩」
「こいつは集中しだすとこうなるんだよ」
そのおかげか、彼女は成績優秀であるらしい。
性格からして、そのようには見えたのであるが。
「ちなみに、真理先輩は?」
「赤点ギリギリ」
なんだ。やはり彼女は期待を裏切らなかったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます