第49話 鬼練習!!

「ノドカ……。大丈夫?」


 正直言うと、大丈夫ではなかった。とっくに体は限界を迎えていたのだ。

 そんな限界な私は今、練習ホールで死んでいた。


「はい、白米」

「ちょっと待てナナ、私を殺す気?」

「え?だって、元気ないときは食べないと」

「吐く物増やして、どうすんだよ……」


 ちなみに、私はもうすでに五回、嘔吐を起こしている。


「不衛生な……」

「おい……。ミカン、なんか言った?」

「いや………………。何にも?」


 なんだ?その言い方。


「うっ……。ナナ……。エチケット袋欲しい」

「ミカンさん、エチケット袋」

「ほい来た、ルキ、エチケット袋だと」

「ノゾミ、袋だって」

「オッケー、エル、袋」

「袋ですって、ノドカさん」

「なんで、一周してきてるんだよ!」


 その時点で私の吐き気は極限に達していた。


「おげえええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!」


 私は本日六回目の嘔吐を起こした。


「レンタルなんだから、綺麗にしてください」

「これは、一周してくんのが悪い」


 エチケット袋を要求した相手に最終的にエチケット袋を要求することになるとはさすがに思わなかった。

 私はそう思いながら、湿ったくちもとをぬぐった。


「てか、かんずちさんの曲、テンポ、くそ速くない?!」

「さすがボカロp……。人のことを考えていないな」


 人選ミスったかも。


「ドンマイ、ノドカ。ボカロpは人のことなんて全く考えない生き物だよ」


 ナナは私の肩をポンポンと叩きながら言った。

 ちなみに、彼女の発言は完全に偏見である。世界のボカロpの皆様、ごめんなさい。


「あれは、鬼畜だったのか」


 ミカンは何食わぬ顔で言った。


「逆になんでミカンはそんな簡単に歌って、踊れるの?!」

「………………まぁ、色々あんのよ」


 彼女は少しだけ、暗い顔をしていた。


*****


 帰り道……。

 外はもうすっかり夜で真っ暗だ。町の光が視界にぼやけて見える。

 そんな東京の道を私は体をくたくたして、歩いていた。


「これが……。ライブまで……」


 そう考えると私の身体は自然と震えた。


*****


 しかし、無心でこなしてみれば、そんな苦労など、一瞬で過ぎるものだ。私たちは一日、また一日と練習をこなした。

 そして、日が過ぎるとともに、嘔吐の回数も次々と減っていった。


「そろそろ吐くの止めたら?」

「私も止めれるんであれば止めたいよ」


 といっているが、この日は本格的に練習が始まって一週間。この時点で私の一日の嘔吐回数は一〜二回くらいになっていた。

 でも、吐いてはいるんだけどね。ほんときついっす。


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