秋谷のどか編

第39話 私の影時代

 これは、私が『秋谷のどか』と呼ばれるまでの話である。


 私は小さい頃から、アイドルに憧れていた。テレビで見たあのアイドルの輝きに私は惚れた。

 そして、しばらくして、運よく有名アイドルの武道館でのライブに行く機会があった。その時に、私は思った。


「いつか、アイドルになって……。みんなから応援されて……。あの、あのステージに立ちたい!」


 こうして、私は本気でアイドルになりたいと思うようになった。


 それから、数年が経った。

 私は高校生になってから、上京し、さっそくアイドルになるための活動を始めた。


………………。


 何すればいいんだろう……。

 私は東京に来たのはいいものの、路頭に迷っていた。勿論、大手アイドル事務所のオーディションは受けたのだが、当然の如く全落ち。

だから、とりあえず、地下アイドルのオーディションも受けてみたのだが、まさかのそのオーディションも全落ち。

せっかく、気合を入れて高校から上京してきたのに、アイドルへの道は八方塞がりとなってしまったのだ。


「もう、地元に帰ろうかな……」


 私はもう、気力をなくしていた。高校の同級生から見ても、その様子は分かっているようで、結構、心配されてしまった。それが申し訳なくなり、学校に行くのも私にとってはかなりの苦痛となっていた。

 どうしようか、となっていた時、ネットでインフルエンサーの活躍を取り上げた記事を偶然見かけた。


「ネットでカバーとかを出して、そこから有名になったりしているのか……」


 正直、これは私の思い描いていたアイドルとは少し違う気がした。

 しかし、いつまでもこうしているくらいなら、まだこういう真似事をしていたほうがマシだ。

 いつまでもここで立ち止まっては駄目だ。スタートすらしていないけど。


 というわけで、YouTubeのアカウントを作ってみた。

 で、どうすればいいの?


 また、私は止まった。


『やほー!新美阿未来だよー!初配信、ドキドキするなぁー!』


 Vtuberか……。

 私はこの時、まだVtuberというものに否定的であった。それに、アイドルVtuberとか言ってるけど、こんなの私の知ってるアイドルじゃないし。


 顔を隠して、アイドル語ってんじゃねーよ。


 しかし、何かやろうとして、アカウント作ったのはいいもののやることがなく、結局、何もやらなかった。

 いや、もう諦めていたのだ。アイドルになることを。

 YouTubeもやる前に諦める。もう私は有名になってあのステージに立つという夢などとっくに失っていた。忘れていた。


 まぁ、しかし、せっかく夢見て上京したのに、デビューすらできないと、やはり凹む。

 このころの私の目は死んでいたようだ。


 そんな正直どん底のアイドルにもなりえない高校生活を送っていた私であったが、なんと、信じられないことか。ある地下アイドルからスカウトが来たのだ。

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