第25話 未鈴様に満足してもらいます!

「とりあえず、もうここで完成させてください」

「え~、集中できない」


 この期に及んで、彼女は文句を言った。

 正直、この調子で言ったら、まともな新衣装など永遠に出来上がらない。というわけで、まともなものができるまで、私たち三人はくりばいたるでカンヅメすることになった。そう計画したわけではないのだが、結果的にそうなった感じである。


 そして、あっという間に約束の日がやって来た。


「「「で……。できた!!!!」」」


 ようやく、未鈴が喜びそうな、まともな新衣装が完成した!感動の場面である!泣いていいぞ!!


「おつかれさまでーす」


 完成と同時に未鈴が入所してきた。その顔は不安げだ。


「で、描けたんですか?聖川さん」

「おう、もちろんよ!我が娘!」


 気づいたが、未鈴が聖川先輩を呼ぶとき、「ママ」から「聖川さん」に変わっていたのだ。信用がないということを暗示しているのだろう。


「じゃあ、さっさと見せてください」

「いや、とりあえず、鞄くらいおろしたら?」

「いえ、結構です」


 すぐ、帰るつもりだからかな?

 あんまり、期待はしてもらってないようだ。


「まぁ、いいや、とにかく、見ろ!!」

「うおおおおお!!!!!こっこれは?!!!」


 画面が黄金に輝いている!それほど、輝かしい絵なのか?!


「なんですか?これ」

「「「え?!何、その微妙な反応!」」」


 さすがに私たち三人の目は丸くなった。衝撃の反応である。

 そんな馬鹿な、秋谷先輩はともかく、私がしっかり見たのに!


「何がおかしいの?!」


 さすがに私は訊ねた。


「いや、これ、衣装って言わないでしょ」

「は?何言って……」


 聖川先輩はそう言って、ペンタブを反転させた。その瞬間、私たちはその光の正体を知った。


*****


 今、このくりばいたるには四人の人間がいる。

 完全にキレて、ハンマーを握りしめている木本仁アカナと秋谷のどか、そして状況が読み込めていない彗星未鈴。そして、そこで、息の根を絶やした聖川虹である。


「さすがにハンマーはやりすぎだよ……。ギャグのダメージ補正でも無理があるって」


 死んだ聖川がむくりと起き上がり、そう言った。


「とりあえず、そこにある血は拭いといてくださいね」

「なんでみんなそんなに冷静なのさ」


 状況から見れば、私と秋谷先輩が聖川を殺したのは一目瞭然だろう。まぁ実際にそうなのだが。

 しかし、なぜ、彼女は私たちにハンマーで殴られたのか。それは、あの時、未鈴に見せた画像が新衣装の制作途中にふざけて描かれた、彗星未鈴の全裸オ●ニー画像だったからである。(光の正体とはそのきれいな白い肌!)折角、ここまで制作の援助を頑張ったのに、オチがこんなので、さすがの私たちでも堪忍袋の緒が切れたのだ。


「つまり、それは本当の完成品じゃないってことですね」

「もちろん!」

「てか、なんで、聖川はそれ見せたの?」

「えへへ、ミスっちゃった♪」


 こう言ってるが、聖川の様子を見るに、完全にわざとだろう。許すまじ。


「とりあえず、本物を早く見せてください……」

「あ……。はい」


 聖川は渋々未鈴に作品を見せた。


「なんですか……。これ」


 彼女がその完成品を見て、初めに言い放った言葉はそれだった。


「そうだよね……。だめだよね……。肌少ないよね……」


 聖川は頭を掻きながらそう言った。

 そして、長い沈黙の時間がくりばいたるで流れる……。


「あの………………。未鈴さん?」


 聖川がそう未鈴に向かって恐縮に話しかけると、未鈴は面を上げた。


「何?ママ!この神衣装!すごすぎるんですけど!?!?!?!?」

「え、いいの?」


 未鈴の目は輝いていた。そして、聖川はそんな様子の彼女を見て、「ほんとにあれでよいのか………………?」とでも言いたげな様子であった。

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