第21話 殺風景なくりばいたる
現在、くりばいたるは危機的状況に達していた。
メンバー間のいざこざ。和俊さんが最も嫌う出来事であろう。
「ああ!くそめ!」
光はご立腹だ。そして、怒りながら、くりばいたるの外に出ていく様子を私と聖川先輩と秋谷先輩は外から見ていた。
すれ違った光は顔を赤くしていた。
私たち三人がくりばいたるに入ると、とても青ざめた顔をした未鈴がソファに座っていた。
「あ……。ああ……」
声にならない声を出している。
「何があったの?」
「あ……。千穂……」
「なんで、本名?」
こうゆう、ネット(に関連するところ)で本名を呼び合うのはご法度ではないか?(知らんけど)
「私……。なんか変なこと言ったんでしょうか?」
かすれた小さな声で、未鈴はそう言った。
「何言ったか知らんけど、まずい状況ではあるな」
「………………」
いつも光がいた事務所は妙に沈黙が多くなっていた。
彼女は地味にこの事務所の素晴らしい雰囲気をもたらしてくれていたのだ。いなくなって初めてわかる、光の重要性。こう、雰囲気が悪いと未鈴から一部始終を聞き出そうにも聞き出しにくい……。
「てか、あれだよね。今回あれでしょ?あの光と未鈴の圧倒的な扱いの違いで、ちょっとややこしくなってんでしょ?」
「でも、光もしっかり登録者は持ってんでしょ?」
「確か、一万は持ってたよ」
一万人。未鈴の『三十分で十万人』という出来事で感覚が麻痺しているのかもしれないが、日本のYouTube全体でみれば、しっかりとっているほうである。普通に1000人台もVtuberもいるのだ。
「環境ってのは大事だからね……」
その秋谷先輩の言葉には賛同できる。
私はその場で頷いた。
「とりあえず……。虹、アカナ、そして……。未鈴。今はできることをやろう」
「そうだね……」
「はい……」
私と聖川先輩は返事をしたが、未鈴の返事は聞こえなかった。
*****
翌日。光と未鈴は来なかった。その代わりといえるか分からないが、和俊さんが来た。
「あれ?今日は光君は来てないの?」
「あ……。はい」
いつも来ている光がいないことはやはり、和俊さんからしても違和感しかないようだ。
その和俊さんの顔を見ると「ははあん」となにやら分かっているかのような顔をしていた。もう勘づいているのだろうか?
「で、今日は珍しいメンツなわけだけど、三人で何してるの?」
「今日、公式チャンネルのほうで配信しようと思っていて、その準備」
冷たく秋谷先輩は言った。
和俊さんは一回、鼻で息を吐いた。
「あの二人は呼ばなくていいの」
「いまは休暇を取らせてあげたほうがいいかなって」
「あっそうなの」
その、あまり踏み込まない和俊さんの態度。私はこの人はいい人だなと思った。
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