第20話 やばい予感がします!

「頼みって何ですか?」

「あ、ああ……。今日あったこと覚えてるよね」


 今日会ったこと、あの配信のことだろうか。いや、それしかないだろう。


「まぁ、はい。鮮明に」

「うん。まぁ、そうだよね」


 彼女はさみしそうに言った。


「でさ、今日のあの配信やってみて、どうだった?」


 どうだった?その回答側に限りない自由が与えられたその質問を答えるのはいかにも難解で骨が折れるな。と思いながら、私は回答を模索した。


「ううん、正直言うと……。私はあまりいい気はしなかったかな?」

「それは、未鈴ばかり、持ち上げられてたから?」


 私は10秒ほど、黙った。そして、首を縦に振った。


「はあ、やっぱりそうか」


 聖川先輩はため息をついた。


「あ、でも、私が取り上げられないのが、不満なわけではなくて……」

「光のこと?」


 聖川先輩はもう見透かしたような感じで告げた。


「あ、はい……」


 私はみるみるテンションが低くなっていく光の姿を見てられなかった。


「正直、これからのくりばいたる……。ちょっと不安です」

「う~ん、そうだな……。そうなら、アレも呼んどいたほうがよさそうだな」


 アレ?


*****


「こんな夜に何なんだよ……?」


 聖川先輩の言うアレが来た。あれとは秋谷のどかのことであった。


「私、今から、銭湯行こうとしてたんだけど……」

「ごめんねぇ~。後で風呂、貸すから」

「え?マジ?サンキュー」

「秋谷先輩、風呂なしに住んですんですか?」

「そろそろ引っ越そうとは思ってる。金も貯まったし」


 秋谷先輩はにこらかに笑った。


*****


「ふゅー!いい湯だった」


 風呂上がりの秋谷先輩の秋谷先輩が肌を赤くして、満足した様子であがってきた。


「そりゃ、よかった。どう?久しぶりに泊まる?」

「んじゃ、そうさせてもらおうかな?」

「あの、私のこと、忘れないでください??」


 私は全く関係ない話をする二人に声をかけた。


「ああ、ごめん、ごめん。で、何の用なの?」

「うん、てか大体予想ついてるよね?」

「うん……。どうせ今夜のことでしょ?」


 やはり、なんとなく、予想はついているようだ。そして、その話に聖川先輩が持ち出したのと一緒に秋谷先輩の顔は険しいものとなった。


「まぁ、何とかしなきゃな。じゃないと多分、二人は犬猿の仲になりかねない」

「そうなると、登録者100,000人の夢は遠くなるよね……」

「まぁ、はい……」


 もし、光が未鈴に今、たまっている鬱憤。それをぶちまけてしまったら……。とても面倒だ。


「彼女は明るく、頼れるように見えるけど、実は弱い可憐な少女だからね」

「そうなんですか?聖川先輩」


 意外だ。やはり、光のことについてはいつも一緒にいる聖川先輩のほうが詳しいのだろう。


「とりあえず、一番面倒なことは避けないとね……」

「うん、まぁ」


 しかし……。このことは失敗してしまうことに……。

 我々が思っている通りのことになってしまう。

 正直こうなるとは思っていた。

 さっきまでの話を聞いて、こうなるのでは、とは思っていた。


 そのことはこの次の日、くりばいたる社内で起きてしまう。


「灯見先輩、どうしたんですか?」


 未鈴は無意識に光の様子がおかしいことを気遣い、そう彼女に声をかけた。


「黙って……。いいから」

「え……。でも……」

「いいから黙れ!私のことなんか分からないくせに!!」


────さて、どうするか……。

 秋谷、聖川、そして私は苦い顔をしながら、そう考えた。

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