第19話 配信開始します!
時間の流れは実に早い。気づいたら、あっという間に空は暗黒に満ちていた。
「どっか、呑みに行く?」
和俊さんは「くいっ」と合図し、そういった。
「いや、高校生もいるし、いいよ」
「わぁ。光君、珍しく大人だね」
確かに、見た目に反して大人だ。見た目に反した年齢でもあるのだが。
「そういえば、もう遅いけど、未鈴とアカナは大丈夫なの?」
「あ、一応、親には伝えました」
と私は言った。未鈴は……。
「………………。大丈夫です」
どうも、何かあったような顔だ。
「未鈴、どうしたの?」
「いや、なんでも?」
*****
「ファー!もうすぐぅだよぉ!!」
光は何やら、盛り上がっていた。
「といっても、ほとんどは未鈴目当てだろうね」
「光……。そんな虚しいこと、言わんでくれよ……」
こうして、くりばいたる初全員集合配信が開始した。
*****
「「「「「皆さん!こんばんは!!」」」」」
「くりばいたる所属Vtuber、灯見光と……」
「聖川光!」
「秋谷のどかと……」
「木本仁アカナと……」
「彗星未鈴で~す!!」
『お~!!みりんたん!!』
『来たよ~』
同接はかなり多いが……。
『かわいい~みりんちゃん!』
『みりんちゃんきちゃ!』
明らかに未鈴のコメントしかない。
さすがにこの事態には冷や汗をかいた。今、彼らはやはり未鈴だけを見に来ているのか。
一応、秋谷先輩もやはり100000万人の人気Vtuberからあって、そこそこコメントが見える。しかし、それも、すぐ未鈴のコメントに埋もれてしまう。私や聖川先輩、あわや、光のコメントなど全然見えない。
「え……っと……。じゃあ……。うん……」
光の声のトーンがみるみる落ちている。冷や汗も見える。
無情だ。こんなんなら、公式チャンネルなどやるべきではなかった。
*****
配信は無事終わった。
しかし、光はすっかり意気消沈してしまったようだ。登録者一万人台でも十分すごいはずなのに……。ここまで埋もれるものなのだな……。
今回の配信で、公式チャンネルの登録者が三万人に伸びた。ネットとはやはり勢いか。秋谷先輩も同じくらいの登録者を持っているはずなのに、『半年で十万人』と『三十分で十万人』はどうやら違うらしい。
「アカナちゃん……。ちょっと来てもらっていい?」
「あ……。はい?」
私はなぜか聖川先輩の家に呼ばれた。
「あんのぁ……。何なのでしょう?」
聖川先輩のアパートに着き、私は無茶苦茶、肩身を物理的に狭くしていた。
「何そんな変なポーズしてんの?遠慮せず、上がって?」
「ひゃ……。ひゃい」
アパートは言ってみれば普通のアパートだ。普通のアパートの定義を説明するのは難しくて、できないが、とにかく、学生が何不自由なく過ごすことができるようなアパートだ。
「そこ、座っといて」
聖川先輩は地べたに置いてあるちゃぶ台を指差した。
私はちゃぶ台の下に足をしまい、地べたに尻を置いた。
「じゃあ、ちょっと待っといて、お茶、淹れてくるから」」
「あ、はい」
聖川先輩はキッチンのほうに行ってしまった。そうなっては、私は暇である。
暇であるから、聖川先輩の部屋を見させてもらおう。
聖川先輩の部屋には大きいものというと本棚と机(このちゃぶ台じゃない作業机ダヨ!)がある。机にはパソコンや、ペンタブ、マイク、ゲーム機等のイラスト用のものとVtuber活動で使うものが置いていた。
本棚にはラノベや漫画、Vtuberのファンブック、イラストの教材本などがほとんど。一部に男性用のエロ漫画が混じっているのはなんだろう。あとは……。ゲームのパッケージか。
物は結構あるが、しっかりと片づけてられており、とても綺麗だ。彼女は綺麗好きなのだろう。
*****
「お待たせ~!」
彼女は緑茶を持って戻ってきた。
「わぁ、すごい、私、緑茶、大好きなんですよ!」
「そりゃ、知ってるよ~」
「?」
いや、彼女と過ごしてて、なんか見透かされてる感があるな……。とは思ってるのだが、ここまで、見透かされものか?
何か、変な感じがする……。
「で、今日は一体、何の用で?」
「うーん……。とりあえず……。ゲームする?」
*****
なんとなく、聖川先輩とスマ●ラをやった。
かなりの接戦だったのだが、最後、私の復帰ミスで私は負けてしまった。
「わぁー!アカナ、結構、強いねぇ」
「くそおー!負けたぁー!」
ただの3ストックの試合なのに滅茶苦茶疲れた、汗もかいた。
「いやぁー。でも、やっぱり、プレイスタイルは変わってないね!」
「あれ?私、聖川先輩とスマ●ラしたことありましたっけ?」
明らかに不自然だ。さっきからの聖川先輩。まるで私のことを子供のころから知っているかのような会話の仕方ばかりしている。
「………………。やっぱり、覚えてないかな?私のこと」
「へ?」
聖川先輩は私にハイハイして迫った来た。
「思い出してよ。アカナがVtuber始めた時のこと……」
「え……。そんなの……。私は……。中学生の時に……。木本仁アカナになって……。あれ?」
ほんとにそうだったけ?
「まぁ、無理にさせても、傷つけるだけか。ごめん」
聖川先輩は私の両肩をポンと叩き、その場から立ち上がった。
「あのさ、一つ、やってほしいことあるんだけど、聞いてくる?」
彼女はまた、可愛く、私に問いかけた。
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