第12話 結局は無駄な一日ではないか。

 土日のうちの一日を無駄にしました。今日も休みだから、つまり、無駄にしたのは土曜日だ。この無駄な表現は絶対いらないだろう。

 昨日の「できたよ」の連絡からママとは連絡がとれていない。面倒だが、やはり、不安なので、とりあえず、今日もくりばいたるに行くことにしていた。駅近なのが、唯一の救いか……。


「おつかれさまでーす」


 昨日とは違った、超テンション低めな私が事務所に入った。


「あれ、今日来るって言ってたっけ?」


 当たり前のように、毎日居る灯見先輩が私にそう聞いてきた。


「言ってませんけど、ちょっと不安で」

「あ、そうなの……。よかったな、未鈴。ビンゴだ」

「ビンゴとは??」


 私が首をかしげていると、灯見先輩はその前にあるノーパソの画面を私に見せてきた。


「こ、これは……?」


 そこには、クールだが、どこか、可愛げのある、美少女のイラストが描いてあった。服のデザイン、アクセサリー、等々、細部まで凝られている素晴らしい、イラスト資料だ。


「これが、彗星未鈴だ」

「これが、未鈴??」


 普通なら、この流れなら、容易に状況を把握できる状態だろう。そう、これが、彗星未鈴。これが、私。


「つまり、お前のVtuberとしてのアバターだよ」

「ほんまですか……?」


 私がこの状況を把握できなかったのは、信じられなかったから。こんな、素敵な姿の人が私なんて。とても信じられない。


「これが、あるってことは、ママはつまり……」

「いや、ここにはいないよ。ちょっと事情があるらしくて、データだけ私のノーパソに送られとった」

「あ、そうなんですか」


*****


 やっと、状況判断能力が正常になってきた。しっかり、意識してみると、ほんとにこの子は可愛くて、かっこよくて、こんなアバターでVtuberができるとなるとワクワクが止まらない。それと同時に不安も止まらない。

 もし、私が何か、みんなに嫌われるようなことがあれば、この子も嫌われることになるのかと。


「未鈴、何?その気難しそうな顔は。なんか、めっちゃ重く考えていない?」

「なんで、灯見先輩のその何気ない一言は、よく的中するんですか?」

「何でだろうねぇ??」


 灯見先輩はいたずらっぽく笑った。

 そういえば、読者も私も気になる話題が一つ。


「私のママは一体、何をしているんでしょうね」


 私のママとはもちろん、あの聖川虹様のことである。こんな、神の絵を描いてくれたのはいいのだが、なぜ、データだけ送り、くりばいたるに顔を出さないのか、以前はかなりの頻度で来ていたとアカナから聞いている。だから、明らかにおかしいのだ。


「ん~?何してるんだろうな?」


 その言い方、その顔、彼女は何かを知っている。しかし、彼女は口を割らなそうだ。

 これ以上言っても、何も分からず、灯見先輩との仲が悪化するだけだと感じたので、ここで話は止めることにした。


*****


 話が終わったので、お馴染みの*****が間に入る。


「ちなみに、灯見先輩はこれ、どう思います??」


 私はママが描いてくれた私を見せた。


「うん。私のやつには及ばないけど、いいんじゃない?この言葉は描いた本人にも言ったよ」

「灯見先輩が描いたのってなんでしたっけ??」


 灯見先輩はその言葉を聞くなり、頬を膨らませた。


「アカナはタメ口で毒舌吐いてくるけど、未鈴は敬語で言ってくるから、冷酷で不気味感が垣間見えてるよね」

「話を脱線させないでください」


 すると、灯見先輩は「ちぇっ」っと言いながら、ノーパソを動かした。


「これだよ、これ」


 そこには、彗星未鈴(仮)(第十一話 私のママはまだ来ない。参照)だった。


「あ、こんなのありましたね」


 確かにあった。どこにあったかは、先ほど、書いてあった通りだ。

う~ん。もちろん、この絵も素晴らしいのだが、やはり、私の感性から見たら、やはり……。


「その顔みるに、私のやつは、虹のより、微妙なんだろうね」


*****


「おつかれさま」


 何故か、秋谷先輩が来た。


「あれ、のどか何で来たの?」

「出番が少ないからよ。仮に出ても、口数少ないし、逆にあんた、出過ぎなのよ」

「のどかも毎日来ればいいのに」

「私はあんたと違って暇じゃないのよ。あんたこそ、大学大丈夫なの?」

「う、うん……。ダイジョウブダヨ……」

「その言動……。大丈夫じゃなさそうね」


 そんな、言い合ってる二人に恐縮ながら、私は口を出した。


「あの、秋谷先輩。折角、出てきてもらってなんですが、十二話。もう、終わりです」

「え?」


 秋谷先輩の顔はどんどん青ざめていった。

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