第7話 さて、部室に入ります!

 何故、漫研に入った?と前話の展開で思った人もいると思う。私は気分屋だ。咄嗟に行動して、失敗、成功を繰り返している。このVtuberという活動もそうだ。

 私の行動は大体「なんとなく」だ。そこにつけこんでもどうしようもない。


 というわけで、私は今、漫画研究部の部室の前にいる。


 あ〜緊張してきた。


 こう、扉の前に立っていると、くりばいたるに初めて入った時のことを思い出す、まだ、入って一ヶ月ほどしか経ってないのに、もう懐かしむまできたか。なんか、変な感じである。

 この扉の先にはどのような人がいるのだろうか。光のような馴れ馴れしい奴だろうか。そうだったら、ちょっと嫌だな。そう思っていると、「おい!」と言っている光の姿が思い浮かばれた。私の心の中まで蝕むのか、光。


 というか、このままここで、ずーっと立っていたら、くりばいたるに入る時の失敗を再発してしまう。あの時は光によって雑に私の存在を知らしめられた。あんな屈辱は二度と御免だ。

 私は勢いよく、部室の引き戸を開いた。


「し、失礼します!!」


 バーン!!という扉の音が響いた。そして、その勢いで扉はまた、勢いよく閉まった。


「え?!」


 流石に困惑した。あんなに一生懸命に挨拶をかましたのに、扉が閉まるとは。オンボロ引き戸め、許すマジ。

 そして、時経たずして、再度、扉が開いた。


「ちょっとー大丈夫?」


 扉を開けてくれた先輩は心配してくれたが、その奥にいる先輩方は笑い転げていた。それを私はとりあえず苦笑いでやり過ごす。


「いや、ほんと、すいません……」

「いーよ、いーよ。でも、そんな激しくこのドア、開閉しないでね。結構、建付け悪いから」

「あ、了解です……」


 私はポリポリと頭を搔いた。


 うう……。いちいち、こっぱずかしい……。


*****


「とりあえず……。自己紹介してよ」


 扉を開けてくれた先輩がそう促した。

 よかった……。自己紹介させてもらえるんだ……。(Vtuber事務所ではさせてもらえなかった人)


「あ、はい。一年四組、上川千穂です」

「四組ってことは普通科?」

「あ、はい」

「へー。三月まで受験、頑張ったねー」

「あ……。はい?」


 この時期になって、受験頑張ったね。とは……。まあ、とりあえず、今は気にしないでおこう。


*****


「とりあえず、君の席はここだね」


 先輩に案内された机は、まだ私は何もしていないのに、既に、なにやらカオスな状態になっていた。


「あの、ペン一本置くスペースもないんですが、この机」

「うん、そうなんだ。片づけてくれる?」


 先輩は溶けたような、間抜けな顔をしながら、そう私に言った。


「こら、そんなこと言うから、新入部員、減るんだろ?」


 笑っていた先輩が扉を開けた先輩を叱った。


……。


「あの、先輩方、名前がわからないと書くときに面倒なので、名前を教えてくれませんか?」

「事情は分かるけど、メタいよ……」

「なんか、都合で自己紹介するのって、気が乗らないよね」


 先ほどまで、言い争っていた先輩方が、「ねー!」と協調している。彼女たちはかなり情緒不安定だ。


「まあ、でも、自己紹介は必要だったからね。折角の機会だし、やっちゃうか」

「てか、なんで、さっき千穂ちゃんだけ自己紹介したの?一緒にやったらよかったじゃん」

「……」


 十秒ほどの沈黙が生まれた。


*****


 この部活には、私を除いて、二人の部員がいるように見える。

 それでは、彼女たちに自己紹介してもらいましょう!!


「私は部長の小佐野真理おさのまり。よろしくね!」


 先ほどの扉を開けてくれた先輩こと、小佐野先輩が言った。


「えっと、私は副部長の福本仁香ふくもとにかよ」


 奥で笑い転げていた先輩こと、福本先輩がまともに自らを紹介した。


「この部活はこれだけですか?」

「いや、あと一人いるけど、幽霊部員かましてるんだよね。アイツ」

「あ、そうなんですか……」


 幽霊部員か……。いつか、会えたらいいが、その時は来るのだろうか。実際、私もここに頻繁に来ることはないだろう。Vtuberのことがあるからだ。まぁそのことに関しては小佐野先輩に適当に事情を話すようにしておこう。私がVtuberであることはもちろん伏せるとして。

 あくまで私がここに入部したのは学校内での仲間を作り、居場所を見つけることだし。

 とりあえず、この調子だと、その目標は叶いそうだ。

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