第5話 コラボ配信をします!

「最近、かのVtuberとよくコラボしてるんですけど、見てますか?」

『見てる』

『虹ちゃんかわいいね』

「うん、知ってるか分からないけど、事務所が同じでね。くりばいたる、知ってる?多分知らないよね」

『知らない』

『どこだ~?』

「うーん。どおしよー。今度、配信よぼっかな?」


*****


 事務所に入所してから、何かとコラボが増えた。といっても、ほぼほぼ、あの二人とのコラボである。あの二人とは誰か?そんなこと、三話、四話を読み切った、君なら、想像がつくだろう。聖川虹と灯見光だ。

 最近、何気に光と私は仲がいい。気づけば先輩なのにタメで話してしまう仲だ。聖川先輩とはまだそこまでの仲は築けていない。


 ある日のくりばいたる社内。

 この日は私、光、和俊さんの三人がいた。それぞれ、自分の仕事をしていた。

 私は今夜の配信の準備。

 光は動画編集

 和俊さんは資料まとめ

 社内ではキーボードを叩く音だけが響いていた。


 その沈黙を破ったのは光だった。


「アカナー。コラボ配信しよー!」


 それに和俊さんは乗っかった。


「いいねー!くりばいたる同士のコラボ配信!いいねー!」

「まあ、いいですけど、いつやるんです?」

「こんやー!」


*****


 午後九時。

  私はとりあえず、家でパソコンを起動し、今夜の配信の準備をした。それと同時にDiscordで光と連絡を繋いだ。

 そして、暇ができたら、Xにて告知。もちろん、昼にもしているが念には念をだ。

 そうすると、すぐ三十分の時が経った。そろそろ配信開始である。

 そういえば、私にとって、初めてのコラボ配信か。三年もの間Vtuberをしてきてはいるが、そこまで他のVtuberと交流も持ってこなかった私はこれまで誰ともコラボ配信をしてこなかったのだ。

 そんなことを思っているとポケットに入れているスマホが振動した。相手は和俊さんだ。


『コラボ配信頑張って!光君と仲良くね!』


 そのLINEを見ると思わず口元がにやけてしまった。入ってきたときの説明では最低限のことだけやりますんで風の素っ気無さを見せていたのに意外に過保護だな。

 その点ではやはりこの人はVtuberを愛しているのかもしれない。

 しかし、この配信、無事に終わってくれるだろうか。

 私は先ほどした配信告知のリプを見てみる。

 見てみると、温かいコメントが多くみられた。やっぱりVtuber業界の人間は民度がいい。思わず涙が出てしまった。

 やっぱり、ファンのみんなは温かい。


 しかし、今回の配信、かなり緊張している。

 やはり、二人で配信ってこんな緊張するものなのか。これで相手が初対面の人だったらどうなるのだろうか。ゾッとする。

 こう緊張していると初配信のことを思い出す。あの時は確か、マイクトラブルとかいろいろあったなぁ。同接もやはり今ほど多くなかった。


「あ、やばっ」


 気づいたら、かなり時間が過ぎていた。早く配信開始しないと。


*****


「はい!始まりました!はい!」


 私は切り替えて、配信を開始した。コメ欄は『来たー!』などのうれしい文字が並んでいる。

 光の登場はまだだ。通話もつながっていない。まずは私だけで少し雑談をする。

 今のところまだ順調だ。

 というところでまたスマホが振動した。


『アカナ!やばい!挨拶きめてない』


 今頃かよ!

 とにかく、話をつなぎながら、『てきとーにかましてください』と返した。この際、致し方ない。そういえば、光のYouTubeの動画の録るときも自己紹介してなかったし。


 配信開始十分経過。

 いよいよ光の登場だ。いい自己紹介を決めれただろうか。


「じゃっ!例の人にそろそろ出ていただきましょう!」

「はーい!淫乱Vtuber!灯見光でーす!」


 最低な自己紹介だ。


「ちょっと!ここは健全なチャンネルだから、あまり地下の内容(いうなれば下ネタ)はやめろー!」


 そう発言した瞬間、コメ欄を見ると、『こいつには無理だよ』という光リスナーのお言葉があった。


ああ、そうかい。


 しかし、やりすぎると清純が好きなリスナーが帰ってしまう。多少淫乱なのはいいけど少しは抑えてもらわないと。


「こーふんのあまりテクノブレイク寸前なオスども諸君!オ●ホはもったか?煩悩の化身め!ところで、アカナ!今日の配信はなんだ?電マ我慢大会か?ぬき●し実況か?!」

「そんなのやるわけないでしょう!!!!」


 だめだ!こいつ、あのリスナー様の言う通り止められない!!!

 てか、それやって垢BANされるの私なんだけど!人の枠なら何でもいいと思ってんのかな?配信だから「ピー」も入れられないのに。


「光、今日は規制音入れられないから、少し抑えて……」

「うえ?」

「ちょっと、これ以上やったら、ミュートの刑やな」

「ミュートって誰」


 こいつ、頭ワリィ~……。

 そこから、ぬき●し実況……。ではなく一緒になぜか将棋をやった。

 彼女はやはり事務所内にあるやつで日頃やってるのか知らないが、かなりうまく、私は惨敗しまくった。


「ひえええええええええ!あはぁん♡!勝ったはぁん♡!」

「勝つたびに喘ぐの止めてくんない?!」


 コメ欄を見ると、どうやら、意外と楽しんでくれたようだ。


*****


 翌朝、起きてエゴサをしていると、何か変なツイートが多数見られた。


『木本仁アカナはえっち』

『アカナがオカズ化』

『アカナめ……。やはりビッチだったか』


 私は全然下ネタ言ってないのに、何故か、私がいやらしいことになっていた。てか、最後のやつ……。「やはり」ってなんだよ!「やはり」って。


 こうして、私の黒歴史が私自身のチャンネルにも刻まれた。


「このアーカイブ……。消したいけど、消したら怒られるんだろうなぁ……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る