第4話 エロ本好きになります!
ああ、やった。
未鈴にあれを見られた。そのときの私の顔はいかに滑稽だったことか。
で、その後、何と運の悪いことか。秋谷先輩本人も来ちゃいました。恐らく、今日が私の命日です。
「っていう状況になってるわけか」
来たばかりの秋谷先輩は様子を一目見て察した。素晴らしい洞察力だ。
「うん。まぁ分かったけど、何でコイツはこんなに落ち込んでいるの?」
「エロ本……。しかも、知り合いのもん持ってたって知られると皆んなこうなると思うのですが」
私は両肘を机の上に置き、額を押さえるあの絶望のポーズをしていた。
「分かりやしいな、お前」
そんな私を見て、光は何かを言ってくる。
ええい、もう何とでも言え。
「いや、別に、エロ本持ってることなんて普通では?」
そんな、発言をした女は、秋谷先輩だった。
それには一同「え?」の反応である。
「私も持ってるよー。ほら」
秋谷先輩の鞄からどんどんエロ同人が出てきた。
『秋谷のどかS●Xらぶっ!』『聖川&灯見と共に♡』という作品名をはじめ秋谷、聖川、灯見を主題としたエロ同人をメインに、様々なVtuberやアニメキャラのエロ同人がそこに存在していた。
その光景に未鈴は興味津々。私は俯きながらそれを眺めて流石にその姿勢に感心した。
秋谷先輩は何を考えているか分からない無表情。聖川、灯見は頬を赤くしていた。
「くりばいたるの同人誌多いですね」
未鈴は気づいた。確かに多い。といってもくりばいたるのVtuberはまだ未鈴はデビューしてないし、私は入ったばかりだし私のエロ同人はあまり多くないからここにはない。だからここにあるくりばいたるVtuberの同人誌は秋谷、聖川、灯見のもの。しかし、聖川、灯見の同人誌もいうて数冊。ほぼほぼ秋谷のだ。
「自分好きなんですか?」
私は秋谷先輩に訊ねた。
「え?!自分の同人誌買わない?!」
秋谷先輩は信じられないものを見るような目で私たちを見た。
「いや、私のファン出さないし」
「デビューしてません」
「聖川と灯見は?!」
光と聖川先輩は気まずそうな顔をした。
そして、聖川先輩は口を開いた。
「私たち同人誌を描いてもらうほど知名度高くありません。その数冊も私たちが描いたものです」
「うわ、まじか」
なんだそれ、むなしい。
事務所内の雰囲気が一気に重くなった。
そういえば、二人の登録者って何人だっけ。
聖川虹Channel 15000人
灯見光Channel 11000人
YouTuberとしてはそこそこであるが、これでコミケとかで同人誌を出されることはあまりないだろう。多分……。(この業界に関しては無知である。木本仁もこの作品の作者もどうか設定の甘さは優しく温かい目で見てもらいたい)
「で、これはどうやって売り出したんですか?」
未鈴は訊ねた。
「コミケに出しました」
「なんか、めっちゃ地獄そう」
「なかなか、すごういですね」
そのきつい光景を想像した私と未鈴は顔を真っ青にした。
「いや、それなりに楽しかったけど……」
光は苦い表情をしながら言った。そして、秋谷先輩はうんうんと頷いている。恐らく、行ったのだろう。そして、これを買ったのだろう。
ペラペラページをめくってみると、ものすごいレヴェルの漫画がそこに描かれていた。思わず関心してしまう。
そうか、彼女たちはものすごい隠れた絵師、漫画家だったのだ。
*****
「てか、完全に話が脱線してるけど」
光のその発言に関して、一同は「何の話だ?」と首を傾げたが、卓上にある『秋谷のどかと●●えちえち生活』を見て、記憶がよみがえった。
「木本仁ちゃんさ~。なんで私の同人誌持ってんの」
「描いている人が私のママだからです」
「あ、そーなの。つまんね」
一同、どんな変な理由が来るのか期待していたのか知らないが、かなり退屈そうな表情をしていた。いや、未鈴だけ分からなそうな顔をしていた。
「どうしたの、未鈴?」
「ママってなんですか?」
「え?ママはママだけど?」
少し話がおかしくなっているのを勘づいた聖川先輩は少し話を補足した。
「ママっていうのはVtuber業界でそのVtuberをデザインした人のことですよ」
単純でとても分かりやすい素晴らしい解説だ。
ここで、私は一つ、気になった。
彗星未鈴のママもとい、Vtuberとしての準備はできているのだろうか?彼女がさっさとVtuberになってしまえば、このくりばいたるはかなり名が売れるだろうに。そのためには事務所がしっかり彼女の準備をしてあげなければならない。
そこのところ、和俊さんはどう考えているだろうか。
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