その後

 雨の中、傘をさしてある意味住み慣れた家に向かった。工場は停止しているから家にいるだろうと思ったが、案の定、インターホンを鳴らすとすぐに出て来た。見知らぬ男の突然の訪問に唖然としているようだが、古いゲームソフトを見せると破顔して俺を迎えてくれた。そう、おればぶーやんの家に来ている。

 ぶーやんこと渋谷は、ここひと月の記憶が曖昧らしく、普通に働いていたら火事になり、工場が停止して契約が打ち切り、再開が分かり次第再契約となるとの事。自宅も貯金もあるし、違約金も出たので特に生活には困っていないが、暇は持て余していたようだ。

 突然の訪問に驚いていた彼に、俺の今の状況と俺の身に起こったことを話した。ビックリはしていたが何故か信じてくれた。理由を聞くとなんとなくだが、辻褄があっているし、わざわざ自分を騙す理由もないからだと。一通り昔話をして、「暇なら、俺のところで手伝ってくれないか」とリクルートした。彼は本気にしなかったが、熱心に誘った結果、次の契約までと言うことで同意した。何も役に立たないよと困惑していたが、俺にとっては、必要なのは優秀なパートナーでは無く、信頼できる友達、一緒に成功したいと思える仲間だと分かった。前回のディールで業界の信頼を得ることが出来たから、もう無茶な投機をする必要は無い。それどころか、前回の利益で一生遊んで暮らしてもお釣りがくるぐらいだ。今更、金も必要ないが、俺に出来るのは資産運用だけ。それであれば虚業では無く、実業、実社会に役立つことをしたくなったのはこの経験からだろうか。虚業、虚栄、嘘だらけの世界に飽き飽きしたが、いまさらドアの取り付けは出来ない。でもぶーやんのように、ドアの取り付けをする人たちを支援することは出来るかもしれない。虚益を求めず、実利をとり、従業員含めた、すべてのステークスホルダーと共に成長する企業に積極的に投資して、良い会社により力を与え、市場を勝ち抜かせれば、少しは良い世の中になるのかな、など大層なことを考えたり。ぶーやんもただのお飾りでは無く、現場を知っているから、その目線でアドバイスをさせるつもりだ。孤独を誤魔化すための虚栄はいらない。善とか悪とかでもなく、これが良いことかも分からないがどうせなら自分のしたいことをすることにしただけだ。あれだけのトライアンドエラーをした俺だから、どんな失敗も乗り越えるだろう。いつかは、見栄や虚ろな金の為では無く、みんなが自分の為に生きれる社会になれば良いなと思いながら。

 そして、遠い将来、彼に会社はホワイトな会社に積極的に投資することで、リターンは劣るものの、社会に必要とされる投資会社として断固たる地位を得ることになるのかもしれない。そのとき彼らの隣には美しい伴侶と可愛い子供たちの姿がみえるかもしれない。           了

 

 

 

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転生したら某自動車会社の期間工だった件 りゅうちゃん @ryuu240z

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