第3話 スカウトマン
俺たちはガーベラさんお手製であろうケーキに取りかかった。ケーキといってもふんわりしたスポンジではなく、スコーンのようにぎっしりと中身の詰まった食事だ。卵をふんだんに使った甘い頂上からはチョコレートのマグマが流れ落ち、冷えて固まっている。鐘が十一時を告げた少し後に早めの昼食はおわり、二人して水をごくごくと飲んだ。
「なあ、さっき一瞬雨だったけど」ピーチャムはサッと外を眺めた。「洗濯物は干してないよ。また、誰か来た」今度はチャイムを鳴らされる前にピーチャムがポーチで待つことにした。というのも ジョヤ爺さんの家は道のどん詰まりにあって、東の窓から見える道を通った人は必ず来ると分かるからだ。
だが、チャイムが鳴った。今度はまた別の音がした、壊れているのかもしれない。
仕方なく俺はドアを開けた。外の様子は全く違っていて、都会だ。ピーチャムはおらず、来ていたのは40がらみのサラリーマン風の男だ。「こちらにラピスさんがいると聞いて来ました。私、こういうものです。」俺はまだ学生で、名刺なんかもらったのは初めてだ。「コーシュガープロダクション?」俺でも知っている芸能事務所だ。名刺の主のおじさんはロブ。「ラピスって誰?」「この家のお嬢さんだと聞きまして!噂になる程カワイイ方だとか。歌手とかアナウンサーに興味はないかな、と」何かの間違いだと思う、と俺は言った。ここは隠居しきれない実業家のジョヤ爺さんが家政婦さんとひっそり暮らしている田舎の一軒家なんだから。
「おふたりの親戚にラピスという女性は?」「いないと思うね」
ロブはすごすごと引き下がった。アスファルトと革靴のぶつかる固い足音がした。
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