第7話

「血が欲しいか?同じ血族の」

 ブラウローゼの言葉が落ちる。

 青年はピタリと身体を止めた。

 白く尖る牙を剥いたまま。

「我が一族は、人間の血を吸わない。代わりに一族の血を吸った。濃い同族の血が必要か?末尾の吸血鬼」

 青年は答えなかった。

 答え方が分からないのか、本当に分からないのか。

 置かれていた手は縋るように掴まれる。

「構わない。俺の血族はもはやお前一人。孤独に咲く望まれない黒い薔薇」

「黒い……薔薇」

 首筋で小さく反芻された言葉。

 ブラウローゼはそっと青年の頭を撫でた。

Blaurose青い薔薇は俺の名だ。ならばお前は、さしずめ真の意味で存在しないSchwarzrose黒い薔薇

 青年は顔を離すと、ブラウローゼの顔を覗き込む。

「お前が選べ。今のお前を生み出したのは俺だ。孤独な薔薇」

 真っ直ぐに見つめ返す異なる双眸は切なげに細められる。

「ならば、その虚無と罪悪感に染まる心と身体を私にくれ。青い薔薇は私が夢見た存在しない花。美しい……貴男」

 髪が揺れ、頬に触れる。

 唇が唇に触れる。

 音もなく、ただ触れるだけの静かな接触。

「ブラウローゼ……私の薔薇」

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