閑話 『魔女』は暗闇で微笑む
暗い部屋の中に、一人の少女がいた。
黒と紫のドレスを身に纏い、黒いヴェールをかけたその姿からは、ブルーリップを塗った青い唇だけが見えた。
「ふぅん、なるほどね……」
その少女──『魔女』はそう呟いた。
目の前には水鏡が浮かんでおり、水鏡には一人の少年が映っていた。
その少年は肩が斬られ、全身にも切り傷がついており血まみれだった。
だが、その少年はこちらを見下ろすように立っている。
誰かの視点を映しているものなのか、画面横から手が伸びてきて、少年を制止するように手のひらを突きつけている。
そしていくつかの言葉のやり取りが終わったあと、血まみれのこちらに近づいて──剣を振りかぶった。
剣が振り下ろされるのと同時に画面が暗転し、映像が途切れる。
「この手駒じゃだめだったか……」
魔女は手を振って水鏡を消すと、息を吐き出す。
「ここまで舞台を整えてあげたのに負けるなんてね。スペックではこちらの方が勝っていたはずなんだけどな」
魔女は脇にあるティーテーブルに肘をつき、ため息を吐いた。
「まあいい。有益な情報は手に入れた。星宮尊、彼はどうやら相当プライドが高い面があるようだ。もしやと思って段田蓮を使って刺激してみたが、こうも見事に決闘に乗るとはね」
魔女はこめかみを指で抑えながら、もう片方の手でティーテーブルをとんとん、と叩く。
「これは使える。さて、お次は件のSSSレアの分析に移ろう」
ティーテーブルに置いてあった自分のスマホを手に取り、動画サイトを開こうとする。
しかし誤って別の画面を開いてしまった。
「ん? なんだこれは。どうすれば彼が映っている配信を……くっ、また変なアプリが! ああもう、なんで機械というのはこう操作が難しいものばかりなんだ!」
しばらく魔女はスマホとにらめっこする。
そして悪戦苦闘の後、ついに彼女は配信画面を立ち上げた。
「ふむふむ、魔物の首が瞬時に飛んでいる。首を跳ね飛ばす能力? ……いや違うな。胴体が真っ二つになっている魔物もいる。即死が能力なのかな? となると能力は斬撃というより現象かな。でも、それならなぜ首を飛ばすという結果になる? ああ、斬撃を空中に出現させているのかな。いや、違う。それならなぜわざわざ一体ずつ首を切り飛ばす必要がある。魔術の線もなくはないだろうけど……可能性は低いかな」
違法アップロードの配信を見ながら、魔女はぶつぶつと呟いて分析していく。
「……結論が出ないな。能力に関しては一旦保留にしよう。発動条件は……ハイペースで魔力ポーションを飲んでいるね。どうやらこの即死現象を発動するには魔力を消費するらしい。それと能力を発動するには少なくとも剣に触れる必要がある、と……」
そこまで分析し終えた魔女は、顎に手を当てる。
「確かにこの即死能力は強いね。だけど、本当にこの能力だけなのかな? これだけじゃSSSにはなれない」
そう言って魔女は虚空に手を差し伸べた。
すると虚空からどこからともなく黄金の杯が魔女の手の中に現れる。
「SSSレアにはただの即死能力程度じゃ至れない。絶対に。SSSレアなら、私の〈聖杯〉と並ぶ能力を隠し持っているはずだ」
魔女は手の中の〈聖杯〉を見て、微笑んだ。
「さて、もうしばらくは情報収集に努めようかな。次はどんな手駒を差し向けようか」
魔女の視線は、画面の中の星宮尊に注がれていた。
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