事の顛末
それから、助けにやってきた救援隊に俺達はすでにスタンピードは討伐したことを説明した。
スタンピードをすでに討伐したことを告げると、「ギルドから連絡をうけたときは冗談かと思ったが、本当だったのか」と驚愕していた。
段田とその仲間については、事情を話して救援隊に連れて行ってもらうことにした。
資格停止処分中のダンジョン潜入ということで、彼らは快く引き受けてくれた。
救援隊は少なくともBランク以上の冒険者で構成されたパーティーだ。俺達が連れて行くより、よっぽど確実に段田たちを連行していってくれるだろう。
そしてスタンピードの調査のために救援隊の冒険者が数名残り、俺達は地上へと戻ってきた。
俺は息を吐き出す。
まだ色々とやらなければならないことがあるものの、一息つきたい気分だ。
ポーションをがぶ飲みしてある程度傷は治ったものの、一番最初に斬られた傷は未だに痛い。
服も切り傷ばっかりだし、泥と血で汚れてるわで、一旦家に帰ってシャワーを浴びたい。
「あの、星宮さんはこれからどうされるんですか?」
真那が俺に質問してくる。
「そうだな、俺は……」
「尊さん」
「え?」
清華が目を輝かせながら俺の手を握ってきた。
「もしよければこれからご一緒にお茶でもどうですか?」
「いや、でも俺色々と着替えとか必要だし」
「私の家にご招待します。お着替えもすぐに用意させましょう」
まずい。なんでこんなに気に入られてるんだ。
ちょうどその時、スマホに電話がかかってきた。
ギルド長からだ。俺はこれを天からの助けだと電話に出る。
「ごめん、ギルド長から電話がかかってきたから」
「もう……」
清華が頬を膨らませた。
『もしもし、星宮くんか』
「はい」
『状況はあの配信である程度把握しているが、改めて状況を整理したい。ギルドまで来てもらえるか』
やっぱりあの配信は見られてたようだ。
「分かりました」
『では待っている』
短い分かれの言葉と共にギルド長は電話を切る。
ギルド長らしい、要点だけの簡潔な会話だった。
俺は申し訳無さそうな表情と共に清華に向き直る。
「ごめん、これからギルド長のところに行かないといけなくなったから……」
「そうですか……ギルド長からの呼び出しなら仕方がありませんね。なら、連絡先を交換してもらえますか? トークアプリと電話番号とメールアドレスを」
「いや、今ちょっと充電がなくて……」
「今、スマホを使っていましたよね」
……流石に言い逃れは出来ないか。
俺は仕方なく連絡先を交換することにした。
「ふふ、これからよろしくお願いします」
連絡先を交換した清華が嬉しそうにスマホを胸に当てて微笑んだ。
「あっ、じゃああたしとも交換しとこうぜ! 今度一緒にダンジョンに潜ろうじゃん!」
「私も。強い前衛はいるに越したことはない」
「えっ、あっ、じゃ、じゃあ私も……」
愛莉と小春、そして真那もそれに便乗してくる。
そして三人とも連絡先を交換する羽目になった俺は、その足でギルドへと向かった。
***
「よく来てくれた星宮くん。お疲れのところ呼び出してすまないな」
ギルド長の部屋で俺とギルド長は対面している。
「大丈夫ですよ。体力はまだ残ってます」
「ではさっさと用事を済ませようか。まずはスタンピードの討伐ご苦労さま……と言いたいところだが」
「うっ……」
ギルド長の声音が変わった。
「よくもまあこれほど盛大にバラしたな。最近、SSSレアアイテムの能力については秘匿したほうがいいと言ったはずだが」
ギルド長はタブレットに先程のスタンピードの配信を写し、とんとんと指でつついた。
もとの真那の配信はさっき非公開になったものの、切り抜きや違法アップロードがいくつもサイト上にアップされていて、どれも高い再生回数を誇っていた。
ちなみに、元になった真那の配信はすでに100万を超えている。
「で、でも神王鍵の見えない斬撃自体はすでに見せてるから大丈夫だって……」
「馬鹿者。言葉による伝聞と実際の映像では全くの別物だ。見たまえ、掲示板ではすでに君専用のスレッドで君の剣の能力が分析されている最中だ」
「ですよね、すみませんでした……」
「過ぎたことをこれ以上言ってもしかたないから、これからは気をつけるように」
「はい……」
「あと、あの赤い短剣のような情報をすべて教えろなんて言わないが、できる限り共有してくれるとこちらも君の情報を隠蔽に協力しやすくなる」
そう言えば、と俺はあることを思い出した。
「段田たちはどうなるんでしょうか」
「ああ、すでに連絡は入って、大方の事情は聞いてる。資格停止中のダンジョン侵入と君に危害を加えた件で即刻資格は永久剥奪。彼の仲間も侵入補助と君へ危害を加えることに加担したとして、同じく資格剥奪になった。まったく馬鹿なことをしたものだ……」
段田は今まで、学校ではユニークスキル持ちの冒険者として威張り散らしていた。
成績も最下位付近だったはずだし、素行不良として内申点も低い。
それでも許されていたのは優秀な冒険者だったからだ。
人気も、冒険者だったから受けることができていた恩恵を失った段田の将来は……想像するに難くない。
「そう言えば、君は決闘に勝利したんだろう。彼に請求する対価はどうする」
「そうですね、段田の持ち物は全て俺が回収しているので、それを売り払いたいと思います。後は……正直もういいかな、と」
「なに? 君には10億ぐらいなら請求する権利があると思うが?」
「いりません。段田には10億も支払うのは不可能でしょうし。正直、今は一円でも欲しい状況ですが、妹を助けるためにあいつの金が入ると思ったら反吐が出ます。それに、あいつの一番大切なものは俺が叩き折りましたから」
借金させるとなると、また段田に時間をかけなきゃならない。
冒険者の身分を失った今、段田は借金すら出来ないだろう。
そもそも大して金がとれないことは分かってるなら、時間を割くだけ無駄だ。
「そうか……君が決めたことなら私から改めてなにか言う必要はないな。私からの話しはこれで終わりだ。もう帰って構わないぞ」
「はい」
それから俺はギルドのシャワーだけ借りて、家に戻った。
***
それから、段田は学校には来なくなった。
俺に負けたことが相当堪えたのか、今は部屋に引きこもっているらしい。
そして担任は今までの悪行、それに暴行未遂と発信機を取り付けたことですぐに懲戒免職になった。
まあ、妥当な判断だろう。
担任には新たな教師がやってくるらしい。
担任が外れた理由を聞いたときのクラスの反応は今でも覚えている。
「おかえりなさい」
学校から帰って来ると、家にはセレーネがいた。
この光景も今では日常になっている。
「これからダンジョンへ行くのですか?」
「ああ」
「では、ご一緒します」
セレーネが隣に立つ。
そして俺は、神王鍵の扉を開けた。
──このときの俺は、配信に映った影響なんて深く考えていなかった。
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