覚悟の差(他者視点あり)
【真那視点】
(なにこれ……)
目の前で起こっている光景を、真那はすぐには理解できなかった。
対して傷を負っていない蓮の方が表情を恐怖に染め、普通のダンジョン攻略なら撤退しているレベルで重傷の尊の方が余裕がある、という奇妙な光景を。
さっきまで優勢だった段田蓮の方が今は地面に尻をつき、劣勢だったはずの星宮尊の方が今では蓮を見下ろしている。
真那は、尊は勝てないと思っていた。
なぜなら先ほどの冒険者身分証を見たとき、真那は見てしまったのだ。
冒険者ランクの下に記載されている尊のレベルとステータスを。
そのステータスは冒険者として見たとき絶望的なステータスだった。
レベルが60近いのに、ステータスは30レベルの平均程度しか無い。
ステータスなら自分やヒーラーの清華にすら負けているだろう。
尊は「ステータスはアクセサリーで補っている」と言っていたから、ある程度低いことは想像していたがそれでもここまで低いとは思っていなかった。
きっと、尊は今まで強力なアクセサリーと武器に頼りきりだったのだろう、とそう思っていた。
だからこそ、真那はあの段田蓮という冒険者には勝てないと思った。
段田蓮はユニークスキル持ちで、今勢いに乗っている冒険者として、冒険者ギルドでも少し有名だ。
面識もない真那も名前は知っているくらいだった。
蓮のステータスは平均よりも高いと聞いている。
ユニークスキル持ちで、ステータスでも劣っている尊が決闘で勝てるわけが無いと思った。
でも、違った。
ステータスなんて低くても、尊は今、蓮を圧倒している。
尊にあるのは技術と覚悟。
まず、戦いに対する覚悟が違った。
どれだけ斬られても、痛めつけられても動じない。
傷を負うことを恐れていない。
そして、速度には自信がある自分でさえ目で追うのがやっとな、ユニークスキルの一撃を受け流すどころか、自分でも使用できるようにさえなった。
あれは才能じゃない。
何度も何度もその技を間近で見て、その身に受けたことで習得した技術だ。
それだけでなく、剣を振るう一挙手一投足にさえ血の滲むような努力が見える。
あそこに至るまで、どれだけの努力を積んだのだろうか。
真那はアクセサリーや武器に頼りきりだったのだろう、と考えたことを恥じた。
尊の強さの根底を支えているのは、あの技術と覚悟だ。
血の滲むような鍛錬の果てに習得した技術と、勝つために傷を負うことも恐れない覚悟なのだ。
「すごい……」
真那は胸の前で拳を握りしめ、そう呟いた。
***
蓮は、目の前で自分を見下している尊に恐怖していた。
自分の最強の技が通じず、技さえ盗まれた。
手が震える。
思考ではすでに勝ち目がないことは分かっている。
しかし蓮は必死に認めないようにしていた。
「もう終わりか、段田?」
尊は蓮に問いかける。
答えない蓮に、尊が一歩踏み出す。
「ま、待て!!」
蓮が両手を前に突き出した。
「なんだ」
「……ひ、引き分けにしよう!!」
「はぁ?」
尊が眉根を顰める。
「そ、そうだ引き分けにしょう! お前が強いことは分かった! だから今回の引き分けにしよう! 俺はこれから一切お前に絡んだりしないと誓う! だからここで手打ちにして、決闘はなかったことにしよう! な、いいだろ?」
蓮は薄ら笑いを浮かべ、尊に対して必死に言葉を重ねる。
しかし尊はハッ、と笑った。
「……それが通じると思ってんのか?」
尊がまた一歩踏み出す。
蓮の薄ら笑いを浮かべている表情が歪んだ。
「くっ……」
蓮は唇を噛みしめる。
駄目だ。ここで負けたら、駄目だ。
ここで負けたら、何か決定的なものを失う。
そしてそれを失えば、自分は二度と立ち直れない。
蓮にはその確信があった。
しかし。
「ここに来てそれか……口ほどにもなかったな」
尊が蓮を馬鹿にしたように笑う。
「っ……!!!」
尊のその言葉は、蓮の最後の戦意に火をつけた。
蓮は先ほど尊に弾かれた剣を拾い上げ、切っ先を尊へと突きつけた。
「引き分けにしないなら、俺は全力で悪あがきしてやる! スキルも、全部を使ってお前に重傷を負わせてやる! それでもいいのか!」
それは、蓮の必死のハッタリだった。
戦いを続けるつもりなんて毛頭ないのに、蓮は足を引っ張るぞ、と脅しをかけた。
蓮はまだ軽傷の範囲だが、尊は身体に重傷を負っている。
この状態で実際に蓮が全力で悪あがきをすれば、尊へさらに重傷を負わせることができる可能性はある。
だが、そのハッタリは尊には通じなかった。
「確かに勝負に絶対はない。もしかしたら勝ち目があるかもな。来いよ」
先ほどと何ら変わらない表情で、大して動揺した様子もなく尊は淡々と剣を構える。
「なんでだよ……なんで引き分けにしねぇんだよ!」
蓮は悲痛な響きをまとわせた声で尊に問いかける。
「俺はお前と違って、負けることを恐れていない」
「な……」
蓮には意味がわからなかった。
負けることが怖くない?
自分は今、こんなに怖いのに。
「たとえここで負けて全て失おうと、最初からやり直すだけだからな。そして、また強くなったらお前を倒しに行く。それだけだ」
「あ、あ……」
蓮は歯を震わせる。
その時、蓮は理解した。
違う。根本から違う。
コイツは、自分と覚悟が違う。
そしてそのことを理解したとき……蓮の心は、ポッキリと折れた。
「まて、やめろ……やめてくれ!!」
蓮は後ずさる。
足がもつれて、地面に尻餅をつく。それでも蓮は逃げるように遠ざかる。
尊へと懇願しながら。
「……確かに、お前に時間を割くだけ俺は損する。トドメを刺してる時間すら俺には勿体ない」
「な、なら……」
一つの光明を見出したかのように、蓮の表情が一瞬緩む。
「でもさ、この決闘はお前が言い出したことだ。そのケジメは……きっちりとつけないとな」
「ひっ」
蓮が恐怖に声を漏らした。
尊が剣を振り上げた。
「やめてくれぇぇぇっ!!!」
絶叫。尊が剣を振り下ろした。
剣は──蓮の顔の真横に突き刺さっていた。
地面には気絶した蓮が倒れている。
「ふーっ……」
それを見た尊は剣から手を放し、息を吐く。
尊は、蓮に勝利した。
「大丈夫か!!」
「スタンピードはどうなった!!!」
そしてちょうどその時、スタンピードの救援隊がやって来た。
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