招かれざる客

「本当にすみませんでした!!!」


 真那という名前らしい槍使いが、俺に対して深々と頭を下げて謝った。


「いや、もう大丈夫だよ。配信もすぐに止めてもらったし」


 配信がつけっぱなしになってたことが発覚したあと、すぐに配信は止まった。


「そうはいきません! 助けていただいたのに配信で全部流してたなんて私……」

「もう気にしてないから。そもそも勝手に横入りしたのは俺の方だし」


 配信してる可能性を考えずに飛び込んだのは俺の方だ。加えてあの状況で配信を切る余裕なんてなかっただろうし。

 ちゃんと確認しなかった俺の方にだって非がある。

 すでにネットに乗ってしまったものは仕方がないと割り切るべきだろう。


「それより、この魔物の魔石とか、ドロップした素材はどうやって配分する?」


 俺は目の前に散らばる大量の魔石や素材を見渡してそう言った。


「え?」


 俺の言葉に、真那は首を傾げた。


「売却したあと山分けとか……割り込んできた俺が言うのはちょっと失礼だな」

「い、いやいや!!」

「何いってんの!? ほとんど一人で倒してたじゃん」

「さすがに受け取れないから!!!」


 三人が勢いよくブンブンと首を横に振る。

 冒険者に取って、獲物の横取りはマナー違反。

 だから俺が山分けなんていうのは失礼じゃないかと思ったのだが、否定されてしまった。


「でも、四人も魔物を倒してたんじゃ……」

「それでも一%にも満たないから!」

「数千体倒したのあんたの方じゃん」

「なら倒した分はちゃんと分配して……」

「いらないから! 助けてもらったのは私達の方だし、受け取って!!!」


 魔法使いの言葉に槍使いの真那と大剣使いは頷く。


「そ、そこまで言うなら……」


 俺は勢いに押されて、つい頷いてしまった。


 ……そう言えば、さっきからこっちをずっと見つめているヒーラー少女は、どうして何も話さないんだろうか。


 俺は魔物の魔石を回収していく。

 箱の指輪のおかげで普通よりは回収しやすいものの、流石に数千体の魔石とドロップ品を回収するのに十分ほどかかってしまった。

 箱の指輪がなかったらどれだけ大変だったかは考えたくもない。


 回収し終えると、なんだか視線を感じた。

 そっちの方に目を向けると、そこには引きっつた笑みを浮かべる三人がいた。


「あの、やっぱりそれ……アイテムボックスだよね?」


 あ、無闇矢鱈に見せるのはまずかったか。

 でもいちいち拾うのは切りがなかったので仕方がない。

 俺は話題をそらすことにした。


「そうだよ。そう言えばまだちゃんと自己紹介してなかったよな。俺は星宮尊だ

「あっ、そうだった。私は高木真那で、冒険者ランクはDランクです」

「私は小山愛莉。冒険者ランクは真那と同じくDランクだ」

「わたしは鹿本小春。冒険者ランクはDランク」


 それぞれ三人が自己紹介する。

 そして最後の一人である、ヒーラーの番になったのだが。


「一目惚れしました!!!!」

「うわっ!?」


 清華と名乗った少女がいきなり手を握ってきたので、俺は後ずさる。


「申し遅れました私は橘清華と申しますっ!!冒険者ランクはCランクです! 尊さんですか、素晴らしい名前ですね! でも橘尊になったら短くなって響きもよろしいのではないでしょうか! 安心してください実家はかなり太いです! 婿に入ったら何もしなくても構いません! 家の人も口説き落として見せます!」

「えっ、ちょっ」

「せ、清華ちょっと落ち着けって……!!」

「あはは、ごめなさい……」


 俺が困惑していると他の三人が俺から清華を引き離してくれた。


「ごめんさい、あの子、ちょっと暴走するところがあって……」

「ああ、いや……」


 果たしてあれは「ちょっと」なのだろうかと気になったが、次の瞬間、試練がやってきたのでそんな疑問は吹っ飛んだ。


「そういえば、尊のランクはいくつなんだよ」


 大剣使いの愛莉が質問して来る。

 それに魔法使いの小春も追随してきた。


「そうそう、ひとりで魔物をほとんど倒したんだし、結構上なんじゃない?」

「それは……」


 どうしよう、ここでFランクっていうのは……でも、皆名乗ってるし言わない選択肢はないよな。


「俺は……Fランクだよ」

「えっ?」

「へっ」

「はい?」

「Fランク! 素晴らしいですね!」


 三者三様の反応だった。一人だけおかしい反応の人がいたけど。


「あ、あれだけ強くて……Fランク?」

「絶対嘘だ!」

「ほんとにー? ランク詐称ではなく?」

「いや、本当だって。ほら、カードにもそう書いてるだろ」


 俺は冒険者身分証を見せる。

 このカードは偽装できない。


「本当だ……Fランクなのになんであんなに強いの?」

「この装飾品で強化してるんだよ。もとが弱いから」


 じゃら、と指輪を見せつける。


「ああ、なるほど……いや、でもそれを加味しても……」

「その装備はどうやって揃えたの?」


 小春が質問してくる。

 そう言えば、どうやって説明しよう。神王鍵のことは話せないしな……。


「あー……俺のユニークスキルの『ガチャ』で当てたんだよ」


 俺は迷った末、そう説明することにした。


「ガチャ?」

「そう、俺のユニークスキル。魔力を使ってランダムでアイテムを引けるんだ」

「えー! なにそれ、引いてみて!」


 小春がキラキラした目でそう言ってくる。

 まあ、ポーションには余裕があるし、一回くらいならいいか。

 俺は魔法陣を展開する。


(これを引くのも久しぶりだな……)


 俺は神王鍵を当てて以降、今まで『ガチャ』を使ってこなかった。


 いや、使、と言ってもいい。


 それは俺が運に頼ることを辞めたからだ。

 理由は単純、運に頼っていては、神王鍵を当てる以前の俺と何も変わらないからだ。


 神王鍵を当てる以前の俺は、このままでは綾姫を助けることができないのを承知で、それから目をそらしていた。


 毎日ポーション代だけ稼いで、一日の最後にガチャを回し、エリクサーが運良く当たってくれることを祈っていた。


 そんなの、絶対に当たるはずなんて無いのに。

 緩く生ぬるい諦観のなかに沈んでいた。


 そんなの、綾姫が死ぬことを消極的に認めていたと同じだ。

 だから、俺は運に頼ることは辞めた。


 自分の未来は自分で切り開くと、そう胸に誓った。


 だから、こうしてガチャを引くのは久しぶりだった。


 魔法陣の中から手応えが帰って来る。

 俺はそれを引き抜いた。


「これは……剣?」


 目の前にウインドウが現れる。


──────

《鉄の剣》

攻撃力+5

何の変哲もないただの鉄の剣。

──────


 俺は驚いていた。

 今までは石ころとか、ゴミばかりしか当たらなかったのに、まともに使えるアイテムが当たるなんてかなり珍しいことだ。


「おおー。本当にガチャだ」

「変わったスキルで素敵ですね」

「でも鉄の剣ってことは外れなのか……?」

「いや、いつもはもっと変なのしか出ないから、十分あたりの範疇だよ」

「へー、当たりが出る確率ってどれくらいなんだろう」


 四人はそれぞれ興味深そうに俺の『ガチャ』の感想を述べている。


 その時だった。


「もういいか? 星宮ぁ」


 聞き覚えのある男の声。

 俺は舌打ちをして神王鍵を取り出す。

 声の方向を向くと、ダンジョンの出口を塞ぐように、男が数人立っていた。

 そこにいたのは──段田蓮と、その仲間だった。

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