配信の切り忘れ

 女性四人組は大量のモンスターと戦闘中だった。


 腕を見る限りDランク以上はあるみたいだが、いかんせん敵が多すぎて苦戦しているようだ。

 パーティーの構成は大剣使いと槍使い、杖を持ってる魔法使いと、ヒーラーが一人だ。


 ゴブリンが大剣使いの女性に飛びかかる。


「伏せろ!」


 俺の叫ぶ声と同時に、大剣使いがしゃがんだ。

 運命切断を使い、ゴブリンの首を跳ね飛ばす。


「えっ、何今の!?」


 大剣使いが一瞬で死んだゴブリンを見て驚きの声を上げる。

 いきなり現れた俺に、四人は驚いた表情を浮かべた。


「助けが来たの!?」

「いえ、早すぎます!」

「一人!? スタンピードだよ! 速く逃げて!」


 四人組は俺が一人だと分かると逃げるように言ってきた。

 しかし俺が周囲にいた魔物の首を跳ね飛ばすと、表情が変わった。


「はっ!?」

「ちょ、何今の!?」

「見えない斬撃!?」

「説明は後だ! 手助けする!」


 俺はアイテムボックスから【炎壊の短剣】を取り出す。


「範囲攻撃する! 俺の後ろに下がれ!」


 四人組はやはりそれなりの経験があるようで、素直に俺の後ろに下がった。

 俺は真横一直線に炎壊の短剣を振り、【炎壊波】を使った。


 熱線と衝撃波が魔物たちを襲う。

 余波が俺達の方にもやってきた。


「きゃあああっ!?」

「な、なんだこれえぇぇっ!?」


 四人組は衝撃波に身を固める。

 そして衝撃波が収まると、彼女らは恐る恐る顔を上げた。


「す、すご……」

「これは……魔法、なの?」


 その光景は地獄だった。

 あたりには焦げ臭さが充満し、地面は炎が残っている。

 魔物はほとんど全てが焼き尽くされ、地面には大量の魔石が転がっている。

 上半身がドロドロに融解している魔物もいた。

 しかし、あれだけいた魔物は全滅していた。


「お、終わった……」

「き、キツかった……!」


 槍使いと大剣使いが息を吐き出した。

 それに続いて、魔法使いとヒーラーも地面に膝をつく。


「今回は本当におしまいだって思いましたよ……」

「これでスタンピードは終わりかな……」


 魔物が殲滅されたのを見て、四人組がホッと一息つく。

 どうやらスタンピードで大量の魔物と戦っていたため、疲れ果てているようだ。

 見れば身体のあちこちに傷がある。


「これ、どうぞ」


 俺はアイテムボックスから回復ポーションを四つ取り出し、全員に渡す。


「あ、ありがとう……」

「え? くれるのか……?」

「感謝します」

「ありがと……」


 四人組は回復ポーションを飲み干す。

 そして槍使いが立ち上がり、俺へと手を伸ばしてくる。


「ありがとう、助けてくれて──」


 その時、嫌な予感がした。

 俺は炎壊の短剣を再度取り出す。


「まだだ、来るぞ!」

「……え?」


 視線の先には押し寄せてくる大量の魔物がいた。


「ま、まだくるのぉ!?」

「もうヘトヘトだってのに……!」


 槍使いと大剣使いが悲鳴を上げた。

 俺は魔力ポーションで魔力を回復した後、足の早い狼の魔物を三体切り捨てる。


「もう一回さっきのを打つぞ!」

「ま、またぁ!?」

「連発できるのかよアレ!?」

「どうなってるんですか!」

「と、とにかくみんな備えて……!!」


 俺はもう一度炎壊波を放った。

 熱線が迫りくる魔物を焼き尽くしていく。

 煙が晴れた先を見て、俺は舌打ちした。


「まだいるのか……!」


 しかし奥のほうからまだ大量の魔物がこちらへとやって来ているのが見えた。


「うそ、まだいるの!?」

「もう一回だ!」


 俺は炎壊波を打つ。

 三度目の熱線が魔物を焼き尽くした……かと思われた。

 衝撃と熱波が収まったところで見えた光景に、俺は乾いた笑みを漏らした。


「うそだろ……まだいるのか」


 まだまだ大量の魔物がこちらへと迫ってきていた。

 しかし、先程のように無尽蔵という感じではなく、数百体が固まっているようだ。


「ねえ、さっきのは!?」

「生憎と弾切れだ!」


 炎壊の短剣のウインドウには『【炎壊波】制限使用回数0/3。一つ回復まで後7h53m……』と表示されている。

 もうさっきの範囲攻撃を放てないと知った四人は悲鳴を上げた。


「嘘でしょ!?」

「迎え撃つしか無い!」


 幸いにも、魔物の数には限りが見えてきた。


「おいおい、冗談だろ……!?」

「倒しきれない数じゃない!」


 俺は前にいる魔物を八体ほど運命切断で首を跳ね飛ばし、魔力ポーションで魔力を回復する。


 狼型の魔物が走ってこっちに突っ込んできた。

 その数二十体ほど。


 俺の運命切断では回復ローテーションが間に合わない。


 確実に乱戦になる。


 そう判断した俺は、炎壊の短剣を取り出し、【炎纏】を発動した。


 炎壊の短剣が高熱をまとい、刀身が発光する。

 この【炎纏】の状態では、炎壊の短剣の攻撃力は倍になる。


「はあっ……!!」


 運命切断で打ち漏らした狼型の魔物を炎壊の短剣で叩き切る。

 すると狼型の魔物は真っ二つに割れた。

 今の俺の攻撃力は【炎纏】状態を合わせて300を超えている。

 Dランクの魔物なら一撃で葬り去れる。

 それこそ、ゴブリンキングだって一撃で倒せるはずだ。


「や、やるしかないわ!」

「あとちょっとの辛抱だな!」


 四人組は武器を握り直し、乱戦に参加した。


 俺はそれを見ると、跳躍して魔物の群れの真ん中に飛び込んだ。


 槍使いが「なにを……!」と言っている声が聞こえたが、俺は死角も知覚できているから問題ない。


 四方八方から迫りくる魔物を切って、切って、切りまくる。

 運命切断と【炎纏】状態の炎壊の短剣、ときには普通の斬撃を使って迫る魔物を殺していく。

 飛びかかってくる魔物を様々な方法で、すべて殺していく。


 そして最後の魔物が残った。


「お前が、最後だ……!!」


 炎壊の短剣で切り裂く。


 魔物は塵となって消えていった。


「終わったか……」


 流石に疲れた俺は神王鍵と炎壊の短剣を握った両腕を力なく垂らし、深く息を吐いた。


「お、終わったぁ……」

「し、死ぬ……」

「もうへとへとです……」

「疲労困憊……」


 四人組も地面にへたり込んでいる。

 俺はアイテムボックスから回復ポーションを取り出して、渡した。


「おつかれ、これ」

「え、あ、ありがとうございます……」


 俺の差し出した回復ポーションを見て、四人は不思議そうに目を見開く。

 ああ、そうか。

 さっきのような非常事態ならいざ知らず、見ず知らずのやつから差し出されたポーションなんて怪しいか。


「別に怪しいものは入ってないよ」

「ああ、いえ! 疑ってるわけじゃないんです!」

「そうそう、そうじゃなくて……」


 疑われてるわけじゃないなら何だろう、と俺が首を傾げたところで。


「あっ」


 槍使いが何かを思い出したかのように声を上げた。


「どうしたんだ、真那」


 大剣使いが槍使いに尋ねる。

 槍使いは恐る恐る胸元につけている四角い……カメラ? のようなものを手に持った。


「配信……つけたままだった」

「えっ?」


 俺は思わず声を上げた。

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