因果応報
俺の「担任から外してほしい」という言葉に、担任は目を見開いた。
「え、安藤先生をですか?」
校長と教頭が担任を見る。
担任は驚愕していたが、校長と教頭の視線を受け、作り笑いを浮かべる。
「な、何を急に言っているんだ星宮。冗談か?」
「安藤先生、口を挟まないでください。安藤先生を担任から外すんですか?」
「そうです、この人を俺の担任から外してほしいんです」
「星宮!」
「安藤先生、少し黙っていてください」
「くっ……」
教頭が厳しい口調で担任に黙るように命令する。
担任が黙ったのを見て校長が質問してくる。
「安藤先生は他の教師からも評判はよく、生活指導の役割を請け負っている方です。その安藤先生を担任から外したい理由を、差し支えなければ教えていただけないでしょうか」
「信用できないからです」
「信用できない? 安藤先生がですか?」
「おっ、おい星宮……!」
「安藤先生」
それまで人の良い笑みを浮かべていた校長が、担任を睨んだ。
「今は星宮さんに話を聞いています。黙っていてください。次は退席していただきます」
「ですが……」
「それとも、星宮さんに話してほしくないことでもあるんですか?」
「……」
担任は口を閉じた。
「すみません星宮さん。続きをお聞かせ願えますか? なぜ安藤先生は信用できないんでしょう?」
「単純に、自分へのいじめを容認していた人を信用は出来ないでしょう。そういうことです」
「え、いじめ……!?」
「いじめですか!?」
校長と教頭が目を見開いた。
食いつくと思った。
今の御時世、教師は全員いじめという言葉に敏感だ。
「この人は俺がクラスでいじめられているのを知っていて、放置していました」
「し、知らない! 俺はそんなことは知らなかった!」
隣に座っていた担任が立ち上がった。
「本当のことです。いじめを放置するどころか、支持もしていたくらいですよ」
「う、嘘を付くな! そんなものデタラメだ! 証拠は、証拠はどこにある!!」
「証拠ならありますよ」
「はっ?」
担任が素っ頓狂な声を上げた。
俺はスマホを取り出して机に置く。
「ここに担任がいじめを支持していた証拠があります。録画していました」
「そ、それは……!!」
俺は録画を再生する。
それは俺が段田との戦いに発展しそうになったときの録画だった。
動画には俺のことを一方的に悪者認定する担任が写っていた。
本当は段田と闘うことになった場合、正当防衛の証拠として録画したものだがったが、運良く担任がいじめに加担していたことを証明するための証拠にもなった。
「これは……」
「言い逃れできませんね……」
録画を見て、校長と教頭は言葉を失っていた。
「わ、私はただこのときは星宮が悪いのではないかと誤解しただけで……」
「ここまで一方的に話を聞かずに決めつけて? 勘違いでしたは通らないのではありませんか?」
「ここまで露骨な態度を取っておいて、それはないでしょう……」
「こ、こんなものは証拠にはならない! これで私がいじめに加担していたなんてこじつけだ!」
「安藤先生、これは常識的に考えてどう見ても加担しています」
「ええ、安藤先生が段田蓮という生徒の肩を持っているのは一目瞭然です。よって、いじめに加担していたという話も本当である可能性が限りなく高い。こじつけとは言えませんね」
担任の言い訳に校長と教頭は呆れていた。
担任は眦を釣り上げて反論する。
「なっ、私は今まで進路指導として長年この学校に貢献してきたんですよ! そんな私を……!」
「もう、結構です」
校長は担任の言葉を遮った。
「星宮さんの証言と録画はあなたがいじめに加担していた、と認定するのに十分な証拠です。詳しい事実確認と調査はこれから行いますが、まあ、懲戒処分は免れないと思ってください」
「どちらにせよ担任からは外れてもらうことになるでしょうね」
「なっ、いやっ、ちょっ」
まだ何か言おうとしている担任を無視し、校長と教頭はこちらに向き直る。
「星宮さん、今までいじめに気が付かず、本当に申し訳ございません。生徒を預かっている身として恥ずかしいばかりです。校長として謝罪させていただきます」
校長と教頭が深く頭を下げる。
「星宮さんのご要望通り安藤先生には担任を外れてもらい、いじめに関しての調査を行ったあと、当事者の生徒や安藤先生には適切な処分を下します」
「この人がいなくなった後の担任はどうするんでしょう」
「明日から担任を用意します。もちろん同じ事態が再発しないよう、こちらでしっかりと見極めた人間に務めてもらいます」
「ま、待て! 待ってくれ!」
俺と校長が後のことについて話していると、担任が割って入ってきた。
「すまなかった星宮! 今までの事は俺がやったと認める! お前の言う通り、俺はバカで最低な人間だった! この通りだ、本当に悪かったと思ってる! だから許してくれ!!」
担任はそう言って土下座し始めた。
「……先生」
俺は担任の肩に手を乗せる。
「星宮……!」
担任が顔を上げる。
その顔は喜びに染まっていた。
きっと俺が許すと、そう思っていたのだろう。
だが、俺が許すはずもない。
「自分のしたことの責任は取りましょう」
「……え?」
「では、そういうことで。俺は忙しいのでそろそろ失礼します」
俺はソファから立ち上がり、制服の襟を正す。
「はい、これからもよろしくお願いいたします」
校長や教頭も立ち上がり、俺は校長室から出ていこうとした。
しかし担任に縋りつかれる。
「ほ、星宮! 待ってくれ! 本当に俺は反省しているんだ! これは嘘なんかじゃない! これからは心を入れ替えて……」
「俺は別にあなたが反省したとか、心を入れ替えたかどうかはどうでも良いんです」
俺の足に縋り付く担任を見下ろす。
「あなたは俺を助けてはくれなかった。だから、俺もあなたを助けない。ただそれだけのことです」
因果応報。
自分が他人にしたことが、巡り巡って自分へと返ってくる。
つまりはそういうことだ。
「そんな……」
「では、今度こそ俺は失礼します」
俺は扉の方へと歩いていく。
その時だった。
「星宮ぁああああっ!!!!」
「安藤先生っ!?」
担任の叫ぶ声と、校長の悲鳴に後ろを振り返る。
するとそこには憤怒の形相で俺に殴りかかっている担任がいた。
謝ったのに袖にされて激昂したようだ。
やっぱり反省なんかしてないんじゃないか、と俺は心のなかで苦笑した。
殴りかかってきた担任は体育教師だ。
普通の人間よりは動きは速い。
だが、俺の敵ではない。
俺は担任の鳩尾に拳を叩き込んだ。
「が……っ!!」
担任は鳩尾を抑え、膝から崩れ落ちる。
「残念でしたね。俺は弱いですが、これでも冒険者なんです。一般人に負けたりしませんよ」
「きょ、教頭先生! 他の先生を呼んでください!」
「は、はい!」
校長と教頭は目の前の暴力事件に大慌てして、隣の職員室に教師を呼びに行った。
「じゃあ、後はお任せします」
俺はそう言って校長室から出ていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます