学校からの呼び出し


「……宮さん、星宮さん」

「ん……綾姫か。あと五分だけ……」

「何を言っているんです。起きてください星宮さん」


 目が覚めた。

 目を開けると、そこには美人なエルフがいた。


「セレーネか……」

「まったく、いつまで寝ぼけているんですか」


 眠たい目をこすって身体を起こす。


「もう朝食が出来ています」

「え、朝食作ったの?」

「昨日機械の使い方については教えてもらったので。調理器具自体は元の世界とあまり変わりませんでしたし」

「すごいな……」


 確かにコンロとか、電子レンジとか、色々と教えたがそれをすぐに吸収して朝食を作るとは恐るべき吸収力だ。

 メイドの格好をしているセレーネだがその見た目は伊達ではなかったみたいだ。


「何か失礼なことを考えてませんか?」

「いや別に?」

「なら早く顔を洗ってきてください」

「はい……」


 俺が顔を洗ったあと、朝食になった。

 セレーネが作ってくれた朝食はトーストと目玉焼きにベーコン、そしてサラダだ。


「今日はまだ器具に使い慣れていないので簡単なものにしました」

「いやいや、美味しそうだよ。いただきます」


 それから俺とセレーネはセレーネの作ってくれた朝食を食べ始めた。

 そして食べていると、セレーネが質問してきた。


「そう言えば、アヤメ、というのは一体どなたのことですか?」


 セレーネが首を傾げて聞いてくる。

 あ、そう言えばそこら辺はきちんと話してなかったな。


「綾姫は俺の妹だよ」

「妹さんですか? その割には家には昨日からあなたしかいませんが」

「綾姫は今は重い病気に罹って病院に入院してるんだ」

「ああ、なるほど、妹さんの病気を治すためにエリクサーがいるということですね」

「そうだけど……よく分かったな」

「見くびらないでください。さすがにこれだけ情報があれば誰だって分かりますよ」


 話をしている内に朝食を食べ終わる。

 するとそのタイミングで電話がかかってきた。

 学校の番号からだ。


「うわ……」

「どうしたんです」

「いやな人から電話がかかってきた」

「ああ、昨日言ってた遠くの人と会話ができる機械のことですか。出ないんですか?」

「相手が嫌な人なんだよな……」


 担任からの電話なんてろくなことになる気がしない。

 しかし昨日無視しているので、今回は出ないといけない。

 意を決して俺は電話に出る。


「はいもしもし」

『星宮か! 昨日は何をしてたんだ! ずっと電話してたんだぞ』

「あー、すみません、遅くまでダンジョンに潜っていたので気がつきませんでした」


 ダンジョンでは普通の電波は通じなくなる。

 実際にダンジョンに潜っていたんだし、別におかしな言い訳ではない。


「電話なんで珍しいですね。何かあったんですか?」

『そうだった、星宮。今日登校してきてくれ!』

「え、いや今日言われましても……」

『お前に関わる大事なことなんだ。校長がお前を呼び出している』

「校長が……?」

『良いから学校に来てくれ。校長室に行く前に職員室に寄って俺のところまで来い。じゃあ俺は忙しいから切るぞ』

「あっ、ちょっ」


 担任は俺の都合は一切聞かず、そうまくしたてると一方的に電話を切った。

 相変わらず自分のことしか考えてない人間だ。

 俺はため息を吐く。


「どうしたんです?」

「……ちょっと学校に登校してくる」

「しばらく休むんじゃなかったんですか?」

「なんか一番偉い人が俺のこと呼んでるらしい。仕方ないから行ってくるよ」


 俺は制服に着替えて、高校へと向かった。


***


「てか、なんで校長室に行く前に担任のところにいかなきゃいけないんだよ」


 俺は高校の廊下を歩きながら今更な文句を言った。

 生徒がいる廊下を抜けて、俺は職員室へとやって来た。


「すみません、安藤先生いますか」

「お、来たか星宮!」


 担任が手招きをしていた。

 俺は担任の方まで歩いていく。


「大事なことってなんですか」


 俺はぶっきらぼうに質問する。

 もうこの担任に愛想よくする理由もない。

 担任は段田を選び、完全に俺の敵に回ったのだから。


「そのことだがな……」


 担任は歯切れが悪く言葉をつまらせる。


「ないなら早く校長室に行きましょう。俺も時間がないんです」

「ま、待ってくれ、とりあえず俺から話すことがある。…………すまなかった星宮!」


 担任は慌てたように手で制して……俺に頭を下げた。


「……は?」


 俺は眉根を顰める。


「俺が間違いだった! 今までずっとすまなかった!」

「……何を言っているんですか?」

「最近聞いたんだ。お前が今まで段田に虐められていたんだと。俺はそのことに気がつけなかった、本当にすまない……」


 担任は泣くように手で目を多い、謝ってくる。

 俺はこいつは何を言っているんだ、という思考で頭がいっぱいだった


「なあ、許してくれるよな星宮? 俺は本当に何も知らなかったんだ。段田たちにも俺からきつく言っておいた。だからこんな不甲斐ない担任である俺を許してくれ……」

「いや、えぇ……」


 まさか俺が騙されると思っているんだろうか。

 担任は確実に段田が俺をいじめていることに気がついていた上に、先日それを支持するようなことをやってのけたのだ。

 だが担任の態度を見るに、本気でやっているみたいだ。

 俺を馬鹿な子供だと舐めているんだろう。

 ここまで担任の態度が変わった理由に俺は心当たりがあった。

 多分、担任は俺がSSSレアアイテムを持ってることを知ったのだ。

 それで段田と俺を天秤にかけ、より利益を持ってきそうな俺に靡いたということだろう。

 校長が呼び出した案件もSSSレアアイテムについてだろう。


「これからは心を入れ替える。だから校長には俺のことを黙っていてくれないか」


 なるほど、そういう意図もあるのか。

 担任が俺にやっていたことは問題だ。

 俺が校長にそれを告げ口すれば一発で担任は停職か、懲戒処分に追い込まれる。

 それを防ぐために校長室に行く前に折れを呼び出し、一芝居しているわけだ。

 それなら……。


「分かりました。そういうことなら俺も溜飲を下げます」


 俺はニッコリと笑顔を浮かべ、担任にそう言った。


「本当か!? ありがとう星宮、お前がつらい思いをしていながら何も出来なかったような、役立たずの大人を許してくれて……!」


 担任はまた泣き真似をし始めた。

 きっと心のなかではほくそ笑んでいたはずだ。





 そして、俺達は校長室にやって来た。

 別に一人でもいいと言ったのだが、担任は無理やりついてきた。

 俺のことを監視したいらしい。

 校長室の扉をノックする。


「星宮です」

「入ってください」


 俺が中に入ると、校長室には校長と教頭がいた。


「休学中に呼び出して申し訳ございません。どうぞ、こちらに座ってください」


 校長は柔らかい物腰で人の良い笑顔を浮かべ、俺を校長室のソファに座るように促した。

 俺の対面に校長と教頭が座る。

 そして担任は俺の隣りに座った。

 校長が疑問符を浮かべる。


「安藤先生はなぜここに……?」

「担任として付き添いです」

「はあ、そうですか……」


 校長は納得していないようだったが、とりあえず俺に向き直る。


「星宮さんに来ていただいたのは外でもありません。SSSレアアイテムの件についてです」


 やはり俺の予想は当たっていたようだ。


「つきましては、星宮さんを当校で最大限サポートさせていただきたく思います。どうでしょう」


 学生の冒険者は、ランクが上がると学校から成績や設備などの面で援助を受けることができる。

 優秀な冒険者は学校の実績となり、そしてその冒険者を排出したということは校長や教師の実績にもなる。

 つまり、優秀な冒険者になることは学校にとって、スポーツで優秀な成績を残しているようなものなのだ。

 それこそSランク冒険者である白鷺先輩は、高校生でオリンピック選手であること以上に凄いと言える。

 白鷺先輩も高校からかなりのサポートをしてもらっているはずだ。

 もちろん、このサポートを断る理由がない。


「はい、もちろん受けさせてもらいます」

「良かったな星宮! 先生も担任として鼻が高いぞ!」


 担任が肩を叩いてくる。

 校長は笑顔で頷く。


「それは良かった。では、当校に改善して欲しい点などはありませんか? できる限りですが、改善させていただきます」


 担任の手が強張ったのが分かった。

 そして担任が俺のことを凝視してくる。


 もちろん、俺は校長に告げ口した。


「じゃあ安藤先生を担任から外してください」

「……は?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る