冒険者資格停止処分

 段田蓮が目覚めたのは、アスファルトの上だった。


「ぐ……」

「蓮! 気がついたのか!?」


 周囲にいた仲間が蓮に声を掛ける。

 蓮は体を起こし、そこで何があったのかを思い出した。


「嘘だろ、まさか俺……」

「段田蓮さまですね」


 その時、ギルドの受付嬢が蓮に話しかけてきた。


「ギルド長からの通達です。『段田蓮Dランク冒険者の冒険者資格を3ヶ月間停止する』とのことです」

「ぼ、冒険者資格を停止……!?」


 蓮は声を荒げる。


「な、何だよそれ! なんで俺が冒険者資格を停止されるんだよ!」


 慌てて蓮は立ち上がり、受付嬢に詰め寄る。


「私は伝言を伝えただけですので、それでは」


 しかし受付嬢は素っ気なく蓮を突き放すと、ギルドの中へと戻っていった。


「くそっ、ふざけるな……!」

「お、おい蓮……!」


 蓮はギルドの中へと入って行く。

 そしてギルドの受付のカウンターを殴りつけた。


「今すぐに俺をギルド長に会わせろ!! 資格の停止なんてふざけたことに俺は抗議する!」

「それは出来ません。ご要件ならこちらでお伝えすることが出来ます」


 しかし受付嬢は蓮をギルド長に会わせようとはしない。


「ぐっ……!!」


 蓮は拳を握りしめる。

 受付嬢を怒鳴りつけようとしたが、そんなことは意味がないと考えるだけの冷静さは残っていた。

 ギリ、と奥歯を噛み締め蓮はギルドから出ていこうとした。


 しかしその時。


『おい、あいつ見ろよ』

『あいつが噂の……』

『Fランク冒険者に負けたDランクらしいぜ。しかも素手でボコボコだったんだってさ』

『ハッ、そりゃ笑えるな。あれだけ毎日ギルドでイキり散らしてんのにFランクに負けたら世話ないぜ』

『あの『最弱』のFランクに素手で負けるDランク冒険者って、なぁ……?』


 ギルドにいた冒険者から嘲笑と、馬鹿にする視線を投げかけられる。

 蓮の顔が真っ赤になった。


「〜〜〜っ!!!」


 蓮は殴りかかろうとした。


「待て蓮!」

「これ以上やったら資格停止どころじゃ済まないって!」


 だが、仲間が蓮を羽交い締めにして制止する。

 蓮は踏みとどまるしかなかった。


 そしてその後、蓮たちはギルド中から浴びせられる嘲笑から逃げるように、ギルドの外へとやって来た。


「くそが……ッ!!!」


 蓮は壁を殴りつけた。

 その表情は怒りに染まっていた。


「ギルドの奴ら……! あいつら絶対に許さねぇ! 顔は覚えた、いつかダンジョンの中で闇討ちしてやる!!」


 蓮の頭に先ほどのギルドでの嘲笑が焼き付いている。

 そして、それの原因になったのは……。


「それに星宮の奴、俺を虚仮にしやがって! なにが負け犬だ!! くそくそくそッ!!!」

「お、おい蓮……」

「うっせえ黙ってろ!!」


 仲間が差し伸ばした手を蓮は払いのける。


「あいつのせいで俺は恥をかかされたんだぞ! 落ち着いていられるか!!」


 ギルドでの自分の扱いを思い出し、蓮はもう一度壁を殴りつける。


「決闘にSSSレアなんて武器を使いやがっ

て……! 卑怯だろうが……! そうだろ!?」


 蓮は仲間を睨みつけ、同意を強要する。


「あ、ああそうだな……」

「お前の言うとおりだ……」

「ギルド長だって星宮のことばっかり贔屓しやがって! あんな奴、SSSレアアイテムがなけりゃ俺のほうが強いに決まってる!!」

「で、でも星宮の奴、どう見ても前より強く……」

「だから黙ってろ! さっきはたまたま俺の調子が悪かっただけだって言ってるだろ!」


 蓮は仲間を怒鳴りつける。


「で、でも冒険者資格を停止されて、これからどうするんだよ……」

「……俺は帰る!」

「えっ、おい!」

「お前らはついてくるな!」


 蓮は仲間にそう言い残すと、一人でとある場所へと向かった。


***


 蓮がやって来たのは町外れにある廃工場だった。


 重い扉を押しのけ、中に入る。


「おい『魔女』! これはどういうことだ!」


 虚空に叫ぶ蓮。


『これはこれは段田蓮。どうしたんだいそんなに感情を荒立てて』


 すると虚空から女性の声が聞こえてきた。

 廃工場全体に反響しているので、どこから言葉を発しているのか方向を掴むことが出来ない。


「どうもこうも無いだろうが! お前の言う通りにやったのにSSSレアは手に入らないどころか冒険者資格まで停止されたんだぞ! どうしてくれるんだ!」

『と、いうことは失敗したのかな』

「だからそう言ってるだろ! どうするつもりなんだよ!」


 蓮は虚空の『魔女』に怒鳴り、怒りをぶつける。

 するとため息交じりの呆れた声が虚空から聞こえてきた。


『どうするんだ、と言われてもそもそも私は決闘する方法を教えただけで、決闘の結果は保障してないのだが……』

「うるさい黙れ! 星宮なんかに負けたせいで俺はギルドで笑いものだ!」

『まあまあ落ち着きたまえ。それよりも聞かせてほしい。星宮尊は私の教えた問答で決闘まで持っていけたか?』

「チッ、無理だったよ」


 蓮は舌打ちしながら答える。


『ふむ、それは意外だな。となるとあそこのギルド長が教えたかな。星宮尊も存外慎重な性格のようだ。まあいい、決闘に持ち込めたということは次の作戦が効いたわけなのだから。それで段田蓮。星宮尊に『負け犬』と言った結果はどうだった?』

「乗ったよ。くそ、急に不意打ちしてきやがって……!」


 『魔女』との問答で少し落ち着きを取り戻した蓮は、先ほどの決闘を思い出して苦い表情になった。


『なるほどなるほど、慎重な性格のくせに挑発は効く、と。温和そうに見えても意外とプライドは高いのかな。面白いな……』

「で、どうするんだよ」


 少し考えているような沈黙の後、虚空の『魔女』は口を開いた。


『うん、たしかに私にも非があったかもしれないな。分かった、もう一つサービスで作戦を教えようじゃないか。安心してくれたまえ。今度はSSSレアアイテムを手に入れる確率の高い作戦だ』


 からかうような、笑いを堪えるような口調で『魔女』は蓮にそう言った。


「確率の高い作戦?」

『そうだ。大丈夫、今度は成功するさ。必ずね』


 廃工場に『魔女』のクスクスと笑う声が響く。


 そして蓮は『魔女』から作戦を伝えられた。

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