新武器《炎壊の短剣》
「色々合ってまだこいつの性能は見てなかったからな……」
スケルトンナイトを倒したときのリザルト画面で見て、ちょっと気になっていたものの、あのときの俺は疲れ果てていたので先に眠ることを優先してしまった。
「てか、宝物庫にあった剣は持てなかったけど、短剣なら持てるんだな……」
俺は《炎壊の短剣》の説明欄を出す。
《炎壊の短剣》
ランク:S
攻撃力:+100
特殊能力:【炎壊】【炎纏】【炎壊波】
『かつて、特別な炎を纏う竜がいた。その竜はたった一夜で一国を滅ぼし、その後人間により討伐された。この短剣はその竜の燃え盛る鱗と骨を用いて作成された短剣である』
「ランクS!? それに特殊能力ってなんだこれ……?」
俺は特殊能力の項目をタッチし、説明を見る。
【炎壊】:この短剣で切った生物は状態異常【炎壊】を負い、傷口から徐々に炎壊していく。状態異常回復には傷口を水にさらす必要がある。
【炎纏】:刀身に高熱を纏う。高熱を纏っている間は攻撃力二倍。制限時間十分。再使用にはクールダウンが必要。
【炎壊波】炎属性特大威力範囲攻撃。制限使用回数三回。再使用にはクールダウンが必要。
「これ……強いな」
この範囲攻撃についてはどれくらいの破壊力があるのか要検証だが、 俺は魔法もあまり使えず範囲攻撃の手段がないので、範囲攻撃というだけで強い。
それにこの【炎壊】のように通常攻撃に異常状態が乗ってくるのはレア武器の証だ。
【炎壊】という状態異常なんて聞いたことがない。
「さて、とりあえず試し打ちしてみるか……」
範囲攻撃である【炎壊波】を試し打ちしようと、ダンジョンの中をしばらく歩いていると。
「お誂えむきのやつが来たな」
目の前にモンスターの群体がやってきた。
十体ほどの狼が進路を塞ぐ。
アーミーウルフだ。
この狼は群れで行動し、単体ではDランク相当だがその数と連携力からBランクモンスターに位置している。
そして、その群れの統率をとっているのは一番後方にいる一際体躯の大きい個体だ。
「それじゃ早速」
俺は《炎壊の短剣》の切っ先をアーミーウルフたちに向ける。
その瞬間、剣から炎が吹き荒れた。
「うわっ!?」
ドラゴンの
範囲攻撃が終わった後、そこに残っていたのはアーミーウルフの魔石と素材だけだった。
洞窟の天井や床は熱により溶けている箇所もある。
「……なんだこの威力」
その威力に、俺は唖然とするしかなかった。
「さすがはSランクなだけはあるな……」
この威力、魔法スキル持ちのAランク冒険者が放つ魔法に匹敵しているだろう。
「一回のクールダウンは8時間か……」
ウインドウには『【炎壊波】制限使用回数2/3。回復まで後7h59m……』と書かれてあった。
つまり一日に三回しか連続で打てないわけだが、魔力を消耗しない武器のスキルでこの強さは破格と言ってもいいだろう。
だけど、仲間がいた場合ダンジョンの中で使ったらこの威力では仲間を巻き込んでしまう恐れがある。
非常に危険な武器だ。
「そういう意味ではソロでよかったな……」
俺はそう呟くと、アイテムボックスのウインドウを開いた。
そこには二つの新しいアイテムが写っている。
「さて、次は《騎士の腕輪》と《騎士の剣》を見てみるか」
スケルトンナイトを撃破して手に入れた報酬は《炎壊の短剣》だけではない。
俺はまずは《騎士の腕輪》を取り出した。
《騎士の腕輪》
防御力+20
『騎士がつけていた腕輪。騎士が敬愛していた姫より授かった思い出の品』
「効果はこれだけか……でも、+20は俺には結構デカいな」
なんせ、ステータスが低すぎるのだ。
防御力はあって困ることはない。
装備に要求されるステータスも低いし、つけておこう。
「次は《騎士の剣》だな」
俺は《騎士の剣》を取り出す。
《騎士の剣》
攻撃力+10
『なんの変哲もないただの剣。しかし、騎士として誇り高く生きた男の血と汗が染み込んでいる。王国が滅亡する際、男はただの一騎士にもかかわらず、この剣と極限まで磨かれた技でたった一人で敵を食い止め、姫を逃がしきった』
あのスケルトンナイトが持っていた剣だ。
刃は磨かれており手入れが行き届いているものの、年月を感じる細かいキズが所々についている。
使い込まれたことがよく分かる剣だった。
これは、売れないなと思った。
恐らくこれから使うことは無いだろうが、アイテムボックスに入れておこう。
「さて、後はできるだけモンスターを狩るだけだな」
最近、稼ぐための土台を固めていたとはいえ、モンスターの魔石やドロップ品はあまり手に入れることが出来なかった。
遅れた分をここで取り戻さなければならない。
「魔力ポーションも回復ポーションも大量にある。今日は気が済むまで狩ってやる」
俺は神王鍵を取り出し、狩りへと戻っていった。
***
そしてモンスターダンジョンに潜って七時間ほどが経過した。
「大体二億円か……」
俺は今回のドロップ品を見て呟く。
あれから俺は魔力ポーションを30本ほどを消費した。
魔物は大体300体ほど倒したが、目標の三億円には届いていない。
なぜなら、群体で行動する魔物が増えてきたからだ。
俺の神王鍵の能力『運命切断』の捉えられる対象は一体だけ。
それに、群体で行動する魔物は総じて魔石や素材の価値が低い。
その魔物の単体は下位のダンジョン出てくるし、素材や魔石は市場に溢れている。
もちろん単体モンスターも出てくるが、体感半分は群体モンスターだ。
つまり、利益が低い。
「そろそろ帰らないと……」
もうちょっと潜っていたいが、そろそろ身体が限界だ。
群体モンスターは倒し切るまでに時間がかかるので、単体モンスターと違って戦闘する時間が発生する。
そのせいで体力がもう限界に近い。
「はぁ、これは早いとこ下層に潜らないとな……」
下層じゃないと多分稼げない。
早いこと中層のエリアボスに挑みたいが、前回のことを考えると今の俺で勝てるかどうか……。
俺はファストトラベルで神王城の中へと戻った。
「おかえりなさい」
「ただいまセレーネ」
「今回は長かったですね」
「ああ、もうくたくただよ。早く帰って寝たい……」
俺は神王鍵を捻り、扉を開く。
「あっ、あの……!」
セレーネが背後から声をかけてきた。
「も、もう帰るんですか……?」
セレーネは目を泳がせ、両手の指を絡ませている。
「そのつもりだけど……何か用事があるの?」
「い、いえっ、そういうわけではなくてですね……」
セレーネは歯切れ悪くそう言った。
言いたいことが言えなくて言葉を詰まらせているような表情だ。
「……いえ、やっぱりなんでも……」
しかし言えなくて、一瞬諦めたような表情になった。
「セレーネ、大丈夫だ」
俺はセレーネが何を言いたいのかは分からなかったが、そう言うべき気がした。
多分、ここで諦めさせてはだめだ。
「……っ」
するとセレーネは目を見開き、黙った。
しばらく沈黙が続いたが、やがてセレーネはゆっくりと話し始めた。
「その、私は、ここで永い時間、一人で過ごしてきました」
ゆっくりと噛むようにセレーネは言葉を紡いでいく。
「ここは、あらゆる世界から隔絶された場所です。来れるのは、あなたのような世界の法則を破って、神王鍵を手に入れた人だけ」
ギュッ、と胸の前で拳を握る。
「もちろんそれを分かってここの管理者になりました。でも本当は…………寂しかったんです」
そして、セレーネは絞り出すようにそう言った。
「私も……そっちで暮らしたい、です」
「いいよ」
「……ですよね、私みたいな素直じゃないエルフなんて……うぇ?」
セレーネが変な声を上げる。
「別にいいよ。俺、両親いなくて妹と二人暮らしなんだけど、その妹も今は入院してるし。実は俺も一人暮らしは寂しかったんだ」
「ほ、本当に良いんですか……? だって、私ですよ? 人と接する時間が少なすぎてひねくれた私ですよ……!?」
「だから良いって。ほら行こう」
「きゃっ、そんな強引に……!」
俺はセレーネの手を掴むと、強引に引っ張って神王鍵の外へと連れ出した。
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