確かめたいこと

 俺はギルド長室に通されていた。


「さて、さっそく本題に入りたいが、その前にすまなかったな、星宮くん。奴にはペナルティを課しておく」

「ペナルティ、ですか?」

「ああ、これからギルドをうろちょろされても面倒だからな。三ヶ月冒険者資格を停止する」

「うわぁ……」


 思わず声が漏れてしまった。

 冒険者にとって、資格の停止はかなりの痛手だ。

 なにせダンジョンに潜れなくなる。

 冒険者として学校で威張っている段田にとっては致命傷かもしれない。


「私の手を煩わせるな、といったのに君を挑発したんだからな。当然さ。それに建前ではあるが決闘するのはルールで禁止している。処分としては妥当だろう」

「すみませんギルドの前で決闘なんかして」

「いや、決闘を申し込まれた側は例外だ。どちらかといえば被害者だからな。そろそろ本題に戻ろう。それで、話とは一体どうしたんだね」

「素材の件なんですけど、予定よりも遅れそうでして……」


 俺は正直にギルド長に理由を話した。


「……というわけで、今週の分は予定していたよりも少なくなりそうなんです。一番最初からすみません……」


 ギルド長は俺の話を最後まで聞き終わると頷いた。


「気にするな。ダンジョンに閉じ込められていたなら仕方ない。冒険者には稀にあることだ」


 初っ端の取引から約束通り素材を用意できないのはどうかと思ったが、どうやら許して貰えそうだ。

 俺はギルド長に感謝する。


「ありがとうございます」

「ああ、それで話は変わるが、前に言い忘れていたことがあってね。君に一つやってもらいたいことがあるんだ」

「やってもらいたいこと、ですか」

「そうだ。君の今の冒険者ランクはFだろう?」

「はい、そうですけど……」

「それをCランクまで上げてもらいたい」

「えっ、Cランクまで……?」


 ランク?

 どうしていきなりランクを上げるんだろう。


「これは君のためでもあるんだ」

「俺のため、ですか?」

「分かりやすく言えば、SSSレアアイテムの能力を隠すためだな。今、君のSSSレアのアイテムの情報はほとんど出回っていない」


 ギルド長はスーツの裏ポケットから煙草の箱を取り出し、新たに一本火を付ける。


「SSSレアアイテムの能力の情報は大きな武器だ。可能な限り秘匿しておいた方がいい」

「でも、俺さっきの決闘で使っちゃったんですけど……」

「さっきの決闘で使った斬撃か。あれは能力の一端だけだろう。レッドドラゴンのときにも使っていたし、それ自体は新しい情報でなく、知れ渡っているものだ。本来の能力である専用ダンジョンについてはまだバレていない」


 確かにそうだ。

 俺がドラゴンを倒したことは自白してしまったので広まっているはずだが、神王鍵の本当の能力については知っているのは俺とギルド長くらいだ。


「話を戻すが、君とこれから取引を続けていく以上、どうしても君が大量に高ランクモンスターの素材を手に入れていることを怪しむ人間が出てくる。そのときに君の冒険者ランクがFランクのままだと確実にSSSレアの能力について勘付かれる」

「なるほど、Cランクに上がることで隠すんですね」

「その通りだ。CランクになるとAランクダンジョンにも潜れるようになってくる。そうなるとSSSレアアイテムの能力もあるから、君が高ランクモンスターの素材を大量に仕入れていても問題なくなる、というわけだ。まあ、ここまでやっても気がつくやつは気がつくがね。やったほうが絶対に良い」

「でも俺が……Cランクに上がれますかね?」


 俺のステータスはDランクでも平均以下だ。

 レベルのことも考えれば本当にCランクになれるのかは怪しい。


「大丈夫だ。私が権力を使ってねじ込んでおく」

「け、権力……」

「というのは冗談だ」

「いや、冗談に聞こえなかったんですけど……」


 煙草を吸ってる雰囲気といい、どう考えても一般人のそれじゃない。


「Cランクまではステータスではなく魔物の討伐数でランクが決められるんだよ。だからステータスの心配をする必要はない」

「それならたしかに大丈夫そうですね……」

「だからダンジョンに潜ってCランクまで上げてほしい。もちろんランクを上げる分、毎週の素材に関しては減っても大丈夫だ」

「ありがとうございます」


 さり気なく素材の量につてもフォローしてくれているあたり、ギルド長はいい上司だということがよく分かる。


「これで私の話したいことは終わりだ。時間を取らせて済まなかった。他に用事ははあるかな?」

「いえ、特には」

「ではそういうことでよろしく頼む」


 こうして、俺とギルド長の話し合いは終わった。


***


 そして帰ってきた俺はとりあえず神王鍵の中に入った。

 冒険者ランクを上げたいのは山々だったが、その前にいくつか確かめたいことがあったのだ。


「おかえりなさい」

「ただいま、セレーネ」

「ちょうどいいところに来ましたね。紅茶を淹れたのでこちらをどうぞ」

「え? ああ、ありがと……」


 椅子を引いたので俺はそこに座る。

 紅茶を飲んでいると、俺の向かい側にセレーネが座った。


 セレーネが無言で紅茶を飲む。


 ……なにこの時間。


 無言の時間に耐えきれなくなった俺は、ちょうどその時セレーネに聞きたかったことがあったのを思い出した。


「そういえば、セレーネに聞きたいことがあったんだけど」

「なんです?」

「セレーネはエリクサーを作れる?」


 セレーネは不老不死のエルフだ。

 エリクサーを作れてもおかしくない。


「私には作れませんね。そもそも私には錬金術のスキルがないので」

「え、錬金術のスキルがないのか?」

「そうですよ。スキルがポンポン生えてきているあなたがおかしいだけです。まあ、錬金術自体ができないわけではないですが、エリクサーレベルのものを作るとなると、どうしても錬金術のスキルが必要です」

「そうなんだ……」


 やっぱりセレーネにはエリクサーは作れないようだ。

 ま、大体予想はしていたから特にショックはない。

 というか、こんなにスキルが生えてくるのって、やっぱりおかしいのか。


「ありがとう、地道に頑張るよ」

「はい」


 その後紅茶を飲み干した俺は、モンスターダンジョンの中層へとやってきた。


 セレーネがエリクサーを作れるかどうかは確かめたかったことの一つ目。

 そして二つ目は……。


 俺はアイテムボックスからとあるものを取り出す。

 手に握られていたのは刀身が赤い短剣だった。


「こいつの性能を見てみないとな」


 俺はそう言って《炎壊の短剣》を掲げた。

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