強者の入り口
二回目の挑戦。
スケルトンナイトは強かった。
Dランクモンスターとは思えないほどのパワー、速さがあった。
俺はただその強さに翻弄され、腕を深く切られ、治癒の指輪では回復しきれないと思った時点で一度円の外に出た。
ポーション一本目を飲む。
残りはあと十九本。
セレーネが全てのポーションを持っていけと言った意味をようやく理解した。
だが、このポーションを使い切りたくはない。
とりあえず、装備を全て見直すことにした。
戦闘向き以外の指輪は外し、アイテムボックスの中にある使えそうな指輪を全て嵌めた。
──────
【箱の指輪】:無限にアイテムを収納することができる指輪。
【沼の指輪】:魔力を貯蓄することができる指輪。
【戦士の指輪】:ステータスの攻撃力を二倍にする指輪。
【守護の指輪】:ステータスの防御力を二倍にする指輪。
【活力の指輪】:ステータスの持久力を二倍にする指輪。
【速度の指輪】:ステータスの敏捷力を二倍にする指輪。
【治癒の指輪】:つけている限り、装備者を常時少量回復し続ける指輪。
【頑強の指輪】:耐久力を少し上昇する指輪。
【体力の指輪】:持久力を少し上昇させる指輪。
【筋力の指輪】:筋力を少し上昇させる指輪。
──────
若干の強化にしかなってないが、ないよりはマシだ。
「もう一回……!」
俺は円の中に踏み込んだ。
スケルトンナイトが剣を抜く。
今までの二回の戦いの中で、スケルトンナイトの動作が遅いことは分かった。
だから、俺は全速力で肉薄し、剣を振り下ろす。
──ぬるり。
俺の全力を込めた一撃を、スケルトンナイトは頭上で真横に構えた剣で、下り坂をつくるように傾斜をつけ受け流す。
腕から伝わる柔らかいものを切ったかのような感触で、俺は衝撃を吸収されたのだと初めて理解した。
剣術の素人の俺が見ても分かる、完璧な受け流しだった。
スケルトンナイトはすれ違いざま、カウンターで俺の脇腹を斬りつける。
俺は真正面から地面に倒れ込んだ。
血が地面に飛び散る。
「ぐ、あああああ……ッ!!」
脇腹の焼けるような痛みに俺は悲鳴を上げる。
スケルトンナイトが剣を振りかぶり、俺にとどめを刺そうとする。
しかし全ての思考を放り出しそうになる脳みそに活を入れ、円の外へと手を伸ばす。
「うっ、ぐ……っ!!」
スケルトンナイトの動きが止まったのと同時に、ポーションを飲み干す。
これは、罰だ。
本当の強さを身に着けようとしなかったツケが回ってきたんだ。
俺は今まで、魔物との戦いにおいて、危険を犯していなかった。
安全圏から楽に運命切断を使って倒してきただけだった。
そんな環境で成長できるはずがなかった。
確かにここで神王鍵だけ振るっていてもレベルは上がる。リソースも手に入る。
だけど、本当の強さは手に入らない。
これは『本当の強さも身に着けろ』というメッセージだ。
「まだだ……!!」
スケルトンナイトを睨みつける。
まだ完全には回復しきっていないが、俺は立ち上がり剣を構える。
そしてまた戦いへと身を戻していった。
***
戦っていると徐々にスケルトンナイトの攻撃をいなせるようになってきた。
切り傷はもらうものの、致命的な剣をもらうことは減ってきている。
俺よりもスケルトンナイトの力の方が強い。
真正面から競り合えば俺が負ける。
だから俺が今磨くのは受け流す技術。そしてそこから攻撃につなげるカウンターだ。
そうして戦いの中で実践していると、さっき見た受け流しも見様見真似だができるようになってきた。
「は……ッ!!」
スケルトンナイトの剣を剣で受け、威力を殺す。
そしてカウンターを放つ。
スケルトンナイトが反応して避けたせいで浅かったが、俺のカウンターは鎧に浅い傷をつけた。
「よし……っ!!」
俺は心のなかでガッツポーズをする。
これが俺が初めてまともに当てられた攻撃だった。
『おめでとうございます! スキル『剣術』『動体視力』『反応速度』を習得しました!』
スキルを習得したウインドウが出てきたが、俺はそれを無視して戦う。
だが、俺の戦いが防御とカウンター中心になっていると、今度はスケルトンナイトが積極的に攻撃を仕掛けてくるようになった。
鋭い踏み込み。畳み掛けるような連打。
スケルトンナイトの力は強い。
攻撃させてはだめだ。
俺はここで自分から攻めることにした。
カウンター中心ではなく、積極的に攻撃を仕掛けていく。
スケルトンナイトの踏み込みを真似しながら戦っていると、『おめでとうございます! スキル『体術』を習得しました!』とウインドウが表示された。
一つ間違えれば死ぬ緊張感。
命を懸けた戦いの中で、技が、動きが、全てが研ぎ澄まされていく。
もう、時間の感覚が無い。
最初の三時間は計っていたが、それ以降は時間を確認していない。
一日経ったのか、一週間経ったのか、それともまだ半日しか経っていないのかもしれない。
「はぁっ……! はぁっ……!」
俺は肩で息をしながら二十本目のポーションの飲み干す。
頬、肩、足、胴、全身についた十以上の切り傷が閉じていく。
『おめでとうございます! 『剣術』スキルがレベル19にレベルアップしました!』
『おめでとうございます! 『動体視力』スキルがレベル8にレベルアップしました!』
『おめでとうございます! 『反応速度』スキルがレベル11にレベルアップしました!』
目障りなウインドウを消し、俺は神王鍵を構える。
次の瞬間、鋭い突きが俺の顔めがけてやってきた。
剣を立て、軌道をそらす。
顔の真横を火花をちらしながら剣が通り過ぎていく。
スケルトンナイトの胴ががら空きだったので一撃を入れようとするが、その瞬間スケルトンナイトから回し蹴りが飛んできた。
「ッ……!」
予想外の攻撃だったが、俺はギリギリで手を滑り込ませてガードする。
後方へ吹き飛ばされた。
俺は息を整えて立ち上がる。
『おめでとうございます! 『体術』のスキルがレベル26にレベルアップしました!』
スケルトンナイトの動きが、はじめの頃と明らかに違う。
戦いの中で進化しているのは、あちらも同じなのだ。
防御も、攻撃も、スケルトンナイトの技は全部吸収した。
あとは俺が越えるだけだ。
だがすでにポーションは飲み切っているので、もう俺は回復できない。
つまり、俺には後がない。
「ここで決めるしか無い……」
だが、スケルトンナイトもそれは同じこと。
鎧には無数の切り傷、凹みがある。
もうすぐ、俺はスケルトンナイトの防御を突破し、その鎧を破壊できるだろうという実感がある。
どちらがより先に相手を殺すか、その勝負だ。
スケルトンナイトが剣を立て、顔の真横に構える。
俺も同じ型で神王鍵を構える。
お互いが同時に踏み出した。
スケルトンナイトが選んだのは、上段からの振り下ろし。
俺が選んだのは、右斜め下からの切り上げだった。
「はああああッ!!!」
俺は全力で切り上げる。
剣を振る速度は今や俺のほうが早い。
俺の剣のほうが確実に先に当たる……!
しかし。
──剣は宙を空振った。
「なん……」
スケルトンナイトは俺の剣が届く一歩手前で立ち止まっていた。
(ここでフェイント……!?)
今まで見せていなかった行動に俺は驚愕する。
同時に剣を空振って無防備な俺に、スケルトンナイトが剣を振り下ろす。
スローモーションで剣が降ってくる。
(なにか考えろ! この状況を打開する一手を……!)
死の間際、俺は必死に頭を振り絞る。
その時、脳裏にあるアイデアが浮かんだ。
それは俺が今までスケルトンナイトに見せていない技。
魔力の放出だった。
少ない魔力だが、一気に放出すればそれなりの衝撃波を生む。
スケルトンナイトは俺の魔力の衝撃波に押され、体勢を崩す。
俺はその隙を見逃さなかった。
「おおおおお……ッ!!」
切り上げの威力を殺さないようにくるりと回転し、叩きつけるようにしてスケルトンナイトに剣を振る。
全力を込めた一撃がスケルトンナイトの鎧を破壊し、その下の骨を断っていく。
スケルトンナイトの身体が両断された。
「……」
両断されたスケルトンナイトの胴体が床に落ち、下半身が膝をつく。
そしてゆっくりと、塵になっていく。
俺も力が抜けて、その場に膝をついた。
『おめでとうございます! スケルトンナイトを倒しました!』
『モンスターダンジョンを攻略したことにより、中層への入場資格が与えられました!』
『上層突破特典として、『騎士の腕輪』『騎士の剣』『炎壊の短剣』を手に入れました!』
目の前にウインドウが表示される。
「……勝った」
ぽつりと呟く。
まだ課題はある。
いまだって負けそうになった。
でも、勝った。
言葉を噛みしめるように拳を握って、立ち上がる。
「帰るか……」
そして、神王城へと戻っていった。
──────
ステータス
名前:星宮尊
レベル57
魔力:33
攻撃力:60
防御力:38
持久力:48
敏捷性:43
称号:【運命から外れし者】【神王鍵保持者】【森の主】
スキル:『ガチャ』『錬金術Lv3』『剣術Lv19』『体術Lv26』『動体視力Lv8』『反応速度Lv11』
──────
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