栽培の自動化
「セレーネ」
「おかえりなさい。その様子だと、目的のものは手に入れることができたみたいですね」
森林ダンジョンから戻って来ると、いつも通りセレーネがいた。
俺はさっそくセレーネに質問する。
「セレーネ、どうやって種を栽培するのか知ってる?」
「知ってますよ。畑を作って、種を植えて育てるんです」
「いや、それは知ってるんだけど……」
「冗談です。どこで育てるか、ですね」
セレーネは肩をすくめる。
真顔で言ってるから冗談だって分からなかった。
「設備の中に畑があります。そこが一番薬草の栽培に適しているでしょう」
「案内してくれる?」
「はい」
俺はセレーネにその畑まで案内してもらった。
「ここが畑です」
セレーネが扉を開く。
部屋の中には畑が広がっていた。
「広いな……」
俺が考えているよりも畑は広かった。
学校の体育館二つ分くらいの広さだ。
それに、俺の考えていた畑とはイメージが違った。
俺はどちらかといえば平原に畑があるのを想像していたのだが、ここの畑は水耕栽培のようで棚が等間隔に並べられている。
「この下の階にも畑はあります。お望みでしたら増設することも可能ですよ」
どうやらまだまだ畑があるらしい。
「ありがとう。でもとりあえず植えてみるよ」
「では種を取り出してください」
俺は魔力草の種が入った袋を取り出す。
袋は手のひらよりも少し大きいくらいで、そこそこの量の種が入っていた。
「それを一つずつ溶液の中に浸してください」
「こうか?」
言われた通り、俺は溶液で満たされた穴のなかに種を入れた。
「あとは待つだけです。明日には恐らく収穫できるでしょう」
「明日!? 早くないか!?」
草が育つ時間が思ったよりも早かったので、俺は驚愕する。
「ここの畑は特別製ですので」
まあ、育つのが早くて損することはないから気にする必要もないか。
「収穫するときはどうすれば良い?」
「ちょっと待ってください」
セレーネはそう言って、今俺が種を入れた穴に手を翳す。
そしてセレーネは集中するために目を瞑った。
すると手が光り、次の瞬間には魔力草の青い花が咲いていた。
「なにその魔法」
「植物の成長を操るエルフの魔法です。人間のあなたでは扱えませよ」
「そっか……」
人間には扱えない魔法なら諦めるしか無い。
「収穫するときは引き抜いてください。他にご質問は?」
セレーネにそう言われて、俺は疑問に思っていたことを思い出した。
「そういえば気になってたんでけど、種って消耗品なの?」
「いえ、ちゃんと回収できるので安心してください。花のところから種がとれます」
そう言ってセレーネは魔力草を抜き取り、手の上で花の部分を下に向けて振る。
するところりと種が二つ出てきた。
「え、花のところから種が取れるの?」
「ここの畑は特別製なので」
なんだかその特別製という単語が免罪符になっている気がしないでもない。
「まあ良いか、とりあえず全部植えてみよう」
俺は手に持っている種をすべて植えることにした。
とりあえず、持っている種を全部植えてみた。
種を穴に落とす単純な作業なのだが、案外時間がかかった。
「ふー……」
俺は汗を拭う。
「これ、収穫のことを考えるとかなり大変だな……」
栽培する工程は簡単なのだが、種の量が量なので時間がかかってしまった。
これは結構まずい。
この量の種を植えて、回収して、種を取るだけでも二、三時間はかかる。
これに加えてポーションを作る作業までかかるとなると……時間が取られすぎる。
俺はこれ以外にもしなくてはならないことがあるのだ。
ただ、ポーション作りも欠かすことのできない作業であることも確かだ。
「どうするかな……」
俺は思案する。
この作業を自動化出来たらいいんだけど、と考えていたところでセレーネの視線に気がついた。
無表情で静かに俺のことを見守っているが、なにか聞いてほしそうな雰囲気を出している……気がする。
思い切って聞いてみた。
「セレーネ、この栽培の工程なんだけど、自動化する方法はある?」
「ありますよ」
「まじで!?」
まさかあるとは思っていなかったので、大きな声が出てしまった。
「どうやるの!?」
「単純です。人手を増やせば良いんですよ」
「人手を増やす? でもここには俺とセレーネしかいないけど……」
「別に、人手は人間じゃなくてもいいでしょう。錬金術でゴーレムを作ればいいじゃないですか」
「あっ」
確かに、錬金術でゴーレムを作れると聞いたことがある。
錬金術のスキルをもっている冒険者は直接的な戦闘力が低いので、ゴーレムなどの自分の代わりに戦ってくれるものを作るのだそうだ。
幸い、ここには錬金術の道具はすべて揃っているし、なにより俺には錬金術のスキルがある。
「ゴーレムはどうやって作るんだ?」
俺は重ねてセレーネに質問する。
「ゴーレムに必要な素材は主に鉱石と、動力源です」
予想とは違う、ちょっと質問の意図とはズレた答えが返ってきた。
セレーネの表情を見てみるが、俺の質問を勘違いしたわけでは無いようだ。
これはつまり前にも言っていた「自分で考えろ」という意味だろう。
「必要なのは鉱石と、動力源……」
鉱石が取れるダンジョンに、俺は心当たりがある。
「セレーネ、鉱石ダンジョンで鉱石を取ってこようと思う。必要な道具はある?」
「ピッケルですね。最悪剣でも鉱石はとれますけどピッケルのほうが効率は良いです」
「了解」
俺はすぐに宝物庫に向かい、ピッケルを箱の指輪に詰め込んだ。
どれくらいでピッケルが壊れるかも分からないので、全てのピッケルをアイテムボックスに入れた。
そして次に工房にある錬金術の本を読み、必要な鉱石の情報とゴーレム動力源についての情報を手に入れる。
全ての準備を終えると、俺は石の扉の前に立つ。
「じゃあ、行ってきます」
「いってらっしゃい」
セレーネの声に背中を押されながら、俺は鉱石ダンジョンの中へと入っていった。
「……ここが、鉱石ダンジョンか。なるほど、鉱石が取れそうな場所だ」
鉱石ダンジョンを一言で表すなら、「鉱山の中」だ。
狭い洞窟の中には所狭しと鉱石が生えている。
「全部採り尽くしてやる……!」
俺はそう呟いて、ピッケルを肩に担いだ。
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