森林ダンジョン上層エリアボス攻略
ギルド長との商談が終わったあと、俺は綾姫に今持っているポーションを全て渡しに行った。
これから毎日渡しに行けない日もあるからだ。
そしてポーションを渡し終え、家へと戻ってきた俺は神王鍵の中に入った。
いつもの部屋にはセレーネがいた。
椅子に座ってなにかの本を読んでいる。
「セレーネ、ただいま」
「どうも」
セレーネはぶっきらぼうに返事を返すと、本を閉じてこっちを見た。
「今日のご予定はどうするんです?」
「森林ダンジョンでできる限り薬草を集めてポーションを作ったあと、モンスターダンジョンの上層をクリアしようと思う」
「モンスターダンジョンの上層を?」
「ああ、早く下層に行きたいからな」
「そうですか。なら一つアドバイスをあげますが、森林ダンジョンの上層を先にクリアしたほうが良いと思いますよ」
「え、なんで?」
「これからのポーションを作る時間的効率が格段に早くなるからです。ほら手を出して、これを使うと早く攻略できると思いますよ」
セレーネが指輪を渡してきた。
「ちょ、もうちょっと詳しく……」
「だめです、これ以上はただのアドバイスじゃなくなりますからね。ここはあなたを育成する場所です。自分で考えて行動してください」
セレーネはそう言って突き放す。
だが自分で考えて行動しろ、という割にはアドバイスをくれているので、実は優しい性格なのかもしれない。
いや、絶対そうだ。
面倒くさそうにしながらも俺の質問には全部答えてくれてたし。
現に今も森林ダンジョンの攻略に役立ちそうなアイテムを渡してくれている。
「……今、なにか変なことを考えてますか?」
「いえ、滅相もない」
じろりと睨まれたので目をそらす。
どうやらセレーネは勘が良いらしい。
「分かった、今日は森林ダンジョンの上層を攻略することにする」
俺はセレーネの言葉を信じることにした。
「いいんですか、私の言葉を信じて」
「信じるも何も、セレーネは騙すようなタイプじゃないだろ? 優しい性格だし」
「っそうですか、精々頑張ってください」
「アドバイスありがとう、セレーネ」
「……はやく行ってきてください」
俺から顔を背けてそう言うセレーネの耳が、少し赤くなっているような気がした。
***
俺は森林ダンジョンへとやってきた。
「エリアボスのところまで一直線に向かうか……」
俺はマップを見ながらそう呟く。
できるだけ魔物との戦闘は避けたいし、このあと時間があればモンスターダンジョンにも潜りたいので時間も節約したい。
俺はまっすぐに森の中心へと向かう。
知識の指輪をアイテムボックスに収納し、指に【隠密の指輪】を装備した。
さっきセレーネが俺に渡してくれた指輪だ。
この隠密の指輪は、大きな物音を立てたり、モンスターの近くまで接近しない限り姿を隠してくれる、という能力を持つ。
まさしくエリアボスに直行したい俺にとってはうってつけのアイテムだ。
さすがに装飾品というだけあって、ローブなどの装備よりは効果が劣るらしいが、それでも便利であることは変わりない。
薬草採集のときにも使えるアイテムだろう。
そしてマップの中心へと歩くこと三十分。
モンスターと遭遇しそうになってヒヤッとっした瞬間もあったものの、俺は無事エリアボスのもとまでたどり着いた。
「ここか……」
森林ダンジョンの上層は、それまで木が鬱蒼と生えていた森とは違って、開けた場所になっていた。
そしてその真ん中にいる、巨体の亀。
森林ダンジョン上層のエリアボスは、地竜だ。
地竜は俺に気がつくと目を覚まし、起き上がる。
同時に俺も神王鍵を取り出した。
やはり、ここでも決着は一瞬だった。
並の冒険者では傷ひとつつけられないような外皮に覆われた首を、神王鍵の運命切断が切り裂く。
首と胴体が分かたれ、小さな山とさえ錯覚するような巨体が倒れ、塵となっていく。
『おめでとうございます! エリアボスを撃破しました!』
目の前にウインドウが現れる。
『エリアボスを突破したため、称号【森の主】が与えられます』
「……え?」
称号とやらにも興味があったが、俺はもう一つのウインドウに釘付けだった。
──────
エリアボス撃破報酬:
《魔力草の種》
《回復草の種》
《筋力草の種》
《俊敏草の種》
《耐久草の種》
《暗視草の種》
《解毒草の種》
《睡眠草の種》
《麻痺草の種》
《晴天草の種》
《活力草の種》
《耐火草の種》
《耐水草の種》
《耐風草の種》
《耐電草の種》
《耐地草の種》
《耐氷草の種》
──────
「た、種……!? そういうことか……!」
俺はセレーネの言っていることを理解した。
ポーションを作る時間的効率が格段に早くなる、つまりそれはポーションに必要な薬草を栽培できるようになる、ということだったのだ。
確かにセレーネの言っていることは間違いじゃなかった。
薬草を栽培できるならわざわざ採集する必要もなくなるし、安定して薬草を手に入れる事ができる。
「てか、なんか見たことない薬草も混ざってるな……」
多分、上層エリアの円周には生えてなかった草だ。
名前から察するに、恐らく耐性を一時的に強化する薬草の種なのだろう。
報酬を確認し終わるとウインドウを消して、塵となって消えていった地竜がいた場所に目を向ける。
「さて、魔石と素材……」
地竜の魔石と素材を回収する。
地竜はBランクの魔物。
ドラゴンよりは劣るが、それでもデュラハンやガーゴイルよりかは高価な買取額だったはずだ。
地面に落ちた地竜の魔石と素材を回収する。
──────
ドロップ品:
《地竜の魔石》×1
《地竜の甲苔鉱》×1
──────
ドロップ品を確認して、俺は顔を上げる。
するとそこには小さな遺跡のような建物と、中層へと続く階段があった。
今までは地竜の巨体に隠れていたようだ。
「とりあえず、中層に降りるだけ降りて帰るか……」
階段を下っていく。
そして降りること数分、出口の明かりが見えてきた。
松明の明かりだ。
出口から出て、俺は呟く。
「中層は……夜になってるのか」
広がっていたのは夜空だった。
そして目の前には鬱蒼と茂る森。
森林ダンジョンの中層はどうやら夜の森のステージらしい。
夜の森には一つも明かりがないため、流石に暗すぎて迂闊に中へは入れない。
今の俺にはこれ以上進むことは出来なそうだ。
「目的は果たしたし、さっさと帰ろう」
俺は扉を出して神王城の中へと戻った。
次は薬草の栽培だ。
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