ギルド長との商談
学校に行ったついでに、俺は冒険者ギルドへと行くことにした。
昨日稼いだ素材を売るためだ。
だが、この高ランクモンスターの素材を売るとき、どう説明すれば良いのだろうか。
Fランク冒険者である俺が当然手に入れられるような素材ではない。
一回目はイレギュラーモンスターという言い訳が合ったが、二回目もその言い訳が通るとは思えない。
というか、これから数多くの高ランクモンスターの魔石と素材を持ち込むのに、全部イレギュラーモンスターで手に入れました、なんて通るわけがない。
だが、誰が聞いてるかもわからないあの買い取り受付で正直に俺の神王鍵の能力を説明したくはない。
俺がSSSレアランクアイテムを持ってることは公開されているが、能力までは公開されていないのだ。
もし俺の神王鍵の能力が分かれば、リスクを背負ってでも奪いに来る奴がいるかもしれない。
「そういえば、ギルド長から名刺もらってたな……」
ギルド長が部屋から出ていく直前、「これから私に直接伝えたいことがあればこの番号に電話してきなさい」と渡された名刺があったことを思い出した。
俺の神王鍵の能力を他人に悟られないようにして、かつ高ランクモンスターの素材を定期的に買い取ってもらうようにするためにはこれしか無いだろう。
俺はその名刺に書かれている番号に電話をかけたのだった。
***
ギルドに入ると、少し視線を感じた。
大抵の冒険者は受付に並んだり、仲間と雑談しているのだが、その中から俺へと視線を向け、言葉をかわしている冒険者がいた。
「あいつが……」
「ああ、SSSレアの……」
ギルドの中を歩いていると、そんな声が聞こえてきた。
どうやら決して多い訳では無いが、すでに俺がSSSレアアイテムを持っている冒険者であることに気がついている奴がいるらしい。
「あっ、星宮さん、こちらです!」
視線を受けながら受付の方へと歩いていると、横から名前を呼ばれた。
声の方向を向くと、手を振っている受付嬢がいた。
昨日素材の買い取り受付にいた受付嬢だ。
俺はそちらへと近づいてく。
「ギルド長から話は伺っています。どうぞこちらへ」
「ありがとうございます」
受付嬢が奥へ続く扉を開け、俺もそれに続こうとしたところで。
「先日は申し訳ございませんでした!」
「えっ」
その受付嬢は深く頭を下げてきた。
一瞬意味が分からずフリーズする。
「いきなりどうしたんですか。なんで謝ってるんです?」
「昨日、星宮さんのステータスとアイテムのことを大声で叫んでしまいました……!」
「あー……」
俺は納得した。
「別に俺は気にしてないですよ。ステータスも知られて困るようなものはないですし、アイテムについてはどのみち公表するつもりでしたので」
「星宮さん……!」
受付嬢が感極まったような顔で見上げてくる。
「ありがとうございます……! それではギルド長の元まで案内いたしますね」
「はい、よろしくお願いします」
俺はその受付嬢のあとをついていった。
そして俺は昨日と同じ応接室に通された。
すぐにギルド長が入ってきた。
俺の目の前に座ると、火をつける。
「タバコ、良いかね?」
「あ、はい」
ギルド長がタバコに火をつけ、紫煙をくゆらせる。
「昨日はウチの職員が君のステータスを勝手に口外してしまったようですまなかった」
「ああいえ、俺はもうそのことは気にしていないので」
「そうか。それで、話とはなんだね。SSSレアアイテムに関係しているとのことだったが」
「はい、俺の神王鍵の能力はご存知ですよね」
「ああ。なんでも切れる『運命切断』だったか? 我々にはプロテクトがかかっていてSSSランクアイテムであることから先は分からなかったが」
「そうなんですが、実は神王鍵にはもう一つ能力があるんです」
「もう一つの能力?」
「神王鍵の中にはダンジョンが存在しています」
「……なんだと」
ギルド長が静かに目を見開いた。
タバコの灰を灰皿に落とそうとしたところで固まったせいで、灰がポトリと机の上に落ちたことにも気がついていなかった。
「しかも、一つだけではありません。百以上のダンジョンが存在しています」
「それは…………間違いではないのか? ダンジョンがあるアイテムなんて前代未聞だぞ」
ギルド長は絶句したあと、我に返り質問してくる。
「はい、間違いありません」
「なるほど……。運命切断だけでは、正直なぜSSSランクアイテムに分類されていたのか不思議だったが……ようやく謎が解けた。確かにSSSランクアイテムだ」
「ここからが本題なのですが……」
「ま、まだこれ以上があるのか……?」
「はい。これが、俺が神王鍵のダンジョンの中で手に入れたアイテムの一部です」
そう言って、俺は昨日モンスターダンジョンで手に入れた魔石を一部机の上に取り出した。
「ちょ、ちょっと待て! 今のはなんだ!」
いきなり机に出現した魔石を見てギルド長は突っ込んだ。
あ、そういえばこのアイテムボックスの指輪のことも話してなかった。
「これは箱の指輪と言いまして、どんなアイテムでも無制限に収納して取り出すことが可能な指輪です。いわゆるアイテムボックスですね」
「アイテムボックス!? しかも、む、無制限……!?」
ギルド長が灰皿の上にタバコを取り落とした。
「ただのアイテムボックスでもAランク以上は確実なのに、それが無制限……!? それこそSSランク以上は確実なアイテムじゃないか……!」
ギルド長はハッと我に返る。
「星宮くん。それを売ったりは……」
「すみません、俺しか使えないんです」
「そうか……それなら仕方がない。話を逸してすまなかった。続けてくれ」
「はい、ここの魔石は俺がダンジョンで手に入れた一部です。これ以外にも素材もあります。これを買い取りしていただきたいんです」
「これは……高ランクモンスターの魔石ばかりじゃないか。それをこんなに大量に……!?」
「それだけではなく、俺はこれ以上の量の素材を毎日持ってくることが出来ます」
ギルド長は目を見開く。
「……なるほど、話が見えてきたな」
ギルド長は口の端を釣り上げる。
綺麗な人なのに、そういう仕草がやけに似合っていた。
「君は高ランク素材を大量に持ってくる。その代わり私達は君の神王鍵の能力を秘密にすることに協力し、素材を買い取る。そういうことだな?」
「話が早くて助かります。それで、どうでしょうか」
「どうも何も、良いに決まっているだろう」
「ほ、本当ですか……!?」
「こっちからお願いしたいくらいだよ。こちらにデメリットがないどころか、メリットしか無い。この商機を逃すようなら今すぐにギルド長をクビされても文句は言えないさ」
「でも、規則とかは……」
「私達が君の持ってくる魔石や素材が不正なものでないと認識していれば、それで問題はない」
どうやらルール上も問題は無いみたいだ。
あっさりと決まりすぎて、逆に恐ろしくなってきた。
「さて、詳しい話を決めていこう」
それから俺とギルド長は詳細な話を決めた。
まず、素材の買い取りは一週間ごとになった。
毎日来るのはさすがに面倒くさいだろう、というギルド長側からの配慮だ。
そしてこれから素材の買い取りは受付ではなく、この応接室の中で行われる。
これは俺が受付で大量の素材を取り出すところを見て、注目を集めないようにするため。
もちろん神王鍵の能力などについては秘密にするという契約が結ばれた。
これ以外にも細かい取り決めは合ったが、大まかにはこんなところだ。
こうして俺は、高額素材を売るルートを得たのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます