森林ダンジョンで採集
「案外早かったですね」
扉の先にはセレーネが待っていた。
「森林ダンジョンへ行きたくなった」
「そうですか。まあ、あなたのステータスでは確かに魔力を増やしたほうがいいでしょうね。目標的にも」
「え? セレーネって俺の目的知ってるの?」
多分今まで一度も話したことはないはずだが。
「もちろん知りませんよ。でも、お金が必要だということは見てれば分かります」
「そんなに分かりやすい……?」
「分かりやす過ぎですよ。いいからさっさと森林ダンジョンに行ったらどうです? 時間がもったいないですよ」
「確かにそうだ。じゃあ行ってきます」
「……!」
セレーネはその言葉に驚いたように目を見開く。
「…………い、いってらっしゃい」
そして目を逸し、頬を染めると小さな声でそう言ってくれたのだった。
***
「ここが森林ダンジョン……」
風で葉がこすれる音と、揺れる木漏れ日。
俺は森林のなかにいた。
いつも潜っている洞窟型の閉塞的なダンジョンとは違い、とても開放的だ。
「本当にここはダンジョンなのかって思うくらい広いな……」
天を見ればダンジョンの中だというのに太陽がある。
日本のダンジョンも洞窟型以外のダンジョンがあるのは知っているが、洞窟型以外に入るのは初めてだったので俺は物珍しくてあたりを見渡してしまう。
「ん?」
すると目の前にウインドウが現れた。
──────
《筋力草》
食べると一時的に少しだけ攻撃力が上昇する。
調合すると効果が上昇する。
──────
「もしかしてこれか……?」
俺は地面の草を抜き取る。
知識の指輪で見てみるとやはりこれが《筋力草》のようだ。
「てか名前がそのままだな……」
もしかして別の世界ではちゃんとした名前があるけど、こっちの世界の言葉で翻訳するときにわかりやすく変更されているのだろうか。
「とりあえずあって損はなさそうだし、アイテムボックスに入れとこう」
筋力草をボックスへと収納する。
すると真横に青い花を咲かせている草があったので調べてみる。
「これは……? 魔力草……これだ!」
──────
《魔力草》
食べると一時的に少しだけ魔力を回復する。
調合すると効果が上昇する。
──────
これが俺の欲しかったものだ。
やはり俺の予想通り、魔力を回復する草が存在した。
アイテムボックスに放り込み、魔力草を求めて森の中を探索していく。
この森林ダンジョンの構造は地図の指輪でマップを見る限り、普通のダンジョンとは少し違うようだ。
ダンジョンは三層に分かれており、この俺がいるフィールドが一番上の上層となっている。
フィールドは円形になっており、中心に近づくほど危険なモンスターと貴重な植物が生息している。
逆に円周に近づくほどモンスターは弱く、少なくなっている。
そして中層、下層へと下る階段の前にはそれぞれ強力なモンスターが潜んでいるようだ。
いわゆるエリアボス、ダンジョンボスのことだろう。
だが今日は上層の円周だけ回って必要な魔力草を確保して戻ることが目標だ。
そうして、比較的安全な円周上を探索しながら魔力草や、他の目についた草や花を収集していると。
「お、あったあった……ん? なんだここ」
魔力草から離れた場所に一箇所固まって、いくつかの淡く発光する白い花が群生している場所があった。
恐らく数十本ほど固まって生えており、小さな花畑になっていた。
近づいて調べてみる。
──────
《回復草》
食べると少しだけ回復する。
調合するとポーションになる。
──────
「っ……!!」
説明文を見た瞬間、鳥肌が立った。
『調合するとポーションになる。』
魔力草を見つけたとき、もしかしたら、と思ったが本当に存在しているとは。
この草も俺がこの森林ダンジョンに来た理由の一つだ。
神王鍵の中にある施設として、工房や研究室があると言っていた。
もしここでポーションを自作できるのなら、一本三万円以上するポーションを毎日買う必要がなくなって、全部の金をエリクサーへと回せる。
それに在庫や金の有無に左右されず安定してポーションを手に入れられる、というのは綾姫にも俺にもかなりプラスだ。
俺は全部の回復草をアイテムボックスに放り込んだ。
「よし、この調子で集めるぞ」
俺は目についた草を片っ端から収集していく。
そして約一時間後。
「これぐらいが潮時か……」
俺は汗を拭いながら手に入れたアイテムを確認する。
──────
《魔力草》×88
《回復草》×64
《筋力草》×37
《俊敏草》×29
《耐久草》×36
《暗視草》×11
《解毒草》×25
《睡眠草》×8
《麻痺草》×5
《晴天草》×1
《活力草》×9
──────
獲得した草はこんなところだ。
目についたものは全てアイテムボックスに放り込んだので、よくわからないものも混じっている。
今は使い道が分からないが、いつかは役に立つかもしれない。
「よし、一旦戻ってセレーネに調合について聞こう」
俺は森林ダンジョンから抜けることにした。
森林ダンジョンはモンスターダンジョンとは違い決まった出口というものはなく、帰りたくなったら念じて扉を出せばいいそうだ。
(あれ? そういえばあの洋館の中みたいな場所はどう呼べば良いんだ……?)
そんなことを考えながら俺は石の扉をくぐる。
「おかえりなさい」
するとそこにはセレーネがいた。
俺は気になったことを尋ねてみる。
「そういえば、ここってなんて呼べばいいの?」
「そうですね……特に決まった名前はありませんが、神王城とでも呼べば良いんじゃないですか?」
なるほど、たしかに城と言われれば城の中みたいだ。
「あと、ここにポーションを作成できる場所ってある?」
「ありますよ。工房に錬金術の道具があります」
どうやらポーションは錬金術で作れるらしい。
「案内してもらえる?」
「構いませんよ」
歩き出すセレーネの
後を追う。
そして俺は工房へとやってきた。
中は鍛冶場と錬金術を行う場所が合体したような場所になっていた。
恐らくあそこで鉄を打つのだろう鉄床や、火をくべる炉、そして魔女が怪しい薬を煮込んでそうな大きな鍋などが設置されてあった。
「おお……!」
男心をくすぐる心躍る光景に俺は思わず感嘆の息を漏らす。
「これが錬金道具です。あとはご自由にどうぞ」
セレーネは鍋や石の台、ガラス瓶などを指さした。
俺はそれに近づいて、手に取り……。
「セレーネ、これどうやって使うの?」
振り返ってセレーネに尋ねた。
そういえば錬金のことについて何も知らなかった。
「はぁ……そこの棚に錬金術の初歩の教本があります。それと知識の指輪を使えば道具の使い方は分かるでしょう?」
セレーネが呆れたようにため息をつきながら教えてくれる。
そういえばそうだった。俺には知識の指輪があるんだった。
改めて教本を見て、知識の指輪で道具の使い方を確認しながらポーションを作成する。
今回作るのは魔力ポーションと通常の回復ポーションだ。
作る工程自体は簡単だった。
まず魔力草をすり潰して、鍋で煮て、瓶に移す。
これで魔力ポーションの完成だ。
回復ポーションも同じ工程で作れる。
しかし一本作成するのに草を10本消費するので、結局魔力ポーションは八本、回復ポーションは六本しか作れなかった。
大量に作るにはもっと収集する必要があるようだ。
そしてポーションを作り終えたあと、ウインドウが目の前に表示された。
『おめでとうございます! 『錬金術』のスキルを習得しました!』
「……まじで?」
すぐさまステータスを確認する。
──────
名前:星宮尊
レベル55
魔力:33
攻撃力:58
防御力:38
持久力:47
敏捷性:42
称号:【運命から外れし者】【神王鍵保持者】
スキル:『ガチャ』『錬金術LV1』
──────
「本当だ、スキルを覚えてる……!」
スキルなんて滅多に覚えられるようなものではないのに、珍しいこともあるものだ。
それとも、ようやく俺にも運が回ってきたのだろうか。
というか、このレベルというのはなんだろう。
レベルが上がるなんて聞いたこと無いが……俺は今まで『ガチャ』以外のスキルは持ってなかったのでスキルについてよく理解が及んでいない。
まあ良いか、と一旦思考を打ち止めて、俺はセレーネに大切なことを質問した。
「なあ、セレーネ。この錬金術ってエリクサーは作れるのか」
「作れますよ」
「っ本当か!?」
俺は食いつく。
しかし期待は裏切られた。
「はい、ですが今から不眠不休で働いたとしても、少なくとも十年は必要ですね」
「そっか……」
俺はがっくりと項垂れる。
十年経つ前にリミットがやってきてしまう。
エリクサーを作るより金を稼いだ方が早そうだ。
と、いったん集中の糸が途切れたからか、一気に疲れが押し寄せてきた。
そういえば今日は神王鍵を手に入れて家に帰ってきたあとはずっとダンジョンに篭ってたんだった。
そろそろ体力的にも限界が来ているのが分かる。
……というか、こうして考えてみれば一日で色んなことが起こってるな。
今日はもう休んだほうが良いだろう。
俺は大きなあくびをする。
「ふあ……じゃあ俺はそろそろ家に帰るよ」
「……そうですか」
俺は神王鍵を取り出し、神王城に来たときと同様に鍵を捻り扉を出す。
「じゃあ、セレーネ。明日もよろしく」
「……あ、あのっ」
「ん?」
扉を開けようとした瞬間、セレーネに声をかけられたので振り返る。
セレーネは何かを言いたそうにしていた。
「……いえなんでもないです。おやすみなさい」
「? おやすみ」
俺は挨拶を返して、家へと戻っていった。
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