冒険者ギルドでの注目

 受付嬢は俺の冒険者身分証を慌てて手に取り、至近距離で穴が空くほど凝視する。


「え!? は……!? ちょ、ちょっと待ってください! ステータスは!? ステータスを見せてください!!」

「は、はい……」


 俺は言われるがままにステータス画面を見せる。


「はい!? このステータスで……!? ありえない……!!」


 受付嬢は俺のステータス画面を見てさらに困惑した声を上げる。


「えっと……なにか問題がありましたか?」

「問題があるかどうかじゃありませんよ!! これってドラゴンの角ですよね!?」

「え、はいそうです……」

「なんでFランク冒険者がドラゴンの角を持ってきてるんですか!?」


 あ、そうだ。

 色々と衝撃的なことが立て続けに起こったので忘れていたが、Fランク冒険者の俺がBランク以上のモンスターであるドラゴンを倒すなんて、常識的に考えてありえないんだった。


「ま、まさか違法にランクより上のダンジョンに潜ったりとかは……」

「そ、それはしてません! イレギュラーモンスターに遭遇したんです!!」


 俺は慌てて受付嬢の言葉を否定する。

 ダンジョンは冒険者と同様、脅威度に応じてランクが別れており、潜れる冒険者が法律で制限されている。

 危険なダンジョンに無謀に挑戦して死ぬことを防ぐためだ。

 俺の場合、ソロで潜れるのはDランクダンジョンの上層までと決まっている。

 だからこそBランク以上のモンスターの素材を持っているということは、違法にランクの高いダンジョンに潜ったか、イレギュラーモンスターに遭遇したかしかない。

 しかしイレギュラーモンスターに遭遇した場合、必ずと言っていいほど冒険者は死ぬか敗走する。

 そのため俺がこのドラゴンを入手した経路は高レベルダンジョンに潜った可能性が高い、ということだ。


「は……?」


 受付嬢がぽかんと口を開けてしまった。


「い、イレギュラーモンスターを倒したんですかっ!? Fランク冒険者が!?」

「は、はい……そうですけど……」

「このステータスで!? どうやって!?」

「その、俺のユニークスキルの『ガチャ』から強い剣が出て……」


 カウンターから身を乗り出して聞いてくる受付嬢の勢いについ押されてしまい、俺は正直に答えてしまった。

 一瞬まずいかな、とも思ったが疑われるよりは正直に話してしまった方がいい。

 いずれにしろ、これからダンジョンを潜っていくならバレてしまうことだ。

 毎回ドロップ品や素材を買い取りしてもらうたびに嘘をつくなんて無理だ。

 俺の実力に見合ってなさすぎるし、全部アイテムのおかげだと白状したほうが今後の手続きで面倒がない。


「ガチャって、あ、本当だスキル欄に書いてる……。それが『強い剣』ですか?」


 俺の腰のベルトに直差ししている神王剣を指さした。


「はい、これです。SSSレアのアイテムが出て……」

「ああ、なるほどだからドラゴンを……ってSSSレアアイテム!?」


 受付嬢がさらに身を乗り出してきた。


「そ、そんなのエリクサーレベルの超レアアイテムじゃないですか!? それが出たんですか?」

「そうですけど……」

「ちょ、ちょっとここで待っててくださいっ!」


 受付嬢はそう言うと、急いで奥へと引っ込んでいった。


「急になんなんだ……?」


 確かにSSSレアアイテムなんてそうそう目にするものじゃないよな。

 と、カウンターの前で待っていると、なんだか視線を感じるようになった。

 どうやら、大声でやり取りをしていたせいで今の会話がここにいる全員に聞こえてしまっていたらしい。


『おい、聞いたか今の』

『SSSレアのアイテム? ハハ、流石に嘘だろ』

『まあそうだよな』


 と、会話が聞こえてくるが、殆どは俺の言葉を嘘だと思っているようだ。

 同時に俺を小馬鹿にするような視線まで飛んできた。

 まあ、当然だ。

 俺はFランク冒険者なんだから信ぴょう性なんてないに決まってる。

 今、こうして馬鹿にされるのは仕方のない話だ。

 その代わり、その怒りを原動力にすれば良い。


「お待たせしました!」


 受付嬢が戻ってきた。


「ギルド長がお呼びですので、お手数ですが一度こちらに起こしいただいても構いませんか?」

「え? ギルド長がですか」


 予想外の言葉に俺は目を見開く。


「はい、SSSレアアイテムの件で少しお話がある、と」

「分かりました……」


 俺は「話ってなんだろう?」と思いながら後ろについていった。




「結果を述べよう。君のSSSレアアイテムは本物だった。ついてはこちらで買い取らせて頂きたい」


 俺の目の前に座る、いかにも仕事ができそうなボスという名前の似合いそうな女性はそう言った。

 彼女こそここのギルド長だ。

 机には鑑定が終わった俺の神王鍵と小切手が乗せられている。

 そこに書かれている額は、なんと100億円。


「ひゃ、100億円……」


 あまりに現実感のない大金に、俺は固まっていた。


「SSSレアアイテムだ。そう珍しい額でもないさ。で、どうする?」

「すみませんが……お断りさせて頂きます」

「理由を聞かせてもらっても?」

「そもそもこれは俺にしか使えないアイテムだからです」

「君にしか使えない? ……ああ、この『運命を外れたものにしか使えない』と書いてあるやつか」

「はい。なので買い取っても無駄かと……」


 それと、目標の1000億円に遠く及ばないので、売るくらいなら自分で使ったほうが金を稼げる、という考えもある。

 俺の話を聞いて、ギルド長は「ふむ」と顎に手を当てて少しの間逡巡すると、小さく頷いた。


「そうか……よし、なら諦めよう」

「えっ。すんなり引き下がるんですね……」


 結構あっさりと諦めたことに俺は驚いていた。


「まあ、これは形式的なものだからね。私個人としては君のアイテムを無理に買い取りたいと思っていない」

「じゃあなんでこんなこと……」

「国も優秀なアイテムが欲しいのさ。君にしか使えないのならすっぱり諦めたほうが労力を使わなくて済む。というか、これ以上仕事増やしたくない……あ、タバコを吸っても構わないかね?」

「あ、はいどうぞ……」


 ギルド長はスーツの裏ポケットからタバコを取り出して、ため息をつくように煙を吐き出した。

 なんというか、死んだ目をしていたのできっとギルド長は多忙な仕事なのだろう。


「よし、これで交渉は終わりだ。では星宮くん、そのアイテムをギルドに登録していきたまえ」

「登録とは……?」

「所有者をハッキリさせておくんだ。Sランク以上になるとどこぞのバカがこぞって難癖をつけて所有権を主張し始めるからな。その対策としてそういう決まりになっている。これが書類だ」


 ギルド長は一枚の紙を俺の目の前に置く。


「それに必要事項を記入して受付に提出していきなさい。今日は時間をとってくれて感謝する。これからなにか私に直接伝えたいことがあればこの番号に電話して来なさい。ではな」


 ギルド長はそう挨拶をして俺に電話番号が書かれた名刺を渡すと、颯爽と部屋から出ていった。


「ああ、そうだ。一つ忠告だ」


 しかしその前にギルド長は立ち止まる。


「これからは君のアイテムを狙う連中が現れる。気をつけたまえ」


 ギルド長はそう言い残すと、今度こそ部屋から出ていった。


 このとき、俺はギルド長の言葉を深く考えていなかった。


「これ、SSSレアアイテムの登録票です」

「はい、確認しました。これで登録は完了となります」


 氏名や住所などの必要事項を記入した紙を俺はギルドの窓口へと提出する。

 さっきとは違う受付嬢がその紙を受け取った。

 ギルド長から予め話が通っているのか、SSSレアアイテムと聞いてもとくに驚くことはなかった。


 そして受付嬢がそう言った瞬間、にわかに周囲が騒がしくなった。


『おい嘘だろ。SSSレアってマジだったのかよ……』

『そういえばさっきドラゴンの素材を持ち込んでたよな……』

『じゃあ、まじでFランクでドラゴンを倒したのか?』


 さっきとは違い、羨望の瞳が俺と神王鍵へと向けられる。

 見事なまでの手のひらの返しようだ。


 ギルドに用事もなくなったので俺は踵を返して歩いていくが、その際俺はかなり注目を浴びるのだった。

 


***



 そして病院に寄って綾姫へとポーションを渡した後、自分の家へと帰ってきた。


「1500万円……」


 俺はドラゴンの角と魔石、そしてゴブリンの魔石の買取価格が書かれた紙を見て呟く。

 大金だ。

 今まで俺が冒険者としてやってきた収入を合計した額より多い。


「だけど、足りない」


 1500万円じゃ毎日同じ額だけ稼いでも、一年で50億円程度にしかならない。

 1000億円には到底足りない。


「もっと、もっと金が要る……」


 そして、金を稼ぐためには力がいる。

 この世にいる全てのモンスターを狩り尽くせるような力が。


「そのためには……」


 俺は神王鍵を見つめる。

 この神王鍵で入れるというダンジョン。

 俺は底に入ることを決めた。

 庭へと出てくると、神王鍵を構える。


「……そういえば、これってどうやってダンジョンに入るんだろう?」


 説明文には神王鍵があればダンジョンに入れると書いてたけど、どうやって入るかは書いてなかった。


「剣を振るとか……いや無理だな。合言葉か? 開け! ……無理か」


 そこで俺はこの剣が『鍵』と書かれていたことを思い出す。


「こう……か?」


 それは単純な思いつきだった。

 鍵を回すように、神王鍵を回す。

 すると目の前に光の扉が開かれた。


「なるほど……神王鍵を回せば入れるのか」


 まさしく鍵と言うわけだ。


「……よし、入るか」


 俺は深呼吸をすると、扉を開けて中へと入った。


 扉を開けて中に入ると。


「……え?」

「はい?」


 目の前に着替え途中の金髪の女性がいた。

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