2
奈那子は1人で寂しそうにしている。離婚しなければ、これからも東京にいられたのに。どうして玲奈は別れたんだろう。別れたら、家族に迷惑をかけるのに。
「はぁ・・・。寂しいな・・・」
奈那子は東京の友達の事を思い出した。できれば、目の前に現れて、東京に連れて行ってほしい。だけど、いくら待っても来ない。今すぐにでも会いたいのに。
「大丈夫?」
と、誰かの声がした。だが、誰もいない。奈那子は首をかしげた。この辺りに女の子がいるのかな?
ふと、奈那子は後ろを振り向いた。そこには白い肌の女の子がいる。とても可愛い。子供が珍しくて、やって来たんだろうか?
「えっ!?」
「き、君、誰?」
奈那子は驚いた。誰かが入ってきた気配が全くしなかったのに、まさか来ていたとは。一体、いつ入って来たんだろう。
「私、早紀(さき)っていうの」
「そう」
その女の子は早紀というらしい。先は寂しそうな表情だ。自分と同じように、子供が少なくて寂しいんだろうか?
「どうしたの、寂しい顔をして」
「いや、東京に住んでたんだけど、ここに引っ越してきたんだ。新しい生活に不安なんだ」
早紀には、奈那子の気持ちがわかった。早くここでの生活に慣れてほしいな。
「そっか。大丈夫?」
「何とか」
だが、奈那子は全く大丈夫じゃない。1日でも早く戻りたいと思っている。
「これから、ここの生活に慣れるといいね」
「うん」
と、そこに玲奈がやって来た。今さっきの声を聴いていたようだ。
「誰と話してたの?」
だが、玲奈は誰もいないかのような表情だ。早紀の姿が見えないんだろうか?
「いや、何でも」
「ふーん・・・」
玲奈は再び1階に戻っていった。玲奈は扉の向こうで、首をかしげていた。どうして奈那子がひとりごとを言っているんだろうか?
その様子を見て、奈那子は思った。玲奈には早紀が見えないんだろうか? 早紀の事が嫌いなんだろうか?
「お母さん、早紀ちゃん、見えなかったのかな?」
「当然だよ。私、座敷わらしなんだから」
奈那子は驚いた。座敷わらしは聞いた事がある。だが、妖怪なんて全く信じない。テレビゲームなどでの作り話だけのものだと思っていた。
「そ、そうなの?」
「うん」
早紀は笑みを浮かべた。座敷わらしが目の前にいるとは。
「座敷わらしって、本当にいるんだね」
「いるんだよ。だけど、大人には見えないんだ」
座敷わらしは、大人には見えない。玲奈が見えなかったのは、大人だからだったようだ。
「そうなんだ。でも、言われてるんだ。座敷わらしがいる家って、幸せになるって」
「そう、かな?」
奈那子は知っていた。座敷わらしのいる家は栄える。逆に、座敷わらしが出ていった家は寂れると。この家にいれば、いい事が起こるのでは。少しワクワクしてきた。
「で、座敷わらしが出ていったら、その家は寂れるって」
「そう、なのかな?」
早紀は全く信じていない。座敷わらしの自分にそんな力があるなんて。だけど、本当かもしれない。ある日、昔出ていった家をのぞいてみると、その家は寂れていた。自分がいた頃は栄えていたのに。まさか、自分の力だろうか?
「会えるなんて、びっくり!」
「ありがとう」
「奈那ちゃーん、ごはんよー」
突然、玲奈の声がした。昼食ができたようだ。下からはいいにおいがする。
「はーい!」
奈那子は1階にやって来た。リビングには、玲奈とトクがいる。奈那子は椅子に座った。
「今日は寒いし、せっかく来てくれたんだから、寄せ鍋ね」
「ありがとう。いただきまーす!」
玲奈は寄せ鍋を食べ始めた。東京で何度も食べたが、それ以上においしい。どうしてだろう。
「おいしい!」
と、玲奈は思った。ここでは色んな野菜を栽培している。自分もここで栽培したいな。都会の生活に疲れたんだから、ここでのんびり生きるのもいいかも。
「春になったら、私もこんな野菜を作ってみたいなと思ってる」
「ふーん」
だが、奈那子は全く興味がない。東京で働く方が興味がある。
「奈那ちゃんは興味ない?」
「うん」
玲奈は笑みを浮かべた。やっぱり、東京に行って、働くのがいいよね。
「そうだもんね。それよりも、他の仕事だよね」
「そ、そうだね」
20分後、鍋の中身は少なくなった。
「ごちそうさま」
奈那子はすぐに2階に向かった。あまりここに着たくないのかな? 2人は首をかしげた。
「また2階に行っちゃった」
「どうしたのかな?」
玲奈はおかしいと思っていた。今さっき、誰かと話をしているように見える。3人以外、誰もいないのに。
「わからない。だけど、誰かと話しているようなの」
「ふーん」
トクも不思議そうな表情だ。
「私にも何なのかわからないわ。ここに来てからずっと」
「何だろう」
奈那子は2階に戻ってきた。そこには早紀がいる。早紀は奈那子を待っていたようだ。
「寄せ鍋だったの?」
「うん」
奈那子は驚いた。においだけで分かるなんて。まさか、リビングに来ていたのかな? いや、リビングに早紀の姿はなかった。
「においだけでわかったんだね」
「大好きだから」
早紀も寄せ鍋が好きなようだ。鍋はみんなで取って食べる。それが楽しいから、大好きなんだろうか?
「そうなんだ。でもすごいね」
「ありがとう」
ふと、奈那子は考えた。この辺りはとても賑やかだったのかな? 栄えていた時には、どれぐらいの人がいたんだろうか?
「ここって、昔は賑やかだったのかな?」
「そうだったみたい。だけど、私が生きてた頃は、もう子供がほとんどいなかったんだ」
早紀は、賑やかだった頃を見た事がない。だが、昔は賑やかだったというのは、資料を見てわかった。自分もこんな時代に生まれたかったと思った。
「ふーん」
「みんな、豊かさを求めて都会に行っちゃうんだな」
早紀は外を見た。その先には東京がある。みんな、豊かさを求めて、都会に行ってしまう。そして、この村は老人ばかりになり、そして消えてしまうんだろうか?
「そうかもしれないね。私、都会から引っ越してきたんだけど、都会の方が豊かだもん」
「そうだよね。欲しい物が簡単に手に入るもん」
これが都会と田舎の違いだろうか? あらゆるものがそろっている都会に比べて、この辺りは買える物が少ない。
「そして、ここは寂れてしまうのかな?」
「うーん、そうかもしれないね。お母さんは、別の人と恋に落ちた夫と別れて、ここに戻ってきたんだ」
早紀は驚いた。こんな事情があって、東京からここにやって来たのか。本当は東京にいたかったんだろうな。
「そうなんだ。どうして男って、別の人と恋に落ちるんだろうね」
「わからない。いけない事なのに、どうしてだろう」
早紀は考えた。男はどうして浮気をするんだろうか? 結婚式で一生の愛を捧げると言ったのに、それを誓えないんだろうか? 口だけなんだろうか?
「うーん・・・。考えてしまうね」
「あんまり考えないようにしようよ。しなければいいだけの事なんだから」
「そ、そうだね」
奈那子は苦笑いをした。深い事を考えずに、前向きに生きていこう。浮気なんてしなければいいだけの事なんだから。
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