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 奈那子は1人で寂しそうにしている。離婚しなければ、これからも東京にいられたのに。どうして玲奈は別れたんだろう。別れたら、家族に迷惑をかけるのに。


「はぁ・・・。寂しいな・・・」


 奈那子は東京の友達の事を思い出した。できれば、目の前に現れて、東京に連れて行ってほしい。だけど、いくら待っても来ない。今すぐにでも会いたいのに。


「大丈夫?」


 と、誰かの声がした。だが、誰もいない。奈那子は首をかしげた。この辺りに女の子がいるのかな?


 ふと、奈那子は後ろを振り向いた。そこには白い肌の女の子がいる。とても可愛い。子供が珍しくて、やって来たんだろうか?


「えっ!?」

「き、君、誰?」


 奈那子は驚いた。誰かが入ってきた気配が全くしなかったのに、まさか来ていたとは。一体、いつ入って来たんだろう。


「私、早紀(さき)っていうの」

「そう」


 その女の子は早紀というらしい。先は寂しそうな表情だ。自分と同じように、子供が少なくて寂しいんだろうか?


「どうしたの、寂しい顔をして」

「いや、東京に住んでたんだけど、ここに引っ越してきたんだ。新しい生活に不安なんだ」


 早紀には、奈那子の気持ちがわかった。早くここでの生活に慣れてほしいな。


「そっか。大丈夫?」

「何とか」


 だが、奈那子は全く大丈夫じゃない。1日でも早く戻りたいと思っている。


「これから、ここの生活に慣れるといいね」

「うん」


 と、そこに玲奈がやって来た。今さっきの声を聴いていたようだ。


「誰と話してたの?」


 だが、玲奈は誰もいないかのような表情だ。早紀の姿が見えないんだろうか?


「いや、何でも」

「ふーん・・・」


 玲奈は再び1階に戻っていった。玲奈は扉の向こうで、首をかしげていた。どうして奈那子がひとりごとを言っているんだろうか?


 その様子を見て、奈那子は思った。玲奈には早紀が見えないんだろうか? 早紀の事が嫌いなんだろうか?


「お母さん、早紀ちゃん、見えなかったのかな?」

「当然だよ。私、座敷わらしなんだから」


 奈那子は驚いた。座敷わらしは聞いた事がある。だが、妖怪なんて全く信じない。テレビゲームなどでの作り話だけのものだと思っていた。


「そ、そうなの?」

「うん」


 早紀は笑みを浮かべた。座敷わらしが目の前にいるとは。


「座敷わらしって、本当にいるんだね」

「いるんだよ。だけど、大人には見えないんだ」


 座敷わらしは、大人には見えない。玲奈が見えなかったのは、大人だからだったようだ。


「そうなんだ。でも、言われてるんだ。座敷わらしがいる家って、幸せになるって」

「そう、かな?」


 奈那子は知っていた。座敷わらしのいる家は栄える。逆に、座敷わらしが出ていった家は寂れると。この家にいれば、いい事が起こるのでは。少しワクワクしてきた。


「で、座敷わらしが出ていったら、その家は寂れるって」

「そう、なのかな?」


 早紀は全く信じていない。座敷わらしの自分にそんな力があるなんて。だけど、本当かもしれない。ある日、昔出ていった家をのぞいてみると、その家は寂れていた。自分がいた頃は栄えていたのに。まさか、自分の力だろうか?


「会えるなんて、びっくり!」

「ありがとう」

「奈那ちゃーん、ごはんよー」


 突然、玲奈の声がした。昼食ができたようだ。下からはいいにおいがする。


「はーい!」


 奈那子は1階にやって来た。リビングには、玲奈とトクがいる。奈那子は椅子に座った。


「今日は寒いし、せっかく来てくれたんだから、寄せ鍋ね」

「ありがとう。いただきまーす!」


 玲奈は寄せ鍋を食べ始めた。東京で何度も食べたが、それ以上においしい。どうしてだろう。


「おいしい!」


 と、玲奈は思った。ここでは色んな野菜を栽培している。自分もここで栽培したいな。都会の生活に疲れたんだから、ここでのんびり生きるのもいいかも。


「春になったら、私もこんな野菜を作ってみたいなと思ってる」

「ふーん」


 だが、奈那子は全く興味がない。東京で働く方が興味がある。


「奈那ちゃんは興味ない?」

「うん」


 玲奈は笑みを浮かべた。やっぱり、東京に行って、働くのがいいよね。


「そうだもんね。それよりも、他の仕事だよね」

「そ、そうだね」


 20分後、鍋の中身は少なくなった。


「ごちそうさま」


 奈那子はすぐに2階に向かった。あまりここに着たくないのかな? 2人は首をかしげた。


「また2階に行っちゃった」

「どうしたのかな?」


 玲奈はおかしいと思っていた。今さっき、誰かと話をしているように見える。3人以外、誰もいないのに。


「わからない。だけど、誰かと話しているようなの」

「ふーん」


 トクも不思議そうな表情だ。


「私にも何なのかわからないわ。ここに来てからずっと」

「何だろう」


 奈那子は2階に戻ってきた。そこには早紀がいる。早紀は奈那子を待っていたようだ。


「寄せ鍋だったの?」

「うん」


 奈那子は驚いた。においだけで分かるなんて。まさか、リビングに来ていたのかな? いや、リビングに早紀の姿はなかった。


「においだけでわかったんだね」

「大好きだから」


 早紀も寄せ鍋が好きなようだ。鍋はみんなで取って食べる。それが楽しいから、大好きなんだろうか?


「そうなんだ。でもすごいね」

「ありがとう」


 ふと、奈那子は考えた。この辺りはとても賑やかだったのかな? 栄えていた時には、どれぐらいの人がいたんだろうか?


「ここって、昔は賑やかだったのかな?」

「そうだったみたい。だけど、私が生きてた頃は、もう子供がほとんどいなかったんだ」


 早紀は、賑やかだった頃を見た事がない。だが、昔は賑やかだったというのは、資料を見てわかった。自分もこんな時代に生まれたかったと思った。


「ふーん」

「みんな、豊かさを求めて都会に行っちゃうんだな」


 早紀は外を見た。その先には東京がある。みんな、豊かさを求めて、都会に行ってしまう。そして、この村は老人ばかりになり、そして消えてしまうんだろうか?


「そうかもしれないね。私、都会から引っ越してきたんだけど、都会の方が豊かだもん」

「そうだよね。欲しい物が簡単に手に入るもん」


 これが都会と田舎の違いだろうか? あらゆるものがそろっている都会に比べて、この辺りは買える物が少ない。


「そして、ここは寂れてしまうのかな?」

「うーん、そうかもしれないね。お母さんは、別の人と恋に落ちた夫と別れて、ここに戻ってきたんだ」


 早紀は驚いた。こんな事情があって、東京からここにやって来たのか。本当は東京にいたかったんだろうな。


「そうなんだ。どうして男って、別の人と恋に落ちるんだろうね」

「わからない。いけない事なのに、どうしてだろう」


 早紀は考えた。男はどうして浮気をするんだろうか? 結婚式で一生の愛を捧げると言ったのに、それを誓えないんだろうか? 口だけなんだろうか?


「うーん・・・。考えてしまうね」

「あんまり考えないようにしようよ。しなければいいだけの事なんだから」

「そ、そうだね」


 奈那子は苦笑いをした。深い事を考えずに、前向きに生きていこう。浮気なんてしなければいいだけの事なんだから。

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