第13話

 月では女は美しさを求められる。もっとはっきりいえば、美しさしか求められない。


 よって女たちは、自分の美しさを極めること以外に興味をもたない。

 恋などしない、決して。


 美によってランク付けされた女たちは、ランクにしたがった男に嫁ぐのがルールだ。

 そのルールを破れば、女には大きな罰が下される。


 かぐや姫はそのルールをあっさりと破った。

 トップランクの美しさを持つ姫には、月の中枢組織で働く非常に位の高い男が夫としてあてがわれた。


 でも、姫は幸せにはなれなかった。

 男はずんぐりむっくりで、夜も姫を悦ばすことがなかった。


 関心は仕事にしかなく、姫への興味も薄かった。

 月によく居るタイプの退屈なエリート男だった。


 月の女たちの関心は結婚後も自分の美にしかないため、そんな男に疑問を持つ女はいなかった。


 しかし、姫はそうではなかった。

 姫は恋がしたかった。


 結婚後、姫が夢中になった男は官位は低いが、整った顔とたくましい体をもつ若者

だった。

 男は姫に夫が与えられなかったもの、甘美な夜を何度も与えた。


 狂おしく姫を求め、何度も愛の言葉を口にした。

 姫は立場を忘れ、夢中になった。もうどうなっていい、、、そして、姫は地球へと流された。


 かぐや姫はベッドの上で寝返りをうち、白い天井を見つめた。

 また同じことしそうだな。そしたらまた地球に飛ばされないかな。


 でも、いったんは眠らされるから、どのみち帝にはもう会えないな。

 ちぇ~。つまんないなー。


 帝の息子とか孫とかかな、今度の対戦相手は。

 うまく巡り合えるとい~な~。同じ星に流されたらだけど。


 かぐや姫は大きなあくびをして、半身を起こし、地球を見下ろした。

 大きな丸窓から小さな光が見える。


 それは確かに美しい星だった、しかし、大きさや輝きの似たような星は周囲にいくつもある。


 離れるほど、地球は数多の星に紛れそうになる。

 かぐや姫はそれを見失わないように、まばたきを忘れて凝視し続けた。


「帝」


 真っ赤に充血した姫の目から、大粒の涙が幾粒か零れる。

 それらはみるみるシーツに広がった。


 かぐや姫は再びベッドに倒れ込んだ。

 頬を撫でるシーツはいつまでも冷たい。


 帝の熱が早くも懐かしい。


 シーツから発する匂いは、帝が着物に焚き付けていた香の匂いに少しだけ似ていた。


 帝。

 かぐや姫の閉じた右目から、一筋だけ、つっと涙が流れ落ちた。


 見上げた丸窓からは砂を撒いた後のように数多の星が見えた。


 それらの中から、地球を探し出すことは、もう不可能だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かぐや姫の真実 梅春 @yokogaki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ