第12話

「懲りないなあ、おまえは」

 月の王は姫を見据えて、あきれて言った。


「あんな罪を犯して流された星で、最後の最後まで男といちゃついてるなんて。ほんと、大したタマだな、おまえという女は。そんなに男が好きか?」


 自分だって、取り調べの際、検分だといって私の体を楽しんだくせに。

 権力を持った男は勝手だ。


 姫は口を尖らせた。その顔を覗き込んで王が再び口を開く。


「何だ?」


 目が合うと、にやりと王が笑う。姫は顔を伏せた。

 すげーブス。やっぱりブス。ぜんぜん無理。さっきまで帝みたいなイケメン見てたから余計に無理。


「いえ、この先どうなるのかと・・・不安になりまして」

「心配するでない。悪いようにはしない」


 心配してねーよ。ばーか、ばーか。


「おまえはもう十分に罰を受けた」


 罰だったのか。楽しかったけどな。美を競うばかりの女にまみれた月での退屈な生活よりずっと。


「でも、最後はあんなことに・・・」

 思ってもないことを口にする。


「あんなこと、どうにでもなる。なかったことに」

 王は姫の手をゆっくりと握りしめた。


「わかってるな」


 あーあ、せっかくさっき「帝まみれ」にしといたのに。台無しじゃん。

 マジむかつく、このブス。


 怒りを抑え、姫は照れたようにうなずいた。

 仕方ない。月に戻れば、この男は王なのだ。


 調子にのった王は姫の手を撫でまわす。

 気持ちわりー。でも、うまくやらないとなあ。


 姫は顔を伏せ、ゆっくりと王の手をほどいた。


「すみません、ちょっと疲れてて」

「男といちゃつくのに疲れたか」


 くっそー、腹立つな、この短小包茎の早漏野郎。知ってんだぞ。


「まあ、いい。月に着くまでゆっくり寝てろ」

「はい」


 王が部屋を出ていく。姫は急に呼吸が楽になって気がした。

 一人になった部屋で姫は衣装を引き摺りながらゆっくりと歩く。


 そして、部屋の隅に置かれたベッドにばさりと倒れ込んだ。

 シーツの冷たさが頬を撫でた。


 また、あの冷たく無機質な生活が始まる。

 姫はゆっくりと目を閉じた。

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