第11話

 邸のもっとも奥深い部屋にこもり、帝は姫を抱きしめた。


「帝、苦しいです」

「言うなっ!」


 帝はさらに強く姫を抱きしめる。

 姫も帝の鍛えられた背に手を回し、力をこめる。


 帝の背中は出会った頃よりも広く、厚くなっていた。

 姫を守るために鍛錬した成果だった。


「言うな・・・」

 そのときだった。天井から太い円状の光が差し込んだ。


 周囲の護衛が光に飛ばされる。

 姫はあっという間に、その光に吸い込まれ、体を持ち上げられる。


「帝っ!」


 光は姫を帝から引き離した。


「姫っ!」


 まぶしいほどの光の中で、二人の視線が交わる。

 姫は帝の目の中に、真の気持ちを見た。


「ありがとう」


 広く逞しい胸。忘れない、その温かさを。

 そして、その内に鼓動する優しい御心を。


 いつまでも、帝の胸の中で守られていたかった。


「かぐや姫!」


 でも、それは叶わぬ夢。姫はきつく唇をかみしめながら、まぶしい光の中、瞬きもせず帝を見つめる。


 その姿を輝く瞳に焼き付けるために。

 月の船から伸びた光は一層強い力で姫を引き付けた。


 二人が互いに向かって伸ばした手は、むなしくも遠ざかっていく。


「姫ーっ!」


 白い手のひらが闇に飲まれても、帝は空を見つめたままだった。

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