第8話

 五人はいずれも姫の課題をクリアすることができず、目の前から居なくなってくれた。


 脇息にもたれかかり、扇で顔を隠した姫はにやりとほくそ笑んだ。「男にだらしない自分」から卒業できたのだと思って。


 その性根を、悪い癖を正すためにこの星に生まれ落ちたのだ。

 うまくいってるな。そう感心する反面、どこか姫は自分に失望していた。


 らしくないじゃん。怒られても、男たちをはべらして、へらへらしてなよ。楽しいよ。気持ちいいよ。たまらないよ・・・姫の中の悪魔がささやいた。


 そんな日々の中、ある侍女が姫に耳打ちをした。


「翁様が帝を姫様に会わせようと画策しております」


 侍女たちの中には計算高く、小賢しい者も少なくない。

 それが悪いとは思わない。


 悪とする者は、無知な者と、こちらの思い通りにならないほどの純粋さをもった者だ。


 そんな人間は信用ならない。

 姫はその侍女を身近にとりあげ、翁の計画を聞き出した。


 帝は狩りを装ってこの屋敷に立ち寄るという。


「帝は輝くほどに美しく、また大柄でたくましい体をもった若者だそうです」

 侍女はそう付け加えると、いたずらっぽく笑った。


 共犯者の笑いだった。


「そうですか」


 なんでもないというふうに答えながらも、姫は不安に駆られた。

 帝が噂通りの男なら、私はひとめで夢中になるかもしれない。


 この星ではかぐや姫と呼ばれる女は、前世では無類の恋愛体質だったのだから。


 それでも会ってみたい、帝に。


 これは好奇心か? 

 いや、違う。私は男が欲しかった。恋がしたかった。セックスがしたかった。限界

だった。


 火がついたのは、五人との「恋愛ごっこ」のせいかもしれない。

 男を煽り自分を追わせるゲームで昂ったのは男たちだけではなかったのだ。


 自ら仕掛けた罠に結局は首を絞められる。

 私にはやはり少し足りないところがある、残念ながら。


 思いながらも前に進む気持ちがなくなるわけではなかった。

 帝に見初められれば、また、恋ができるかもしれない。


 姫の胸は早くも恋の予感に震えていた。

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