第7話

「どんなにこの日を待ち望んでいたことか」


 中納言石上麻呂はさらりと上品に言った。

 声も見た目に合って涼やかだ。


 ほう。五人めにして、やっとイケメンが。


「私も・・・」

 初めて感情がこもったぜ。


 御簾ごしに中納言が見つめてくる。

 好みじゃないけど、いいじゃない。


 しかし線が細いな。そして、キレイすぎる。

 この星にも男色の男はわりと居るというし、この男も女を求めるのは「御家」のためかもしれない。


 その証拠にこの男からはこちらを求めようとするギラギラした感じが全くしない。


「何かお困りのことがあるとか」

「ええ、実は・・・」


 姫は言葉を切った。中納言を見る。

 きれいだけど、男っぽさに欠けるな。


 でも、こいつモテるだろうな。こーゆー王子様っぽいのが好きな女、多いもんなあ。


 控えている侍女たちに目をやる。

 案の定、伏せた顔を少し持ち上げ、中納言を見つめる女がちらほらと散見された。


「あるものが必要なのですが」

「あるものとは?」


 中納言の言葉はいつも直球だった。

 回りくどいやりとりが嫌いなのだろう。

 見ためよりずっと男らしい人なのかもしれない。


「燕の産んだ子安貝でございます。なかなか手に入らなくて」

「そうでしょうね。でも、、、私めに、お任せください」


 中納言は姫の願いをあっさりと持ち帰ろうとする。

 あ、帰らないで。


 ガールズトークしようよ。男同士の恋を話を聞かせてよ。

 とは言えない。


 中納言はすっくと立ち上がり、大股で部屋を出ていく。

 ああ、イケメンが行っちゃう。


 同じようなことを思っている侍女たちが、中納言を目で追っていた。

 足の長い中納言は部屋からどんどん遠ざかっていった。


 その足音だけが、どすどすと響いて聞こえる。

 歩き方は男らしいんだな。ってゆーことは、意外にタチ(男役)だったりして。


「ちっ」


 姫は小さく舌打ちした。

 ったく、ちょっとおもしろそうな男ほど、あっさり行くよなあ。


「ほんと、やってらんねえぜ」

「姫様」

 一番付き合いの長い侍女がたしなめる。


「だって・・・」

「夕餉になさいますか」


「うん、そうして。もう腹ぺこ」

「まあ、姫さまったら。では、急いでご用意しましょう」


 侍女たちのぱたぱたという足音を聞きながら、脇息に寄りかかった姫は強い眠気を感じ、ゆっくりと目を閉じた。

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