第6話

 大納言大伴御行は見るからに嫌な奴だった。

 どすどすと音をたてて部屋に入ってきて、動きも大きく下品だ。


「猿だな」


 思わずつぶやきがこぼれる。

 そんな姫の目の前で、大納言はどすんと大きな音をたてて腰を下ろした。


 知性のかけらもない。

 金持ちの家に生まれ、何不自由なくわがままに育ったのだろう。


 家柄以外には何の取り柄もないのに、自分が優れていることを爪の先ほども疑わない。


 選民意識ばかりが高くて、こんなふうに仕上がってる奴ってどこの国にも居るんだな。


 姫の闘争本能に火がつく。

 ぜって~、負けたくねえ、こいつには。


「龍の首の珠が欲しゅうございます」


 姫は挨拶もそこそこに大納言にねだる。

 五つの中でも最も得るのに危険が伴いそうな品を口にする。


 おまえに似合いだ、このバカぼんぼんが。


「姫、御冗談を」

 大納言は自信満々に笑った。


 人生を思い通りに進めてきた男の笑い方だった。

 気にいらねえ。


「これは、恋の駆け引き、というやつでしょうか」

 はあ? 何言ってんの、このおっさん。


「だったら、そんなまどろっこしいことはやめましょうよ。お互い大人の男と女なんだし。邸に呼ぶということはそーゆーことなんでしょう?」

 大納言は御簾に手を伸ばす。


「無礼な。下がりなさい!」

 姫はここぞとばかりに強く言う。


 大納言を前にしてためていたストレスを一気にぶつけたのだった。

 驚いた様子の大納言はすぐに身をひいた。


 叱られ慣れてない様子だった。


「私のことは諦めてくださいませ」

「いや、ならぬ」


 大納言が威厳を取り戻して言う。

 こしゃくな。

 姫も負けなかった。


「では、持って来てくださいますか。先ほど私が口にしてものを」

「うっ」


 大納言は一瞬言葉に詰まったが続けた。


「わかった。持ってくるまで、ここで待っていろ」

 なんだとお、このくそじじい。


 大納言は御簾ごしに姫を見据えた後、部屋を出ていく。


「ああっ、もう、なんなの、あのおっさん!」

 姫は御簾に向かって扇を投げつけた。

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