第5話

 右大臣を名のるときにあの得意そうな顔。

 いやだねえ、権力者は。目の前の男、右大臣阿倍御主人を見据えながら、姫は思う。


「この日が来たことをうれしく思います」

 大袈裟な。


「私も・・・」

『私も・・・』だって。点点点ってなんだよ~。私も私だ。


「何かお願いごとがあるようですが・・・」

 右大臣は、前の二人より世代が上に見えた。


 老けてるだけなのかな。この星の男の年ってわかんないんだよね~。

 もう一度、男の顔を見てみる。


 容姿が優れていないというのは前の二人と同じようだ。


「欲しいものがありまして」

「はい、なんなりと」


「それでは・・・火鼠の裘(カワゴロモ)を」

「それは・・・」


 右大臣阿倍御主人は絶句した。

 そうだろう、そうだろう。こんな無茶なことを言う女には早く愛想つかしたほうがいいよ。


 重職に就いてんだから。こんなところで女こまそうとしてないで、仕事しろ、仕事、民のために。


 右大臣はにこりと笑って、口を開いた。


「御冗談を」

 さすがおっさん。若者とは違う対応だな。

 でも、上手く対応されても困るのよ。


 そーゆー交流がしたいわけじゃない。


「いえ、私は本気です」

 再び右大臣の顔が曇る。


 二人の間に沈黙が横たわる。

 お、重い。


 姫はうなだれた。御簾ごしの姫の様子に何かを感じたのか、右大臣が顔を引き締めて言った。


「待っていてください」


 右大臣阿倍御主人は深く頭を下げると、静かに退室する。

 はあ。姫は深く溜息をつく。

 やってらんねえ、マジ疲れる。


 姫は脇息に寄りかかりながら言った。


「いっちょあがり~。ハイ、次~」

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