第3話

 私はさっそく五人の男たちと会うことになった。

「めんどくせーなー」


 姫は扇子で口を隠しながら小さくひとりごちる。

 御簾ごしに男が現れる。


 最初の男は石作皇子と名のった。

 背は高いが節々は細い。全体から細さを感じさせる男は、顔も細長かった。


 うわっ、きつい目してんなあ、この男。


「何かお望みのものがあるとか?」


 石作皇子はもともとあがっている眉をさらにぐいとあげながら言った。


「はい」

 細く吊り上がった目がこちらを凝視している。


 こええ、まじこええ、こいつ。


「それは何でしょうか」


 力の入った低い声が部屋の隅々まで広がる。

 石作皇子の緊張が姫にも伝わった。


 この男の緊張感、半端ねえ。姫は途切れ途切れに言を発する。


「仏の、御石の鉢、で、ございます」

「それは・・・」


 絶句している。当たり前だ。

 なんだそりゃって思うよなあ。私も思うよ、言ってて。


 物語の中に出てくる絶対に手に入らないっぽい物の名前を五つ集めたんだもん、このために。


 石作皇子は一端伏せた顔をぐいっとあげた。

 相変わらず目が吊り上がっている。


 やっぱ、こええ。慣れねえ、この男。


「姫君、それは・・・」

 石作皇子の声が途切れる。場に緊張が走った。


 姫は緩めていた手のひらをぐいと握りしめた。


 怒れ。バカにするなと怒ってここを出ていけ。男だろ。がんばれ、神経質!


「何とかいたしましょう」


 はあ? 


 石作皇子は静かに立ち上がり姫の前から姿を消した。

 その動きは流れるように美しく、育ちの良さがあふれていた。


 身のこなしだけはいいな。でも、それだけじゃ愛せねーんだよなあ。


 緊張が解けた姫は扇子を小さくぱたぱたと仰ぎ、桃色に輝く頬に風を送った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る